創生はじめ(3)
まずはじめに争いの種になったのは、頂上に木を植えるかということだった。
私たちの山の頂上は小さな草原になっていた。それは人間の手で造られた公園と似ていた。拳大の石と白や薄紫の花がところどころにある以外は、まったくこじんまりした草原だ。気に食わない、と私は思った。
森田さんの家で見たあの鹿の目、あれこそ私が山に求めているものなのだ。予測不可能で、粗暴で、殺意に満ちている自然。私たちが暮らしの中で決して出会うことのできない世界。せっかくそれを創る機会に恵まれたのだ。お花が咲く草原など生温い。全面に木を植えたい、というのが私の主張だった。
夫は真っ向から反対した。
夫の言い分はこうだ。
「君はそう言うけどさ、山っていうのは昔は小学生なんかがちょっとした遠足に出かけてた場所でもあるんだよ。
想像してごらん。
この草原に子供たちや、僕らみたいな夫婦がレジャーシートを敷いて、弁当をつついたり、楽しそうに話したりしている様子をさ。
なかなか素敵じゃないか。」
私がどのような角度から反論しても、夫はまるで耳を貸さないばかりか、自分で話した景色を想像しては悦に入る、という様子だった。
何を言っても無駄だと悟った私は、けれど全く何の爪痕も残さず引き下がるのは癇に障った。
「桜の木を1本だけ植える」という折衷案を用意した。夫の「レジャーシートで愉快な行楽」という理想と上手く溶け合ったようで、承諾してくれたのだった。
次に争いの種になったのは、猿を駆除するかということだった。
私たちの山には様々な獣が住んでいた。私は全く構わなかったが、夫にとっては彼らは存在しているだけで害獣だった。
夫は手を替え品を替え、駆除したいと訴えてきた。夫が理想としていた山はつまるところ、白雪姫が毒リンゴを食べてしまったような山なのだ。
「鹿やイノシシやウサギや狸は許せるよ。景観を損ねないし、見方によってはとてもかわいいしね。
でも猿は違う。猿は歯茎を剥いて威嚇したり、ノミを取りしたりするらしいじゃないか。
そんな野蛮な生き物はうちの山には置けない。他の可愛い動物に危害を加えられては困るから。」
だそうだ。私は、それではエコシステムが乱れるのではないかと反論した。しかし一向に聞いてくれる気配はなかった。私たちは毎晩その話題で揉めた。1週間ほどたち、ある時いつもより早く仕事から帰ると、これまたいつもより早く帰った夫が壁にかかったアクリル版に向かい勝手に「コール」しようとしていた。一瞬で頭に血が昇った。私の気配に気づいた夫は何事もなかったように
「はやかったんだね、夕飯は何がいい?」
と話しはじめた。それ以来1週間2人の寝室ではなくソファーで寝るという無言の訴えを強行した。ちょうど1週間が過ぎたところで夫が折れた。そんな訳で私たちの山には今も猿がいる。