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黒白の巫  作者: ねをんゆう
第2.5章【愛執男】
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8.騒がしい友人

【磯撫で(いそなで)】


「……痛い」


飛んできた瓦礫の破片が頬を掠める。

いくら感覚を強化しているからと言っても、これだけの瓦礫片を飛ばされてしまうとどうしようもない。

点灯数は2……本能的に地形を理解している様な仕草を見る限り、最近成ったばかりの地元住民と言ったところだろうか。

精神が弱かったのか既に完全に乗っ取られており、点灯数2でも3と変わらないほどの力を発揮しているのが厄介だ。点灯数3以上の相手は今の私では大抵苦戦してしまうからである。


『ニク……ニク……ニク、クイタイ……ニグ、グイダ……ニグゥゥゥ!!』


どうもここ最近、(かんなぎ)の出現頻度が高くなっている気がする。(かんなぎ)というのは、言わずもがなこの化け物達の総称である。自分自身も含めて。

普段は3ヶ月に1匹くらいの頻度でしか見ない様な彼等が、今月はもうこれで3匹目だ。

しかも蜘蛛型に関しては数日前のあれ以降、目撃情報の1つも掴めていない。

このペースでは一度でも大怪我してしまえば処理に手が回らなくなるが、そもそも大怪我前提で戦っているのだから本当に数で来られると困るというか何というか。


「全く、保険のせいで援護を受けられないのは本末転倒だろうに……」


しかもその"保険"を使って仕舞えば確実に病院送りというオマケ付きだ、ふざけてるだろうこれ考えた奴。

私も何かもっと凄くて便利な能力が欲しい!

そんな本音を心の中で叫んでいると、まるでそれに呼応するかの様にしてバケモノも騒ぎ出す。


『ニグゥゥゥ!!!!』


「ああもう!うっさい!!」


『グガァァァァッッ!!』


ガシャァァン!

ズガシャァンッ!!

ガタンッガタンッ!


口を開けたまま電柱に突撃し、そのまま電柱の息の根でも止めようとしているのかデスロール。最早喧しいとかいうレベルの話ではない。

切れた電線と回る電柱のおかげで一帯がエラい事になっている。周囲の家は漏れ無く停電し、駐車場は飛び散るコンクリート片と火花で滅茶苦茶だ。

住民達も何が起こったのかと起きてくるかもしれないが、この有様では外に出て来ようなどという事はしないだろう。窓から覗き込まれる事はあるかもしれないが、まあ暗闇で顔が見られなければそれでいい。


『グルファァアっ!!!!』


「………」


そもそもこれはワニ型かサメ型なのか、イマイチ微妙な線なのだが、人型を若干残しているので魚人と言う表現が正しいのだろうか。

その肌は硬い皮膚に覆われ、手と足はワニを思わせるが、尾の様に伸びるソレと顔面はサメに近い。しかしそのサメの様な部分にも棘の様なモノがビッシリと付いており、とりわけ尾ビレにはサソリを思い起こす様な特大の針が付いている。

それでもそんな針を無視してとにかく噛み付いて来るのは、正気を失っているが故の行動なのだろう。


『グルルァァアッガッ、ガッ!?ガフッ、グフッ!?……ブルルルァァッッ!!!』


「いや、今のは完全に自業自得だろう……」


コンクリート片でむせて逆ギレしてきた。

壊れた獣なら簡単に倒せそうではあるのだが、こいつの真骨頂はその硬い皮膚でも強力な顎でも鋭い針でもない。


周囲に纏う水塊だ。

これがある限り奴は空中を自在に泳ぎ、移動速度は時速100kmを超え(多分)、掴んだ相手を確実に溺死させ、火器を始めとしたあらゆる物理攻撃が軽減される。

そしてそれはつまり、


「肉弾戦しか能の無い私にとっては最悪の相性ということか、分かりたくもないっ……!」


その場から即座に飛び退き、敵の衝突と共に弾けた水飛沫が顔にかかるのを拭う。

動体視力と反射神経が跳ね上がっているおかげで簡単には捕まらない事だけが幸いか。

しかしこれではジリ貧だ。


「……撤退するしかないな。爆弾なりなんなりであれを吹き飛ばさないと話にならない」


逆に言えばアレさえ吹き飛ばせればただの魚人だ。

ただの魚人という表現もよく分からないが、相手をするのは容易い。

それでも今優先すべきは自分の安全、安全な撤退。

周辺に多少の被害は出るだろうが、長期的に見れば少なくて済む。

今は何としてでもここから逃げ出す方法を……


『友よ!これを使え!』


「!?」


突如として飛来して来た物体を、反射的に掴み取る。

騒がしい火花の音すら貫く様な大きく響き渡る声。

そしてそれと同時に受け取ったそれは、何かの液体に濡れた、真四角の白い物体。

……どこかで見た事がある気がする。

具体的には理科の実験室倉庫とかその辺りで。


『金属ナトリウムだ!!』


「バカか君はっ!私だって少し濡れてるのに危ないだろ!……このっ!!」


慌てて敵に投げ付ける。

そして一方で敵の魚人はそれを餌か何かかと思ったのか、こちらが慌てるあまり少し上の方に投げてしまった金属ナトリウムを勢いよく上に跳ね上がりキャッチした。

激しい光と音を立てて水塊が破裂する。

あまりの爆発に耳と目を塞ぐ。

それもそうだ、掌より大きな金属ナトリウムなど、本来なら湖くらい広い場所で爆発させなければいけない程の過剰な量だなのだから。

その為、反応しきれず衝撃で弾き出された欠片が同時に弾き出された液体に反応し、爆発、爆発、爆発、まるで爆竹でも投げ込んだかの様な様を引き起こしている。

というか危な過ぎて私自身も車の影に隠れていないと怪我してしまいそうだ、そのまま身を隠すようにして蹲る。


『「クハハ!醜い見た目の割に咲かせるではな…ァッツイ!!」


「何をしてるんだあいつは……」


塀の上で仁王立ちなどしているからそうなるのだ、高い所を好む習性はまだ治っていなかったらしい。

そんなバカにはダメージを与えられた事は確認できたが、はてさて肝心の敵の水塊は……


「……ふむ、自動生成型か。それとも転移させているのか。いずれにせよ、やはり多少の爆発程度ではあの水塊を取り除くには至らぬ様だな!だがダメージはあったようだぞ!友よ!」


確かに。水塊は吹き飛ばされた直後に再生したものの、本体は頭部への衝撃と閃光で意識が朦朧としている様に見える。逃げ出すのなら今だろう。


「……ところで、どうして君がここにいるんだ?今は和歌山に居ると聞いていたんだが」


「私の友人に会いたくなったからだ!会いたかったぞ!会いに来たぞ!5分で!」


「……相変わらず君は気持ち悪いな、全く」


悪い気はしないけれど。


ニッと白い歯を見せて快活に笑う彼は以前よりまた背が伸びたのか、見上げていると首が痛くなる。

彼は余計な嘘などつかないし、恐らく本当に私に会いに来る為にここまで来たのだろう。

本当にバカな奴だと思う。

そんなバカも嫌いでは無いけれど。


「……まあ、とりあえずは助かった。このまま移動を頼んでもいいか?」


「当然だ、私がここに来たのはその為でもあるのだからな!」


「その為?」


「彼女からの依頼だ!逃走手段が必要だったのだろう?」


「なるほど」


言葉には出してみるものだ。


「さあ、()くぞ!」


「……なぜお姫様抱っこ?」


「行くぞ!!」


「もう勝手にしてくれ……」


そうして彼のひと踏み目で、私は酔った。

本当に、彼の能力のこの感覚だけはいつまでたっても慣れやしない……


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