機械仕掛けの白い雪
ここは西暦四千年の日本。
読者様のいる世界から二千年後の遠未来だけど、その二千年の間になんか色々あって資源問題とか戦争とか犯罪とか、社会問題だったたくさんの問題が解決された平和になった世界で、俺はのほほんと暮らしている。
特にこの日本は全国民が【物質創造装置】というマシンを一家に一台は所持していて、それは三種の神器の一つとして数えられていて豊かさの象徴となっている。
この物質創造装置はその名前の通り、あらゆる物質を作り出せるすごい装置だ。
家庭用の場合は性能制限が設けられていて、作れるものはマシンにプログラムとして入力されている法に触れないものだけなのだが、このマシンのおかげでスイッチを押すだけでなにもない空間から資源・資材・食料・水・衣服、果てには自転車などの乗り物まで欲しいときに欲しいだけ手に入る。
この装置は百年前、歴史的にはかなり最近になって開発されたものだが、人類の生活を豊かにするには十分過ぎるくらいの代物だ。
因みに、物質創造装置……もうめんどいからプリンターでいいや。
プリンターが物質創造をするための原材料がどっから来るのかについて俺は知らん。
プリンター製造に携わっている俺の両親に聞いてみたところ宇宙のダークマターを取り込んでどうとか、エーテル界のマナからエネルギーをチャージして融合がどうとか、スケールの大きすぎる話と呪文染みた単語の連発で頭が爆発してからは一度も聞いていない。
使えるから使う。それでいいだろう。
日本はプリンター製作の最前線を独走していて、最新式のプリンターは大体日本で最初に発売される。
最新式の発売日にはみんなこぞって電気屋に列をつくって並んでる。俺なんて十四時間も待った時があった挙げ句、目の前で売り切れたことがあった。それからはネットで予約するようにした。
この生活の豊さは市民の心まで豊かにしてるのか、この星の年間犯罪率は0.1%未満を切ってるとか。
こんなに豊かな時代に生まれることができて俺は本当に幸せだと思う感想を抱く今日この頃だった。
◆
高校の入学式を終えて高校生になった次の日、俺は家でくつろいでいたら、我が家に絶世の美少女がやって来た。
「ふつつか者ですが、これからよろしくお願いします」
ぺこり、と三つ指着いて俺に何百年も昔の古風な嫁入りの挨拶をする少女の服の袖から見える手首には、バーコードらしきものが見え隠れしている。
手首に刻まれたそのバーコードはアンドロイドの商品証だ。それにはアンドロイドの個人情報といえるものが全て詰め込まれているそうで、専用の端末でスキャンすれば製造時点でのデータが読み取れる機能がある。
西暦四千年の今は、アンドロイドでも学校とかできちんとした教育を受ければ、一人の社会人として全うに生きていけるように法改正がなされているが、アンドロイド誕生当初の三千年代では、人間の仕事を奪うだの、アンドロイドにも人権をとかで大きなトラブルがあったと歴史の教科書にも載っていた。
三千百代年にはアンドロイドと人間の間で戦争が始まったが、アンドロイドと人間の英雄の活躍で和平を結ぶことになったと書かれてたが、戦時中になにがあったのかはほとんど記録に残っていなかったとかであまり詳しくは書かれていなかった。
今の時代では貴重品となったアンドロイドの実物なんてテレビでしか見たことなかったけど、近くで見ると肌も目も髪も本当の生身の人間と同じに見える。
家庭用アンドロイドに使われる人工皮膚は、本物の人間と区別できないほど精巧という話は本当らしい。
しかし、どうしてこんなアンドロイドが家に来たんだ?
状況が飲み込めずに反応に困っている俺の様子を、彼女は不思議そうに首を傾げて見守っている。
視覚カメラとなっているその青い瞳には、カメラレンズの保護機能があるらしいが、あいにく俺はアンドロイド工学については毎回E判定だ。
どうして彼女が俺の家に来たのか。
少し時間を巻き戻さないといけないな。
◆
その日、俺はすることもなかったので部屋で古代の文献にある人物たちのイラストを描いていた。マンガと呼ばれるものらしい。
ピンポーン。
「ん? こんな時間に誰だろう?」
急にインターホンが鳴って外に出たら雨の降る中、傘も指していなかった女の子が立ってた。
そして、開口一番にこう言った。
「佐藤明様のご住所はここで合ってますか?」
俺は「ここです、合ってます」と答えた。
その間にも女の子は春先の、まだ冬の寒さの残る雨にうたれてて寒そうだった。
見ていられず、
「体冷えるよ? 服も濡れてるし、中入りなよ」
と言って家に上げて風呂にまで入れてしまった。
女の子の着てた服はずぶ濡れだったので洗濯機に突っ込んでおいた。
ボタンを押せば服を洗って乾燥して折り畳み、下着上着ズボンジャケットと、種類ごとの分別まで自動で終わらせてくれる。染み抜きはもちろん、穴や綻びなどがあればそれすら自動で修繕してくれるすごいやつだ。
この一連の流れにかかる時間は服の状態にもよるが、大体二十分程度。
最新式のは平均で十分を切るとか。
すごいね文明。
で、アンドロイドの女の子が風呂から上がると最初の一言で「ふつつか者」発言だ。
正直、展開が急すぎてワケわからん。
「君はどうして俺の家に来たの?」
「あ、申し遅れました! わたし、家庭用アンドロイド製品コードY-1066541番 個体名【白雪】と申します。あなたのご両親があなたの入学祝いのプレゼントとして特別にオーダーされた、あなただけの特別個体の家庭用アンドロイドです!」
ドヤァ!
『特別な』の部分でキリッとし、『です!』のとこで効果音が聴こえそうなほど渾身のドヤ顔をかますアンドロイドもとい、白雪。
見た目はアルビノ美白美少女なだけに、様になってるのが腹立つほどかわいい。
「俺の父ちゃんと母ちゃんがか? 特注のアンドロイドって量産品と比べて何十倍も高いって聞いたぞ? よく代金払えたな」
「え? わたしの代金、あなた名義のローンですよ?」
「へ?」
「へ?」
「それ証拠ある?」
「はいこれ領収証です」
白雪がアンドロイド腕に取り付けられたコンソールをあれこれ操作、白雪の領収証とその他の今後のローンについての電脳書類を立体ホログラムで表示する。
説明しよう!
立体ホログラムには実物と変わらない質感と重量があり、にも関わらず重力の影響を一切受けず、そしてホログラムなのでいかなる環境下でも品質劣化をおこさないという性質を持ったホログラムの最先端をいく代物なのだ!
これはもう、本物と変わらないぞ!
そしてローンの話も本物だった!
はっはっは! 泣゛き゛た゛い゛!
「いかがされました?」
「いや……高校の入学祝いでローン押しつけるクソみてぇな親がどこの世界にいんだよって思ってさ……はははっ。 笑えるぜ」
電脳書類を床に叩きつける。
フローリングの床なら紙切れごときの質量と材質で傷なんかつかないから安心して叩きつけてOKだ。
仮に傷がついてもハウス用ナノマシンユニットの自動修復機能が直してくれる。
「あなた名義のローンですが、支払いはあなたのご両親がされるそうですよ。 元気出してください、ご主人様」
「そいつを聞いて安心したぜ。 あと、ご主人様は止めてくれ。 俺の趣味だと思われるだろ」
「でもわたしはあなた専用のメイドさんですって!ご両親がおっしゃっていましたよ!」
あの両親めが……! でもちょっと嬉しい自分が憎いわ!
男なら自分専用の美少女メイドとか一度は妄想するからな。
メイド服もプリンターを使えば調達できるしな。
「では、早速ですがご主人様! わたしにごはんをください! 生まれてからなにも食べずにここにきたのでもうお腹がペコペコなんです!」
どこの世界に主人に頼み事するメイドがおんねん。
「え、アンドロイドの飯とか知らないんだけど俺。 電気とかか? 充電器持ってる?」
「なにを仰っているんですか。 電力はロボットさんのごはんですよ! アンドロイドのごはんは人間さんと同じ普通のごはんです!」
「機械仕掛けなら栄養必要ないだろ」
「ご主人様ってアンドロイドの常識もご存知ないのですね……」
呆れたような目でジトーっと俺を見てくる白雪。
止めてくれ。それは俺に効く。
プリンターから生成した黒いスーツに一瞬で着替えた白雪は伊達眼鏡までして女教師風な出で立ちになっていた。
ご丁寧にホワイトボードと立体ホロの資料まで用意してる。
「いいですか? アンドロイドとロボットの違いは、より人間に近いかどうかなんです。 アンドロイドは有機パーツとナノマシンを使うことで人間の身体構造、生理機能を忠実に再現しているのです。 ご飯を食べてバイオ燃料に変えられるし、病気にだってなります。 搭載AIも人間の脳をモデルにしてニューロンが配置されているので個体ごとに個性があり、独立した自我や人格もあります。 物忘れだってするのっデス!」
またドヤ顔かました。物忘れをするのはドヤるとこじゃないだろ。こいつポンコツくさいな。
だがおかげで完璧に理解した。
アンドロイドの造りは人間に近いということがな!
「因みに、アンドロイドの顔と声は社会に馴染めるように人に好かれやすいようにデザインされています」
「うん、それは知ってた」
「では、わたしの場合、ご主人様の好みに合わせているのでしょうか?」
「それはどうかな? あとご主人様は止めて」
「ではアキラと呼べばいいですか?」
「アキラで頼む。 これからよろしくな、白雪」
アンドロイドの女の子は、最高の笑顔ではにかんで言った。
「ではアキラ、ごはんをくださいっ!」
「自分、連載版も読みたいよ」という方はどうかコメントかDM、ポイントなどで応援という燃料をください!
お願いします、なんでもしますから!