#44 久しぶり
セリーヌはルリアの部屋へと急ぐ。
それは今にも駆け出してしまいそうだったが。
彼女は【長】という立場である故。どのような状況であっても、上品さは欠けてはならないと言う教えから、決して駆け出すことはせず。
けれど、早くルリアの元に行きたいのか、その足は急ぎ足となっていた。
背中を彩る翼で飛べば、直ぐに彼女の元へ行けると言うのに。
その考えすら思いつかない様で。自身に挨拶をするメイドには目もくれず。
一目散にルリアの元へ、彼女は歩を進めた。
「──────────ルリア」
セリーヌはルリアの部屋の前へと漸く辿り着き、片手で軽々と扉を開けば、そこには。
『────久しぶりだな、姉様』
ベッドに座り込み、足を揺れ動かしているルリアと。ジェシカに解けかけていたリボンを直してもらっているルリアと瓜二つの人物が。
カミーユの報告した通り、まるで鏡から現れたかの様にルリアと瓜二つな少女は、リボンを直して貰うとセリーヌの方を向き。
久しぶり、と。彼女にそう告げたのだった。
セリーヌも彼女の事を知っているのか。何処か決心したかのような、覚悟を決めたかのような表情を、彼女に。
「…………そうね。でも少し、予定と速いんじゃないかしら」
『こんなにすぐ闇が溜まるなんて想定外だったんだよ。……まぁ、私がルリに早く会いたかったのもあるんだが。だめだったか?』
「いいえ。ルリも喜んでいたでしょう。……それに、その件に関しては此方が悪いから。許してちょうだい」
『別に気にしてないぜ。姉様もルリアを護ろうとしただけなんだから』
2人にしか分からない会話。意図は不明だが、自分は仲間はずれだという事は分かったルリアは頬を膨らませる。
「私にだけないしょなんてずるいわ……!」
『ごめんって…………でも、これからは一緒だからさ。良いだろ?』
会話に花を咲かせる3人。けれどジェシカとジャンヌは会話に参加する事はせず、その場に佇んでいた。
────その頃カミーユは、エルマーと呼ばれていた女性と挨拶を交わしていた。
「えっと、カミーユって言います! よ、よろしくお願いします!」
『カミーユ、ね……ふふっ。なるほど』
カミーユの名に、何処か納得した様な素振りを見せる女性は。ドレスの両端を持つと腰を低くする。
『名乗り遅れたわ。私はエルマー。エルマー・Y・ベイリー。そうね……人間の世界の方では、イヴァン・C・ライと呼ばれているから、イヴァンって呼んでくれた方が楽かしら?』
優雅なカーテシーを見せ、挨拶をするエルマーを見、カミーユは驚いた顔を見せる。
「ライって……あの、あの玩具メーカーの…………?」
『あら、知っていたの?』
「だって有名じゃないですか……! 私、住んでた場所は村でしたけど…………それでもライ社のことは知ってましたよ……!」
エルマーの会社──人間界では、有名な玩具メーカーとして名を馳せている事をカミーユは熱弁する。
余りにも熱心に話すもので、エルマーは困った様な笑みを浮かべていたのだが。
『………なら、言わない方が良かったかしら? 吸血鬼が経営してた、だなんて。貴方は魔女であれ、失望してしまったでしょう?』
そんな有名な会社を、人間の敵──天敵とも言える吸血鬼が経営しているという事実。
それを知り、少なからず落胆させてしまっただろうと、エルマーは何処か悲しげな表情を浮かべてカミーユに告げるのだった。