特1 2 『金さんと特急旅行電車』
まず、現状を確認しよう。俺様は薄い新聞紙を畳もうと、前のページに手をかける。別のほうに続きが書いているはずだからだ。しかし、そこは北朝鮮の話題ではなくなっていた。ラジオも反応し・・・
男性「今、速報が入ってきました。国会で会議中の議員全員が、一斉に一瞬、意識が飛び、どよめきが走りました。会議の内容としては国債や犯罪、貧困などを無くすための話し合いだったそうですが、一ヶ月後に完全に貨幣を廃止する案に収まったそうです。」
年配男性「え?少し早すぎませんかね?~もっと考えたほうが良いのではないのでしょうか?」
男性「今後、詳しくお伝えして行こうと思います。」
年配男性「では、次のニュースです。」
国のお偉いさんは貨幣を資源として処理し、本格的な無賃社会の創成を促すはずだ。どうやら俺様にはその感覚は無いらしい。今から問題になるのは、俺様のような金に関する仕事をしている人間だ。銀行員は勿論、不動産業者や財務省まで、路頭に迷わせることになる。こいつはちゃんと考えていたのだろうか?
金「なぁ作・・・」
作「はい?」
金「これからどうするんだ?」
作「はぁ~どうしましょうか?」
金「は!?それじゃあ困るんだよ!」
この電車の車窓からは、浮いているはずなのに、翼が見える。その巨大なオレンジの翼には、左に黒く端が黄色いプロペラが付いている。と、言うことは・・・気づけば操縦士の彼女が居ない。
金「なぁ、操縦士は何処に行った?」
車掌「操縦席に座ってますよ。」
金「いや、そうだろうけど、どこの操縦席だよ。」
車掌「上のですよ。」
金「そこのハッチから行けるんだな?」
車掌「えぇ、し、しかし今は・・・」
彼女が止めようとしている声が途中であるにも関わらず、俺様は黄色い梯子を上り、ハッチを開ける。正面には黒いダッシュボードが見えるだけだったので、辺りを見渡す。右は黒い格子で、向こうは青空。左を見ると、彼女が操縦ハンドルを握っていた。彼女が俺様に気づくと、なぜか左奥に退いた。席を離れさせちまった・・・
車掌「え~目的地が定まりました~現在より、巡航~え?」
車掌のアナウンスが響く中、電車はどんどん右へ、下へ落下し始めていた。俺様たちはどんどん体が浮かび上がった。彼女を上に捉えたが、彼女の動きには驚いた。彼女はどうやら窓を蹴って、操縦ハンドルにしがみつき、綱引きのような体勢で両腕に力を入れた。よって、大した被害は起きていないと思う。
車掌「え~この電車はフィリピン行きです。所要時間は四時間分です。」
金「・・・すまなかった。」
操縦士「私も、慣れてなくてすみません。」
金「いや、そんなこと無いだろ。」
操縦士「・・・はぁ。」
金「・・・まっ、お願いするぞ。」
う~んフィリピンか~新聞も変わっているのだろうか?
ラジオはいつも通りだ。
『金果で堕ちた 白い巨塔』
フィリピン、バショウのキャベンディッシュ種を生産している、高台がある島・・・
そこでは農薬散布機がしっかり飛んでいる。しかし農薬は、質が悪いのか、しっかり撒けていない。それだけではない。農家や村人達の間で、皮膚病が流行っているのだ。
近くのクリニックで聞き込みをする。一番近いクリニックを尋ねた。しかし、門前の張り紙に、我々は足を止められた。意訳すると『医師 募集中』と書かれていた。
仕方が無く、此処はあきらめるとして、次の取材スポットにライトを当てた。此処は幸か不幸か、先前と比べて賑わっていた。取材許可をもらおうとしたが、忙しいからと断られた。
信じるか信じないかは貴方次第・・・
金「ほら見ろ!お前のせいで無職の奴が増えてるじゃないか?・・・四年後だな。四年後、どっちが社会の方向として正しいか明らかになるだろう。勝負だ・・・得穂 作。」
作「うっ、私が間違っていたのか?いや、君も現状維持で満足している人間なのか。」
金「ハッ!俺様のもう一つの仕事を忘れたのか?」
作「なっ・・・何!?」
俺様は作から目線を逸らす。
金「なぁ、この電車に二つの部屋を用意できるか?」
車掌「出来ますが、何故?」
作を捉えてキメる。
金「お前の空想を、俺様がねじ伏せてやるからよ。」
宴会車両の両サイドに、客車が追加された。俺様は進行方向から見て右に入る。奥には、上に在った翼たちと、同じ形色の翼が車窓から望める。それぐらいしかない木製の客室だ。さて・・・
これは貨幣の話だ・・・昔に発売されたゲームにこの案件にピッタシの物があったな。PPとMP。主人公の妖精の髪は俺様と同じ白髪で・・・フェアリーポイントとマジックポイントを消費する。モンスターは無限のマジックポイントを持っていて・・・ボスは緑の・・・よし、車掌の電話に繋がる電信管に、声をかける。金「なぁ、パソコンとかも出せるか?」
車掌「え~貴方のですか?」
金「そうだな。よろしく出来るか?」
車掌「そちらのゲートから抜いてきてください。」
金「いや、電気は?」
車掌「はい、こんなものですか?」
足元の壁から出てきたのは、白いコンセントだった。
金「あぁ、じゃあ、行ってくる。」
中心の電車、後方に在った扉と同じような、黄緑の光に満ちた面に触れる。痛くもかゆくも無いので、そのまま進む。あまり進まずに、足に何かが絡まって、こけそうになった。この部屋は、俺様が奴に借りている場所だ。上空から地下・・・さらに、栄盛川まで。そこに在ったのは俺様のパソコン、これ等をあっちに運べばいいんだな。