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黒白の巫  作者: ねをんゆう
第4章 【鬼恋殺】
24/25

24.眩しい夕暮れ


放課後、校門近くで人を待つ。

1日の疲れで固くなった身体を伸ばしながらメールを確認すれば、「3分おくれます!」と如何にも急いで打ち込んだ様な文字が表示されていた。

別に数分の遅れくらい気にしなくても良いのだから急ぐ必要はないのだけれど、後方から走ってくる姿を見ればかなり焦っているのが分かる。転ばなければ良いのだが……


「先輩、遅れましっ……!?」


「ああもう知ってた!」


カシャンッ


私の貧弱な身体では勢いのついた彼女を受け止めきれないので身体強化をして滑り込んだ。色々とあるけれど、こういう時は本当に便利だ。

……完全に押し倒されている形になってしまったが、この最終下校30分前の時間は人気も少ないので大丈夫だろう。


「あっ!ご、ごめんなさい先輩!」


「いや、気にするな。怪我されても困るからな。というか時間ならあるのだから、そう急ぐ必要も無いだろうに。」


「えっと、図書館で本読んでて、気付いたら時間になってて……ほんとは5分前にはここにいるつもりだったので焦っちゃって……」


「気持ちは嬉しいが、怪我をされると私が困るからな。ほら、そろそろ自分で立て。周りの目線が痛い。」


「えー、このまま連れてって下さいよ。意外とこの体勢心地いいので。」


「無茶を言うな、体格差を考えろ体格差を。」


「先輩って良い匂いしますよね。」


「やめろ!離れろ!なんか恥ずかしい!」


「えー、せっかくの機会なのにぃ……」


いつの間にか耳裏辺りまで到達していた彼女を無理矢理引き離すも、結局その代わり髪を触る条件を飲み込まされた。全く意味が分からないが、匂いを嗅がれるよりはマシである。


歩きながら嬉しそうに私の髪を弄ぶこなみ。

彼女が私の髪を好んでくれているのは知っていたが、こうなるとやはり少し照れ臭い。

何がどうしてそうなったのか、杏に事実上の弟子入りの様な形になった彼女は私の入院中もしばしば来てくれていたのだが、日に日にスキンシップが増して私に対する扱いも杏に似てきている節がある。

同時に、以前よりも明るくなっている気もするので悪影響では無いと思うのだが、そうは言っても……


「先輩先輩、先輩はどんな下着着けてるんですか?」


「んぐっ!?」


危うくペットボトルから飲んでいたお茶を吹き出しかけた。


「大丈夫ですか先輩?」


「大丈夫に見えるか……お前それ普通にセクハラだぞ。」


「でもでもですよ、先輩って一応男子生徒用のブレザーを着てるのに全く似合ってないじゃないですか?」


「悪かったな、似合ってなくて。」


「私としてはスカートとカーディガンを着せたいところですよ。それでですね、杏先輩は定期的に先輩のこと女装させてるんですよね?」


「………」


「……いや、黙っても無駄ですよ?杏先輩に写真見せてもらったので。」


「絶対許さない!絶対にだ!!」


あれほど誰にも見せるなと言ってきかせたのに簡単に約束を破りおった!!あいつはそういう所がある!見せる相手を選んでいるのはいいけど、そもそも見せるなと言っているのに!!


「まあまあ、部屋に飾りたくなるくらい可愛かったですよ?」


「そういう問題じゃない……」


恥ずかし過ぎてまともに顔も見れない。

私の肌は直ぐに赤くなるから、きっとバレバレなのが余計に恥ずかしい。


「それで、先輩おしゃれとか興味無さそうですから私服も多分杏先輩任せですよね?だったらもしかしたら下着とかも杏先輩が選んでるのかな〜と思って。」


「……杏は別に男性用下着を買うのに躊躇う様な人間じゃn「私が杏先輩だったら下着から私服まで全部女性用で揃えますよね、ズボンとか絶対買いませんよ。」


「君達は本当に仲が良いな!」


どうしたらそこまで完全に思考をシンクロさせることができるのか。ご想像の通り私のクローゼットにはスカートかワンピしか入っていないしズボンも制服の一枚しかない!


「ってことは下着も!」


「キャミソールだが!?」


「よしっ!!」


「よしじゃないが!?」


記憶にある限り男性用下着を着用した事もなければ、そもそも男性用下着が存在するという事を知ったのがここ1.2年なので、ぶっちゃけ何の違和感も無く着用できている。

ただ夏の薄着の時期などに少し脱げば女性用下着を着ているのがバレてしまうのが死ぬほど恥ずかしい。

基本厚着なのでそうそう頻度は高くないし、バレた所で何か言われる事もないのだが……


「ちなみに下の下着はどうなんです?」


「…………」


「先輩……ちょっと今日先輩の部屋行かせてもらいますね。」


「なぜだ!!」


「大丈夫ですって、寝る時は杏先輩のお部屋に戻りますし。」


「ほんとに仲良いんだな……」


正直ここまで彼女と杏が仲良くなるとは思わなかった。

杏は基本的に女友達を作るタイプではないし、唯一喋る一部の人間達も捻くれ者達なので余計に意外だったのだ。


「杏とは……」


「はい?」


「仲良くしてくれてるみたいだな。」


「はぁ……」


私の髪を触るの手を止めてキョトンとした表情で私を見る。

それは一体、何に対する不思議顔なのか。


「そう……ですね、良くして貰ってます。最初に会った時は凄く冷たくて、ほんとに道端の石ころみたいな扱いされてたんですけど。」


「お、おお……」


なんとなく想像はできる。


「でもですね、先輩が大怪我した時に私何もできなくて……そんな自分の無力さとか、先輩の力になりたいとか、そういうことを話したら私を見る杏先輩の目を少しは変えてくれました。」


「……それは初耳だ。」


「だって本人の前でこんな事言うので恥ずかしいじゃないですか、今も死ぬほど恥ずかしいですし。」


そう言って少しだけ俯いて再び私の髪を弄り始める彼女の姿はどこか愛おしい。

なるほど、こういう目をされたくなかったんだなと思いつつもこればかりは仕方がない。

自分を慕ってくれる後輩など始めてなのだからより嬉しいのだ。


「で、ですよ。そんな私の言葉でも最初は少し疑ってたのか渋々世話をする、って感じだったんですけど、先輩の萌えポイントとか話すうちに段々と盛り上がりましてね。」


「何を話しているんだ君達は……」


「そしたらいつの間にか凄く仲良くさせて貰える様になりました。先輩は知らないと思いますけど、私放課後は基本的に杏先輩のお家に居るんですよ?お泊まりとか、お料理とかも教えて貰ってます。」


「そ、そうなのか。道理で最近杏の機嫌も良かったのか……」


自分の知らないところで見知った人間達が一つの文化圏を築いていた事に驚きだ。

自分で言うのもなんだが、私を愛でるという分野でなら確かに杏がこなみと仲良くできるのはわかる気もする。

こなみが私に執着するのも根底にあるのは性別や恋愛ではなく、容姿や内面だというのも大きいのだろう。

……まあ、それでも、


「杏に後輩ができるのはいいことだ。今までそういうのはなかなか居なかったしな。」


「そうなんです?」


「ああ、知り合い程度なら居るんだがプライベートまで持ち込むのは珍しい。だから2人が仲良くしてくれると私も嬉しい。あれは私に劣らず1人で溜め込むタイプだから、しっかり見てやって欲しい。」


「一番溜め込む人が何言ってるんですか。勘違いしてるようですけど、私と杏先輩で先輩のこと見張るんですからね?杏先輩は結構上手いこと発散してるんですよ。」


「おおう……」


ぐうの音も出ない。


「杏先輩から話は聞きましたけど、普段からかなり滅茶苦茶してるそうですね先輩?」


「い、いや、そんなことは……」


反論もできない。


「無茶して杏先輩のこと困らせる様なら、容赦なく柱に縛り付けますからね。」


「あっはい。」


これはあれだ、1対1から1対2になったことでかなり不利になった気がする。

杏側の発言力が強くなったというか……


「それに……無理を承知ではあるんですけど、私ももう包帯だらけで病院のベッドに横たわる先輩の姿なんて見たくないんです……」


「こなみ……」


「私血とか視界に入れたくない人間なので。」


「こなみぃ……」


まあ、色々あったけれど、結果的に彼女も友人の1人と呼んでもいいくらいにはなったと思う。

というか、あれだけの経験をしてなお私達に付き合い、加えて杏に教えを請うくらいだ。これで友人という関係だと言わなければバチが当たるだろうし、私自身彼女とのこういったなんでもない会話が好きなのだから満更でもない。色々と酷い扱いを(私に)することはあれど、心底では私達なんかのことを敬ってくれる子なのだからとても可愛げがあるし、杏が特別彼女を可愛がる理由もそういう所にあるのだろう。


今まで作ってきた大人しめで可愛らしくて、守りがいのある美少女という仮面を捨て去り、立場構わず物事を言い、気に入った人間以外に高圧的な彼女の姿は、幻想を抱き続けていた男子生徒達からは大層不満が噴出したらしい。

しかし反面、誰にも媚を売らず男が近寄らなくなった彼女は、一部の生徒達には好評らしく、杏や私と仲が良いという噂のおかげで孤独というほどではなくなったらしい。


最初から素を出していてもこうはならなかっただろう。

あれほど怖い思いをし、杏という存在を認識し、世の中にあんな化物が存在しているという知識が彼女の視野を広げて今の彼女を作り出している。

人に嫌われる事に恐怖し、孤独を拒否していた彼女はもういない。

もちろん、なりたいとは思っていないはずだが、それでも彼女は成長したのだ。


一方で今回の一件でも何の成長もしない自分のなんと小さなことか。

お世話になった教師をこの手で殺めるという大罪を犯したのにもかかわらず、私の心に特に大きな変化はない。

だから少しだけ、目の前の笑顔の少女が羨ましかったりもするのだ。

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