創生はじめ(2)
創生の工程は大きく分けて2つだ。
「発見」と「手直し」。
まず私たちはキットの中に設定された広大な大地をスワイプして、自分好みの大きさの山を「発見」する。大地は他のユーザーの創生している山と地続きになっている。すでに創生中の山の上には色違いの旗が立っているので創生中だと分かる。混乱を避けるため、「できるだけ創生中の山は選ばないこと」とルールブックには書かれていた。
バカ売れした商品だけあって、私たちはこの「発見」に2週間を費やさねばならなかった。初心者向けの小さくて「手直し」しやすそうな山はあらかた創生し尽くされていた。そのため、最初に設定された地点から約1000kmスワイプして、ようやく納得のいく山を「発見」することができた。
「発見」したら次は「手直し」に取り掛かる。「手直し」では、おもに「コール」する。「コール」は業者を呼ぶことだ。一度創生を始めると、ユーザーは地主のような権限を持つ。自分の山に害獣が出て土地を荒らしたり、生えすぎた木々が景観を損ねたりしている場合、「コール」して自分好みの山に仕上げていく。ただし1度「コール」するとまる1日、自分の山を見ることができなくなる。その間アクリル板には隣の山や全く別の地点の山が映し出されている。
近くの山から自分の山を見ようとスワイプしたり、ズームしたりしても、自分の山の一端が見えるか見えないかというところで画面は静止する。
だから、「コール」した後はひたすら他人の山を見物して時間を潰すしかないのだ。
私たちにとって、「発見」は多少の時間を要したにしても容易かった。
互いの理想が一致していたから諍いが起こる余地がなかったし、難しくもなかったし、なにより、「発見」しているときはまるでモデルハウスを巡っているときのような独特の高揚感があった。
しかし、「コール」となれば話は別だった。
山が家だとすると、私たちはインテリアデザイナーだ。家の内装を活かすのも殺すのも私たちだ。そして私が目指すのが高級寿司店のような粋な内装なら、夫が目指すのはヴェルサイユ宮殿のような過剰な内装ではないかというくらい、私たちの理想は異なっていた。