#6 柵の外
ルリアは隠れる為に、自身がいつも住んでいる小さな家の近くまで走り、疲れたのかその場に立ち止まると荒い息を吐く。
そして呼吸を整えると、手に持っている人形を抱きしめ、小さな家の後ろにある隙間に隠れる事にした。
小さな家の後ろには、庭を囲んでいる背の高い柵があり、ルリアは柵の隙間から見える景色──暗く、背の高い木々と草が1面に広がる景色を見つめながら人形を抱きしめる。
「……この森の向こうに、人間がいるのよね。………貴方は見た事ある……?」
彼女は森の景色を見つめたまま、手の中にある人形に話しかけると柵に近付く。
「……私はね、あるんだ。お兄様が血を上手く飲める様にって、生きたまま人間を連れてきたの」
「その人間はね、私を見て、いっぱい色んな言葉を言っていたの。悪魔、って………」
彼女は手をのばし柵に触れると、記憶にある人間の姿を思い出しながら話し続ける。
けれど、森を見つめているその瞳は、どこか悲しそうだった。
「………でもね、私がその人間の首に噛み付いて、血を吸ったらね、段々動かなくなったの。……あれがしぬってこと?」
思い出し、ルリアは森を見つめたまま首を傾げながら小さく呟くと、人形に目線を傾ける。
「しんだら、どうなるの? あの人間は私達の食事になったけど、私達はしんだらどうなるのかな……?」
じっと、人形に自身の質問を問いかけるルリアの瞳には、何故か光が無くて。
彼女はその、光のない瞳で、人形のボタンで出来た瞳をじっと見つめていたが、少し経った後、視界を森の方に戻した。
「……あれ………?」
そしてルリアは、”何か”に気付き、ゆっくりと首を傾げた。
────一方、ウィルは数え終わったのか顔から手を離し、近くに隠れていたセリーヌを見つける。
『……見つかるのが早かったわね』
セリーヌは見つかると同時にそう呟き、ドレスを軽くはたく。
「まぁ、足音でわかるからね」
ウィルは、ドレスをはたいているセリーヌを見、笑みを浮かべながら答える。
「『それに、彼女を先に見つけたら、彼女が拗ねてしまいそうだから』」
そしてウィルは、もう1つの理由を答えようと口を開き言ったが、その言葉は一言一句、セリーヌが声に出したのと同じで、2人は同時に声に出して笑う。
『……まぁ、とりあえず早く見つけた方がいいわね』
「そうだね。探してくるよ」
ひとしきり笑った後、セリーヌは瞳にうっすら溜まった涙を拭いながら言い、ウィルはその言葉に頷くと、ルリアが居る方向に向かっていった。
「………………あ」
小さな家がある方向に向かい、彼は少し辺りを見回すと、家の後ろに僅かだがルリアの蝙蝠の翼が出ているのが目に入って。
彼はそれに気付き声を上げると、愛おしそうな笑みを浮かべ、その場所に近付く。
後ろに向かうと、ルリアは人形を抱きしめながら、柵の向こうの景色に見入っていて、ウィルはルリアの肩にそっと手を置く。
「見つけたよ。ルリ」
そして笑みを浮かべながら言うが、ルリアは何も言わず、景色を見つめているばかりで。
彼はその事を疑問に思っていると、ルリアは柵の向こうを見つめたまま、ゆっくりと柵の向こうを指さした。
「………お兄様、あれは何……?」
ルリアは、小さな声で彼に尋ね、ウィルは、彼女が指差した方向を見、目を見開いた。