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黒白の巫  作者: ねをんゆう
第4章 【鬼恋殺】
22/25

22.何十回目の入院明け



「みっちぃぃぃぃ!!」


「!?」


ぱぁんっ!



朝の8時30分、入院明けの久しぶりの学校は杏と一緒に登校するため少し遅めに家を出た。

そうして教室まで歩いていた最中、私を見つけた南先生が廊下を猛ダッシュし、杏が近くにあった用紙を丸めてしばき倒したのが現状である。


「先生?優は病みあがりなので自重して下さい?」


「ぐ……相変わらずのモンペめ……」


堂々と廊下を走り生徒に笑顔でしばき倒される教師の姿がそこにはあった。

何かとこの2人は衝突(と言う名のいざこざ)をするのだが、私に堂々とセクハラをしてくる様な輩を杏がスルーできる筈も無いので当然である。


「そんだけ裏では甘々な癖に教室では微妙に仲悪そうに見せようと若干の憎まれ口叩き合うのほんとに無駄だからなお前等!みんなそれ知ってんだかんな!!」


「なんなんですかその捨て台詞」


「毎日甘々じゃ虫歯になるんです、たまにはちょっと酸っぱいものも食べたくなりませんか?」


「ショタに飽きたらロリに行く的な?」


「最低です先生」


「ついに先生も教育委員会行きですか……」


違う違う例え話だから、と言い訳をしているがほんとにヤバい人なのではないかと思い始めた私である。ほんとにいつか生徒に手を出さないか誰かに見張ってて欲しい。


「ほんとに大丈夫ですよね、先生?」


「優に手を出したら手足縛って山に捨てますよ?」


怖過ぎる。


「と、とにかく、1週間経たずに帰って来られて良かったな!い、いやぁ、突然入院したと聞いた時は爆発事故の事もあって巻き込まれたのかとヒヤヒヤした!」


話は逸らされてしまったが、巻き込まれたどころか張本人であったためにツッコミ辛くなる。

けれど彼女もまた私の事を心配してくれていたという事は、日頃の行いはさておき多少の嬉しさもあった。


一方で先生に頼まれていた例の彼女の世話をここ数日出来ていない、どころかこなみの件もあり放課後のみを考えれば1週間以上行けていないという事実もあった。

再テスト無しという報酬まで受け取っている分際でこれは少しばかり無責任では……とも思ったが、そもそもこなみの件も南先生が押し付けたわけで。

入院に関しても今までも月1〜0.5くらいの頻度であったのを承知済みだったであろう事を考えると罪悪感は霧散した。


……もちろん、そんな事とは無関係なあの子には本当に申し訳ないのだけれど。

私が居なくてせいせいした、なんてこともあるのだろうか?気になる部分は多々ある。


ただ純粋に気になることで言えばもう一つあって……


「そういえば先生、私出席日数大丈夫なんでしょうか?」


そう。ことのつまり、こんな頻度で休んでいて私はしっかりと進級、卒業ができるのかという話だ。

諸々あるとは言え、できれば杏と共に卒業したいし、こなみと同級生になるのは少しあれだ。

それでもそんな心配は瑣末な事とばかりに南先生は話す。


「んー?1/3以上出席してれば単位は取れるし、最悪期末のテストで点数取ってくれればなんとでも言い訳はできる。ただ大学を目指すなら少しは考えるべきだろうし……その辺りはどうなんだ?一応うちは進学高だし、基本的に皆、善かれ悪かれ進学はするが。」


「大学……」


「一応こっちのモンペは三大だろうが医学部だろうが、この時点でA判定取ってるような畜生なわけだが。」


「先生?」


モンペに畜生とまで言われた杏だが、その頭の良さは本物だ。

容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、モンペの畜生と有名な彼女がこれだけ私に時間を割けるのはそれが理由で。

一方の私は成績だけで見れば偏差値55辺りと何の面白みも無い。


正直な話、大学どころか自分の未来の事について考えていなかったし、杏に言われた様に彼女が大学に通う様になった時に一緒に近くに引っ越すくらいしか決まってもいなかった。

幸いお金に困っている訳でも無いので、職にも付かず、大学にも行かず、今の生活を続けるという選択肢もあったりはする。


「……分からないです。」


そもそも、今後自分がどうなるかも分からないのだ。遠い未来の話を今確定するのも、なんだか少しだけ違う気もする。


「そうか。まあ一概に大学と言っても、その大学の得意部門では無い学部では授業すら適当な程に甘々だったりもする。休みがちな君でも卒業できる所はあるはずだ。

ま!自分と他の大学に行く事をそこのモンペが許してくれるかどうかは分からないがな!」


はっはっは、と笑う南先生に間髪入れずにモンペが刺さる。


「優を馬鹿の溜まり場に誘導するのは辞めて貰えます?変な虫が付いたらどうしてくれるんですか?そんなの絶対許しません、優は私が一生養います。」


「お、おう……」


「いやぁ……うん、流石の先生もドン引きだよ。君ももう男漁りやめて彼に決めたら?」


「優の選択肢を狭めないでください。」


「さっき絶対許さないとか言ってたのは誰だったかな……」


矛盾だらけの受け答えなのだが、完全に一辺倒な人間などそうそう存在しない、という事で納得しておこうと思う。

正直な話、彼女がどうして男性を取って捨てる様な真似をしているのか私は知らない。

彼女はもしかしたら特定の彼氏を作るつもりは無いのではないだろうか。男性を捨て続けるのも何か目的があるのではないか、そんな事を考えることもある。


「ほら、そろそろ教室入れ〜?出席取るぞ〜」


いつの間にかアッサリと教室へ戻っていた南先生に呼びかけられてハッと気付けば、杏が私の手を引いていた。

こんなにも近くにいる彼女なのに、私も彼女も互いの全てを知っているわけではない。それが良いのか悪いのかは分からないけれど、出会って3年というのは長かったけれど実際にはまだまだ短いのかもしれない。





休んでいた間に進んでしまっていた授業にチンプンカンプンな私に、先生の話を無視して教えてくれる杏。

そんな彼女が癇に障ったのか入試レベルの問題を出した嫌味な先生。

そしてその問題を10秒で解いて再び私に教え出した彼女。


物語の主人公の様なそのムーブは彼女の悪い噂が無ければ賞賛の嵐だっただろうし、少なくとも私はとても格好良いと思った。


もちろん、その後に標的が変わり黒板の前で苦笑いの私と、恐ろしい目つきをした杏までがセットであったが。


休み時間、先程の先生が校長室に呼び出されているのを尻目に昼食をとる。

知らぬ間に引き出しに入っていた如何にもなラブレターの差出人はもちろん南先生なのでたっぷりのラブコールが書かれていたのだが、今後彼女に会うのは日に一回でいい旨と生徒会の方も問題なく動いているので気にしなくていい、という様な事が書かれていた。


正直なところ、生徒会の方は自分1人居なくても十二分に仕事が回るほど優秀な人材が集まっているので気にはしていなかったが、それでもこういう報告はとても助かる。

なんだかんだであの人も教師で大人なのだなと感じる。


「優?どうかした?」


「ん?ああ。いや、放課後少し用事ができただけだ。約束通り暫くは見回りは控えるし、用事が終わったら真っ直ぐ帰宅するから心配は要らない。」


「そう、じゃあ帰ったら私の部屋来なさい?まだ少し左足動き辛そうだしマッサージしてあげるから。」


「本当に私のことをよく見ているな……ありがとう、助かる。」


ぶった切られた筋繊維を繋ぎなおしたのだ。

例えそれがちょっとした例外の力とは言え、完全に元どおりになる訳ではない。

こういった日々のケアは大切らしい。


そんなこんなで、クラスメイト達もいつも通り目立った用事以外で私達に話しかけてくる事も無く。

かと言って別に無視されている訳でも無く。

現状例外の無いいつも通りの1日を過ごせていた。


午前だけでもアホみたいな量の8割合格の小テスト群も10点満点中7点8点を量産できたので、不合格気味とは言え再試が無いなりの面目は保てただろう。


故に今日の残りの問題は放課後のこの瞬間、入院していた1週間+αも会っていない彼女との関係性がどこまで退歩してしまっているのかということ。

それを考えるとこうしてノックをするのも躊躇ってしまう。

やっと彼女の声が聞けたかもしれないという所まで来ていたというのに……


「ふぅ……」


息を整えるために一呼吸。呼吸というよりは精神的な余裕をつくるために声に出した深呼吸と言った感じだったのだが……


ドンガラガッシャーン!!


私が息を吐いた瞬間、扉の向こうで大きな物音がした。


「氷雨さん……!?」


驚きのあまり少しだけ冷静さを欠いてしまい、勢い良く扉をあけてしまう。

中に女性がいるのだから人通りが無いとは言え考えるべきだったのでは無いかと、開けてから思った。


「……ぁ」


彼女は転げ落ちていた。

椅子と壁の間に挟まれる様に尻餅をつきつつこちらを見ていた。

崩れた前髪の隙間から見える瞳は青く輝き、彼女の整った顔つきが露わになる。

私ほどでは無いにしろ真っ白なその頬を徐々に赤く染めて行き、瞳の輝きと震えは増していく。


まあ、原因はなんというか、転げ落ちた所を見られたという事もあるだろうけれども……水色の下着をバッチリ見せてしまっている事が大きな原因なのかもしれない。


「……ええと、助けが必要なら首を縦に、顔を背けて欲しいなら横に振って欲しい。」


ブンブンブンブンと首を思い切り横に振る彼女を確認して直ぐに後ろを向いた。

その反応が正直とても可愛らしかったし、彼女の怯えるだけの反応以外を見られて少しだけ嬉しかったのだけれど……


がしゃーん!がしゃーん!!!


「……うぅ……!」


やっぱり助けてあげた方がいい気がしてきた。

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