#4 人影の正体
────一方、ルリアと別れたセリーヌは靴の音を響かせ、人影の方に向かっていく。
時折、風によってなびく蒼の髪を抑えながら。
そして、庭を囲んでいる柵の唯一の出入口である門に近付くと、人影に向かって静かな笑みを浮かべた。
『──おかえりなさい。お兄様』
セリーヌに "お兄様" と呼ばれた人影は、肩に何かを乗せており、彼女の声に気付くと振り向き、笑みを浮かべる。
「ただいま。セリーヌ」
彼の名前は、ウィル・W・カーディナル。
セリーヌとルリアの兄である。
彼は彼女に挨拶をすると、黒く細かな装飾が施された門を閉める。
キィィ、という錆びついた音が響いた後、キンッという高く心地よい音が微かに聞こえ、ウィルは門の取っ手から手を離すと、セリーヌの方を向いた。
『…………今日の獲物は、あまり肉がのってなさそうですね』
ウィルの肩に乗っている何か──それは人間の女性の死体なのだが、セリーヌはそれを見、死体にあまり肉がついてない事に気付くと少しため息をつきながら呟く。
「でも血は美味だったから、スープにしたら良いと私は思うよ」
セリーヌの言葉を聞き、ウィルは笑みを浮かべたまま、先程飲んだ血の味を思い出し答える。
『血が美味しいなら、それとワインを混ぜても美味しそうですね』
「あぁ、確かに。早く飲みたいな」
吸血鬼だからなのだろう。
彼女達は食料である血の話をすると、早く飲みたいのか舌なめずりをする。
舌なめずりをした時の瞳は、血に飢えている獣そのものだったが、すぐに元の瞳に戻ると、ウィルは近くにいたメイドに死体を預けた。
「…………で、私に何か用なのかい?」
『あぁ、ルリアが隠れんぼをして遊びたいみたいなの。でも2人じゃ簡単でしょう?』
「確かに。それに天使に渡したいものもあるからね」
そしてウィルは、身体をセリーヌの方に戻すと彼女が自分の元に来た理由を問いかけ、彼女は用件を思い出し言うと、彼は納得したかの様に頷いた後、ぱっとくまの人形を出す。
『……本当、手品が上手いわね。………後、ルリアの前で "天使" なんて呼ばないこと』
「手品は紳士の嗜みだろう? 分かってるさ」
彼女はいきなり現れたくまの人形に驚くことはせず、腰に手を当てると人差し指をウィルにさしながら注意をする。
ウィルは、くまの人形をぱっと仕舞うと同時に紅いバラを1輪だし、それをセリーヌに渡しながら頷いた。
『……じゃあ行きましょうか。ルリアが待ってるわ』
セリーヌは、自身の手に持っている満開に咲いているバラを少しの間見つめた後、そう言いながらバラを近くのメイドに渡し、ルリアがいる場所に戻る為に蒼いドレスを翻し歩き出す。
ウィルはセリーヌの後ろ姿を見、小さく笑みを零すと、闇の様に黒い、黒いマントを翻し、セリーヌの後ろを追った。