#5 隠れんぼ
「………あ、お兄様……!」
ルリアはしゃがみこみ、じっと赤いバラを見つめていたが、こちらに近寄ってくる足音を聞こえてくると顔を上げ、足音の方を向く。
向いた方向には、自分の下に戻ってきたセリーヌの姿と、セリーヌの後ろにいる男性──彼女にとって久しぶりに見かけるウィルの姿が目に入り、彼女は立ち上がるとウィルの方に駆け寄り、彼に抱きついた。
「久しぶりね……! お兄様……!」
「あぁ、久しぶりだね。少し大きくなったんじゃないか?」
ウィルは、駆け寄り抱きついてきたルリアを軽々と持ち上げ抱きかかえると、彼女に優しい笑みを向けながら問いかける。
ルリアはぎゅっと、ウィルの首に手を回し、嬉しそうに笑みを零すと、「わからないわ……!」と明るい声で答えた。
『こらルリア。はしたないでしょう?』
「まぁまぁ、久しぶりだから仕方ないだろう?」
セリーヌは抱きかかえられてるルリアを見、彼女をたしなめるが、ウィルが彼女を宥めたので小さくため息をつく。
『まったく……お兄様はルリアに甘いのだから………』
「ほら、お土産だよ。大事な妹だから仕方ないだろう?」
「お人形……!」
2人の微笑ましい光景にセリーヌは小さく呟き、ウィルはどこからか人形を出すとルリアに見せ、セリーヌにウインクをしながら呟きに答え、ルリアは見せられた人形に手を伸ばし、ぎゅっと人形に抱きつくと顔を擦り寄せる。
「えへへ、お兄様ありがとう……!」
「どういたしまして」
顔を人形に擦り寄せ、幸せそうに笑いながらお礼を言う彼女を見、ウィルも笑みを零し、ため息をついていたセリーヌもルリアの笑みを見て、笑みを浮かべた。
『……さ、ルリア。もうそろそろ隠れんぼをしないと時間が無くなるわよ?』
「……! 早くやろ……!」
人形を抱きしめているルリアに、セリーヌは首を傾げながら言うと、ルリアは、はっとしたかの様な顔になり、そう言うとウィルに下ろしてもらう。
そして、2人の方を振り向くと、人形を抱きしめたまま満面の笑みを浮かべる。
「お兄様が鬼になって……!」
「あぁ、構わないよ」『分かっているだろうけど、屋敷の中はだめよ?庭だけよ?』
「うんっ、わかってる……!」
ルリアの言葉にウィルは頷き、セリーヌはルリアにいつも言っている事を確認するかの様に言い、ルリアは大きく頷く。
ウィルはルリアが頷いたのを見、両手で顔を隠すと数をゆっくりと数え始め、ルリアは淡い水色のドレスを翻し、隠れる為に走り出す。
走る度に、シャラシャラと翼の装飾品が擦れ合う音が聞こえ、セリーヌはルリアの後ろ姿を見ると、先程まで浮かんでいた笑みが消える。
ウィルも顔に当てていた手を下ろすと、セリーヌの方に目線を傾けた。
『……彼女、さっきまた能力を使ったのよ』
セリーヌはウィルの方に顔を動かすと、真顔に──どことなく悲しそうな顔で呟く。
「……触れたものを代償と引き換えに破壊、もしくは創造をする能力………その代償は自分自身、か」
────触れたものを代償と引き換えに破壊、もしくは創造する能力。
ウィルの口から吐き出されたその言葉は、ルリアの能力の事であり、その代償とは ”ルリア自身” なのだ。
「幼い彼女は、嫌でも意識してしまうから上手く操れない」
『……えぇ。せめて、開花がもう少し遅かったら、少なくとも今よりは操れていたのでしょうね』
彼女は幼い故、能力を”操らなければ”と意識してしまい、それが空振り余計に操れていなくて。
2人はその事を知っていて、彼女が意識をしないように、出来る限り夜の間は一緒に遊んだりしているのだ。
「……さ、そろそろ隠れないと彼女が退屈してしまうよ?」
『………そうね』
2人はしばらく互いを見つめていたが、ウィルはいつもの様に笑みを浮かべ言うと、手で顔を隠す。
その様子を見た彼女は小さく頷くと、隠れるために蒼いドレスを翻した。