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黒白の巫  作者: ねをんゆう
第4章 【鬼恋殺】
25/25

25.南先生は忙しい


「先輩先輩!お昼ご飯!食べましょう!」


「すまない」


「即拒否!?」


出会って3秒で振られた私、この手に収まるお弁当箱をその場の勢いで窓から放り投げそうになってしまった。

杏先輩のお誘いもあって2人と一緒に食事ができるのかと自分の教室内でも奇妙に思われるほど機嫌が良かったのにこれである。

そんなに私が笑顔でいるのが珍しいか、いや確かに先輩達といる時が一番楽しいから仕方のないことではあるのだけれど。


「なんで一緒に食べてくれないんですかぁ……」


「あーいや、私は昼食は他の場所で食べることにしててな……?」


「だったら連れてってくれてもいいじゃないですかぁ……」


「悪いなこなみ、その場所は1人用なんだ。」


「トイレの個室ででも食べてるんですか……?」


どうにも先輩の様子はおかしい。隠し事をしているのは間違いないのだけれど、食べる物を持っているという事は食事をしに行くことに間違いはないらしい。

……まさか、「他の女!?または男!?」


「殴られたいのか?」


「はっ!口から出まかせが!」


「咄嗟にその言葉が出てくるのもなかなかなものだな……一応言っておくが、そんなんじゃないからな。」


冷ややかな目で私を見る先輩、けれど杏先輩では無いけれどぶっちゃけ先輩に男であろうと女であろうと無闇矢鱈に寄せ付けたくないのだ。

先輩に恋人が出来るなら私と杏先輩の2:1で3時間くらい話し合いの場が必要だ。


そんな事を考えていると机の片付けを終えた杏先輩が苦笑しながらこちらへやって来る。

この人のこんな顔も最近ようやく見せてくれるようになった貴重なものだ。


「こなみ、諦めときなさい。どこに行ってるのか私にも教えてくれないんだから。」


「あれ、もしかして杏先輩も知らないんですか?」


「まあね」


そんな私達から逃げる様に先輩はコソコソと教室を出て行く。

先輩のことで杏先輩が知らないことがあるなんて思わなかった、とは思わない。

どうせどこへ行っているのかなんて、とうに調べはついてて、問題がないと判断されたから放置されているだけなのだと今の私には分かる。


それより意外なのはあの先輩が杏先輩に隠し事をしている、という方だ。

きっと隠さなければいけない大切な用事なのだろうけれど、お昼ご飯を持って行くという緩さも感じられる事から私には見当もつかない。

それとももしかして私が知らないだけで、先輩は結構隠し事するタイプなのだろうか。

杏先輩相手に隠す意味など無いに等しいのに一体なぜ……


「杏先輩……?」


「知りたいなら自分で調べること。もちろん、優に迷惑をかけない範囲でね。」


「……ですよね。」


これが杏先輩の私への基本スタイルである。

重要度の高いことは直ぐに教えてくれるが、そうでないことは彼女は基本的には教えてくれない。機材も貸してくれるし、調べるための知識も与えてくれる。

だから機会を拾って経験をして、早く成長しろということだ。


彼女が言うに私に足りていないのは、知識と積極性、情報処理能力だそうだ。

知識は本を読めば最低限は身につく、処理能力は杏先輩の手伝いをすれば身につく、けれど積極性はどうにもならないから自分で身につけろ、と言われた。


そう、つまり杏先輩が今日こうして私をこの時間に呼び出したのは積極性を身につける機会を与えるためだと私は考える。

確かに今回の件については私も気になるし、先輩のこととなれば尚更だ。

例えどんな面倒な手段が必要でも知りたい、あわよくば先輩を狙う不埒な輩を吊るし上げてボコボコにしたい。


「……その件については南先生が熱心に関わってるみたいだから、できるだけバレない様にね。あとくれぐれも騒ぎを起こさないこと、そこまで変な事はしないと思うけど一応忠告ね。」


「はい!頑張ります!」


私の心は燃えたぎっていた。






一方その頃、そのまた一方がどこのどちら様なのかはさておき、私は再び南先生に呼び出されていた。

ついこの間、突然『今日からあの子に会いに行くのはそう頻繁でなくてもいい』と心変わりし、加えて今目の前にいる彼女はどこか申し訳なさそうな顔をしていたりと最近の南先生は完全にどこかおかしい。


「あー、えーとだな。病み上がりで且つ私含めた教師陣の願いを聞き入れてくれている上に、更に私が軽率に頼んだ依頼のせいで色々と迷惑をかけてしまった手前でもう本当に言いにくいんだが……力を貸して欲しい……」


そう言って真面目に頭を下げる彼女にいつものおふざけは無い。

ああ、これは多分杏に何か言われたんだろうなと思った。そうなると杏は毎度昼休みに私がどこへ行っているのか勿論知っているのだろうし、その上で私に追加の仕事を振ってきた先生にそこそこ酷い事を言ったのだろう。

頻度を下げてもいい、というのはそういう条件で杏と話がついた+他の教師陣を説得するのにそこそこ大変だったのだろうと思うと同情する。

まあ病弱という設定の私にあれだけ多くを振って来たのだから同情はしても慰めはしないが……


「いや、ここ最近は君に多くを望み過ぎてしまっていたからな……つい先日、君の保護者と生徒会長に生徒会室で説教を食らった。」


「あー……それは、大変でしたでしょう」


「まさかこの歳になって1時間以上缶詰状態で説教を食らうことになるとは思わなかった……しかも自分の生徒達から……うぅ……」


生徒会長まで使ったということは今回は杏も本気だったのだろう。

犬猿の仲ではあるが、正直この2人を敵に回すなどヤクザを敵に回すより恐ろしい。

2人が職員室へ乗り込んで来た時の光景が目に浮かぶ。


「えっと……それで反省した先生でしたが、どうしても私の力を借りなければならない事態が起きてしまい、今正に土下座をする勢いで私に頼み込みをしている、と。そういう解釈でいいですか?」


「そうなんだよ!ぶっちゃけこうして君と話しているだけでも、いつあの2人が乗り込んで来るか分からないから怖いんだよ!頼むから君からも説得してくれ……!」


「先生、あなた仮にも彼等の教師でしょう……」


気持ちはわかるが。


「まあ分かりました。受けるかどうかは話を聞いてからですが、話だけはお聞きしましょう。」


これだけ惨めな先生を放っておいて谷底へ突き落とすほど私も鬼ではない。

それに、もしかしたら、ということもある。

前回はそれで見事にビンゴだったのだし、とりあえず話だけは聞いておきたいという思いもあった。

こなみの件が何事もなく収まったのは依頼を私に振った南先生の手柄でもあるのだ。

結果論だが、こなみに代わってその礼くらいはしておきたい。


「ありがとう……その、実はだな。一言で言ってしまえば、うちのクラスにイジメが発生する。という旨のメールが1週間前に私のスマホに届いたんだ。」


「発生、する?過去形でも現在進行形でもなく?未来形じみてますけど……」


「そうなんだ。まあ普通ならイタズラか何かだと思うんだが、どうにもその内容が詳しくてな……」


「犯行予告ではないか、と。」


「そういうことだ。とりあえずほら、これを見てくれ。」


そう言ってスマホを私に差し出す先生。

今時メールなど会員登録やメルマガくらいにしか使用用途のないものだが、受信欄に『生意気ショタに求められたい貴方に』というモノが見えたような気がしたのはさておき、数々の如何わしい受信欄の中に一通だけ、どこか奇妙なメールが存在していた。


差出人:nikonikomail@iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii

件名:貴方の災難

12:34

本文:志乃綾香さん(17)がトイレに閉じ込められる等の被害を頻繁に受けていた事が判明した。

担当教諭が事実に気付いた時には既に手遅れであり、綾香さんは自宅で首を吊って亡くなっていたという。学校側はクラス内での変化に気付くことができなかった事を問題とし、注意喚起をすると共に担当教諭を解雇すると述べた。



「……ニコニコメール。」


「書いてあることは物騒だけどな。」


「いや、これ気持ち悪いですね。ほんとに。」


確かに志乃綾香という人物はうちのクラスに確かに存在しているし、この担当教諭とは確実に彼女、つまりこのメールを受け取った南先生を指している。

メールアドレスも@以降が気持ちの悪いことになっているし、機械にはあまり詳しくはないけれど、私でもこのメールが良くないものであることは分かる。

実際に起きる可能性も十分頭に入れていいレベルだ、少なくとも異常な力が働いている可能性も考慮していい。


「……先生、これは私の力だけでは多分解決できません。杏を頼りましょう。」


「え"」


なんだその声は。


「いや、私は正直な話、自分のクラスの内情についてあまり詳しくありません。それに特別発言力を持っている訳でもありませんし、なによりこういう場合の対策を練られるほど優秀な頭も持っていません。彼女が適任です。」


「だ、だがなぁ……」


「……もしかして、最初から杏に相談すること自体は頭にあったけれど、怖かったから私に相談してる、なんてことはないですよね?」


「………」


「………へたれ」


「うぐっ」


たまには格好いいところもあるのに、こういう時にはすーぐへたれる。

それも先生の魅力の1つにはなるけれども、今回はへたれて良い場面じゃないだろうに。

クビになる事と天秤にかけても杏に説教されるのが嫌なのかこの人は……いや、分からなくもないけど。


「……はぁ、分かりましたよ。出来る限りは私の力でやってみます、結局力を借りる事にはなりそうですが。とりあえず志乃綾香さんについて教えてもらえます?やれるだけのことはやってみますので。」


「ほ、ほんとうか!」


「急に元気になりましたね、どんだけ杏に聞くのが嫌だったんですか。

……まあ私の制服には盗聴器が仕込まれてて、一応プライベートは守ると約束はしてますが、多分杏は聞いてますから意味ないんですけどね。」


「それじゃあ何の意味も無いじゃないかぁ!!」


一気に絶望の淵へ叩き落とされた様な顔になった。これが見たかったのだけど予想以上にいい反応をしてくれる。


「君も盗聴器仕込まれてる事を疑問に思いたまえ!」


「まあ、裏で色々と手伝ってはくれますし、私が助けを求めない限り彼女は知らないふりをしてくれますから。その辺りは合意の上ですよ。」


「……そうなのか?つまり私が叱られる可能性も?」


「8割くらいですかね。私の知らない所で何かする分には彼女の勝手ですし。」


「やっぱり何の意味も無いじゃないかぁぁ!!」


「クビになるよりマシだと思いましょう。」


「ぁぁぁあああ……」


……段々と楽しくなってきた自分も居て、ちょっと意地悪を言ってしまう。これだけ反省しているのだから杏だって嫌みは言っても怒りはしないはずだけれど、それを伝えないのも楽しさだ。


……楽しさといえばもう一つ。


「こなみ、そんな所で立ち聞きしてるなら入ってきてもかまわないよ。」


そう一声かけると扉一枚外でバタバタと音がした。大方メモ帳とシャーペンでも落としたのだろうか、なんとも典型的な驚き方をするものだと思う。


「な、な、なんでバレたんですか!?」


バンっと勢いよく放たれた扉から現れたのはやはり私のよく知っている後輩だった。

この感じでいくと、いつから私のことをつけていたのか……別に私はその辺り鋭くは無いのだけれど、杏が見込むだけあって優秀だ。


「次からメモを取る時はスマホにしとくといい、書いてる音が聞こえてきた。あと尾行対象の言動にいちいち反応するな、『え!?』とか声が聞こえてたぞ。」


「うぁぁ、なんでそんな小さな音が聞き取れるんですかぁ……」


「偶然と、ちょっとしたズル……だな。」


ズルというか暴発した様にいつのまにか出現した石輪のせいで面談中に感覚が強化されてしまい気付いただけなのだが……

まあ尾行だけなら問題は無いけれど、やはり杏ならもっと上手くやっていたと思うのでアドバイスも兼ねて。どうせこれも杏の差し金だろうし、杏が私に求めていたのもそういうことだろうとも思う。


「夕暮さん、もしかして今の会話全部聞かれてたかな?」


「あ、えっと……すみません、ちょっと他に気になることがあったんですけど」


「偶然聞いちゃったか」


「………すみません」


「ああいや、構わないよ。周りに話されるのは流石に困るが、君ならそんなことはしないだろう。」


「まあそうですね、それは私も保証します。うちの自慢の後輩ですから。」


「先輩……」


あの杏が溺愛するほどの少女なのだ、それだけでも下手に評判の良い人間なんかよりも信用できる要素は強い。

……多分溺愛してるのは私もなのだけれど。


「よし、丁度いい。こなみも手伝ってくれ。」


「へ?私もですか!?」


「杏みたいになりたいんだろう?良い経験になると思う。今回は頭脳戦的側面が強そうだし、私も協力者は多い方がいい。いいですよね?先生?」


「ん?ああ、もちろん構わない。噂によれば彼女はあの時雨杏のお気に入りなんだろう?彼女の知り合いは変人ばかりだが、揃って優秀な人材だ。そこは心配していない。」


よく知っていらっしゃる。


「とりあえず志乃綾香さんについて資料にでも纏めてまた後日下さい。今更個人情報がどうこう言わないで下さいね?杏に聞けば分かることですし、その場合は完全な協力者として杏は心置きなく先生に文句を言える立場になるんですから。」


「くそぅ、くそぅ、逃げ場がない……」


そんな形で復帰早々におかしな事に巻き込まれる事となってしまった。まあ、今回はこなみも居ることだし、ぶっちゃけ杏にも筒抜けだろうから心配は無いと思う。

……嫌な力を持つ相手じゃなければ、だけれど。


ちなみにこの後メールで「こなみのことよろしく。」と来ていたのに気付いた。もはや盗聴する必要もないんじゃないかと思ってしまった。


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