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黒白の巫  作者: ねをんゆう
第3章 【夕暮娘】
13/25

13.輝く夕暮れ



「作戦はこうです。大通りから一本逸れた裏道を私1人で歩き、誘き出したストーカーを先輩が捕まえる。」


「お、おお……作戦自体はあったんだな。」


あれだけの大見得を切ってしまったのだから、その辺りはてっきり私が決める流れだと思っていた。

事前の準備が良いというか頼もしいというか、それでも若干バッサリとし過ぎている作戦だと思ってしまうのは私だけだろうか。


「だが捕まえたところで相手は人外、そんな人気の無い所で下手に刺激を与えたら私が殺されかねないんだが……」


「そこなんですよ問題は……先輩、なんとかしてください。」


「君なぁ……」


とは言ったものの、正直そこまで上手く行ければ彼女は十分な仕事をしたと言える。

後は私がそれを倒せるかどうかなのだから。


それでも命がかかっているのに無策で挑むなどと言えば確実にドン引きされるだろうし、何かしら作戦は必要だ。

経験則だが、こういう場合必ず敵が成長していて私は苦戦するのだから、有利になれる策を持っておいて悪い事は無い。


(……とは言え、)


ぶっちゃけ、私もまた人外なのだという事を伝えれば話は早いのだが、話の流れ的に言い難い。そもそも自分もバケモノであるなんて事を大した信頼関係のない今の状態で易々と言ってしまえば、彼女は取り乱すだろうし、最悪私の今後の学園生活にも関わってくる。杏も居るのだからできればそのリスクは避けたい。

であるならば、彼女の安全面を考慮した極めて人間的な策を用意するしかないだろう。

例えその策を使わないとしても、彼女を安心させる様な策を……



「……………………あれだ、防犯ブザー。」


「防犯ブザー?」


「あと笛。ストーカー捕まえて化け物になりそうになったら両方鳴らして火事だと叫びまくれ。大通りから一本くらいなら野次馬も来れるし、19時くらいなら近隣住民も様子を見に来るだろう。」


「はあ……でもそれがどうなるんです?人がたくさん来て何か変わるんですか?」


「まあまずリスクは減るだろうな。後は上手くいけば人間の姿のまま話し合いに持ち込める。最悪、数で嬲り殺す事もできるしな。」


「こ、殺しちゃうんですか?」


「相手が完全に狂った化け物なら生かしておく方が危険だろう。多少民間人に被害は出るだろうが、袋叩きにしてでも殺るべきだ。君のためだけではなく、今後の被害者を出さないためにもな。」


「そ、そう言われてみればそうですよね……すいません、殺される覚悟ならまだしも、殺す覚悟なんてのは……その、してなくて……」


「別にどちらの覚悟もしなくていい、可能性を頭に入れておくだけて十分だ。そんな覚悟、ただの女子高生が背負うには重過ぎる。」


「はい……」


出来るならば彼女を"人を殺した"という事実に加担させたくはない。

しかし正直なところ、私はこれまで最終的に殺す以外の方法を取れた試しがない……というか、それしか方法が見つからなかった。

それは実力云々もあるが、人外になった彼等は例外無くその精神が破綻していたという理由が大きい。

例に漏れず今回も、いやストーカーという経緯から考えれば既に壊れていると言っても過言ではない。


……恐らく今回も殺す事になる。

そして対象が死ぬという事は間接的に彼女もその死に関わった事になる。彼女の性格からして多少の責任感を感じてしまうだろう。


(いや、もしかしたらこの子が責任を感じるのは対象が死ぬ事ではなく、私の手が汚れる事の方かもしれないな。そんな事、今更なんだが。)


ふふっ、と自然に笑いが溢れる。

殺す、殺されるなんて殺伐とした話をしている中でもこうして笑える自分も、もしかしたらもう壊れてしまっているのかもしれない。

けれど……


「………あの、先輩?」


「ああいや、なんでもない。それよりそろそろ帰ろう、今日からは私が家まで送っていこう。」


「は、はぁ……ありがとうございます……?」


存外、私は彼女のことを気に入っているようだ。

誰かと重ねた彼女ではなく、彼女自身の人柄を。








それから数日、彼女との下校の日々が続いた。




「先輩!おまたせしました!今日も可愛い後輩と一緒に帰りましょうね!」


「あーはいはい、可愛い可愛い。ほら、ここじゃあ目立つ。今日も19時まで時間を潰そう、どこに行きたい?」


「カラオケ行きましょう!カラオケ!私実はアイドルになりたかったんですよね!」


「過去形にしなくとも、今からでも十分に間に合うだろう。なりたければなればいい、君ならトップを目指せる。」


「ほんとですか!?じゃあなれなかったら私のこと養ってくださいよ!?責任取ってくださいよ!?」


「急に話が重くなったな……まあ、必死にやって無理だったら考えてやらんことも無いな」


「やった!絶対ですからね!?」


そんな他愛の無い会話をしながら、下校時刻の15時から作戦開始時間の19時までの2時間という短い時間ではあるが、カラオケ、バッティングセンター、ボウリング、買い物など、様々な場所へと連れて行かれた。野球部の部活動が不審死の影響なのかは分からないが、早めに終わる様になったのもこの気分転換を助長した。

実際かなり新鮮な気分ではあった。

下校時刻後にこうして誰かと遊びに行くという体験はしばらくしていなかったから。



「……そういえば、まだ目星はつかないのか?この辺りの人間が犯人じゃ無いのかーみたいな」


三曲目の女性アイドル曲をノリノリで歌い上げた彼女にふと尋ねる。すると彼女は少し不機嫌そうに私を見る。


「私の歌への感想とか無いんですかー」


「え?あ、ああ、声質もあって聞いているだけで楽しくなるような歌だったな。」


「そうでしょう!そうでしょう!いやぁ、先輩と遊ぶのは楽しいですねぇ!」


一転こうして楽しげに笑う彼女は見ているだけでも面白い。表情がコロコロと変わる子というのは見ていて飽きないものだ。

オレンジジュースを片手にわざわざ私の横にボスリと座った彼女は今度はしっかり答えてくれた。


「正直、野球部のレギュラーメンバー辺りじゃないかとはずっと思ってます。というか確定だとすら思ってます。」


「言い切れるくらいなのか?」


「いえ、レギュラーメンバーだけが練習する日があるんですけど、その日に限ってはストーカー行為が止むんですよ。だからその練習に参加してる人間だと思うというか、むしろこれで違ったら敵が策士過ぎてお手上げです。これでも私地頭はいいので、それなりに探ってるんですよ?」


「ふむ……レギュラーメンバーの中に目ぼしい人間はいるのか?」


「エースの成宮先輩とキャッチャーの金沢先輩はあり得ませんね。あそこの2人は長期休暇の度に2人で温泉旅行に行くくらいにはデキてますから。」


「そんな情報聞きたくなかった……」


「あとショートの進藤先輩とレフトの坂上先輩は彼女持ちです。センターの小谷くんは野球以外興味ありませんし、サードの鈴村先輩は家庭の事情でバイト漬け。この4人も普段の様子を見ている限りはまずあり得ませんね。」


「ああ、確か家庭の事情の場合は例外でバイトが許可されるんだったなこの学校。」


「ですです。唯一セカンドの忍足先輩はフリーですが、あの人はモテる自分が好きな方なので特定の個人に深入りしたりしません。

ただ補欠も合わせてレギュラーメンバーは20人居ますので、今の7人を除外した所で残り14人も居ますし、これ以上はちょっと絞れないですね。」


「補欠の安藤くんはどうなんだ?私と同じクラスの子なんだが……」


「あー、安藤先輩は私のこと大好きだと思いますよ。」


「えぇ……」


「いつもチラチラ私のこと見てきて、ホームラン打つとこっち見てドヤ顔しますからね。めっちゃムカつきます。」


「それは確かに一発殴りたくなっても仕方ないな。」


「ですけどあまりにも隠すのが下手過ぎて、逆に疑いにくいんですよね。それにストーカー行為が始まる前と後でドヤ顔は変わりませんし……あ、この場合の変わらないは、変わらずぶん殴りたいということです。」


「分かってる、クラスでもたまに殴られてる。」


ある意味で愛されているのだ、安藤くんは。


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