#41 突然の客
同時刻。
セリーヌの居る書斎には、1人の「客」が訪れていた。
『──────ご無沙汰しております。偉大なる長様。突然のご無礼をお許し下さい。私、エルマー・Y・ベイリー。ご報告したい事があり、崇高なる貴方様の元へ参りました』
壁一面にある、様々な本が入れられた本棚。
真ん中には木製のデスクが置かれ、デスクと同じ素材で造られたアンティークチェアに腰かけるセリーヌと、その横で佇むジャンヌ。
女性──エルマーの後ろには、ウィルが壁に寄りかかりながら立ち、彼女達を眺めていた。
そんなエルマーは、黒と赤を基調としたドレスを両手で僅かに持ち、椅子に座っているセリーヌに向かって、深々とカーテシーをしながら挨拶をする。
吸血鬼の長であるセリーヌ。
否──セリーヌ含むカーディナル家は、代々吸血鬼の長となる家系。
そんな彼女の屋敷では時折、他の吸血鬼が集まり定例会が開かれるのだが──今日はその日ではなく、セリーヌは急に訪れたエルマーを見据えていた。
「────それで。貴方がわざわざ此処に来た理由は何かしら?定例会はまだ先の事でしょう」
セリーヌは肘掛けに手を置き、足を組みながら、何時もと──否、何時もより低い声でエルマーに問いかける。
その姿は普段ルリアに見せる姿とは違い、威厳に満ち溢れているのだった。
『申し訳、ございません…………』
まるで背筋が凍りそうな程、冷ややかな口調にエルマーは勿論、隣にいるジャンヌでさえ恐怖を感じ、エルマーは頭を下げたまま、思わず震えた声で謝罪の言葉を零す。
その言葉を聴きセリーヌはため息をつくと、組んでいた足を戻し、身を乗り出した。
「謝罪をするくらいなら、早く話をしてほしいのだけれど」
『も、申し訳ございません………──────その、先日……新たに2人、同族が殺されてしまいました』
同族。
その言葉にセリーヌは一瞬だが悲しそうな顔をするのだが────すぐに眉を顰める。
「………それは、吸血鬼殺しの仕業ではなくて?」
吸血鬼は生きる為と言っても、人間の血肉を喰らう人外。
故に、それを恨む人間は吸血鬼殺しを作り、時折吸血鬼を殺しているのだが──────
自身の言葉に狼狽えるエルマーから、彼女は吸血鬼殺しの仕業ではないのだと悟るのだった。
「…………吸血鬼殺しではないなら、誰が同族を殺したと言うの?」
エルマーは、ひしひしとセリーヌから感じる重圧を逃れようとするかの様に息を吐くと。
ゆっくりと、重い口を開く。
『────どうやら、同じ同族に、殺されてしまったそうです』
──吸血鬼殺しではなく、同族と。
すなわち、同じ仲間である吸血鬼に殺されてしまったのだと言う情報を聞き、セリーヌの背筋は凍り、後ろで聞いていたウィルも目を見開く。
「………嘘、でしょ。…………同族は、私しか殺せない……はずよ。掟を、破ったとでもいうの………………?」
動揺を隠しきれないセリーヌは立ち上がり、事の詳細を聞こうとしたのだが。
突如として部屋の扉が開き、皆一斉に扉の方に視線を移すのであった。