#43 困惑。動揺。そして。
──部屋に突如として現れたのは、ルリアの世話係であるカミーユ。
その事にセリーヌは張り詰めていた緊張を僅かに解き、誰にも気付かれないように息をつけば。
「──────ノック、忘れてるわよ」
「………あっ、! も、申し訳ございません!」
「……謝罪なんていいわ。それより何かあったのでしょう。話しなさい。……エルマー、その話はまた後で」
セリーヌの忠告に、カミーユは慌てて頭を下げ、謝罪の言葉を述べる。
ルリアの世話係として任命させたカミーユが此処に来るという事は、何か想定外の事があったのだろう、と。セリーヌは即座に理解し、何があったのかと尋ね。
カミーユはセリーヌの言葉に漸く、屋敷に見知らぬ人が居ることに気付いたのだが。先に事態を報告しようと口を開いた。
「あ、あの! お嬢様、お嬢様が2人いるんです! お嬢様と、お嬢様そっくりの人が!」
──困惑。動揺。そして、覚悟。
カミーユの報告に、書斎の空気は一瞬で。この3つの感情に満たされる。
エルマーと呼ばれた女性は、今起きている事態の理解が出来ず、どうしたらいいのかと困惑し。
ジャンヌは、ルリアが2人。という状況に動揺し、思考を停止させ。
セリーヌとウィルは、何かを知っているのか。
カミーユの言葉に2人とも言葉を失っていたのだが。
「──────そう。そう、なのね。……ジャンヌ、ルリアの所に行きましょう。兄様。兄様はエルマーに状況の説明と、案内を。……なるべく早く、来てちょうだい」
「……かしこまりました」『…………あぁ。分かった』
まるで覚悟を決めたかの様に、糸のように細い息を吐くと。セリーヌは椅子から立ち上がり各々に指示を下す。
ジャンヌとウィルが彼女の指示に頷くのを見れば、彼女は蒼のドレスを翻しジャンヌと共に書斎を後にした。
『……どういう、事? お嬢様って、貴方が良く言っている天使の事……かしら? 彼女が────』
訳が分からないと、矢継ぎ早にウィルに質問するエルマーなのだが。
何時も笑みを絶やさない彼が、今まで見た事のない緊迫した表情を浮かべていた為、彼女は口を噤むのだった。
『…………すまない。柄にもなく、取り乱してしまっているみたいだ。……少し、待ってくれないか』
『……えぇ、勿論。私は何時でも構わないわ。…………そう言えば、貴方の事を伺っていなかったわね。名前を聞いても?』
気持ちの整理が未だ整っていないらしいウィルは、エルマーにその言葉を残すと直ぐに黙り込んで。エルマーはふと、報告しに来たメイドに挨拶を交わしていないと思い立ち、彼女に話しかけるのであった。