#38 瓜二つ
今にも泣きそうになっているルリアの頭を撫でながら、リリアは何処か悲しそうな笑みを浮かべる。
『────覚えてないのは当然だ。兄様に、たのんだんだ。闇がたまるまで、私のことをわすれてほしいって。……まあ、ちょっとしたイタズラだな』
「ひどいわ……! ………でも、これからは一緒にいられるの、よね……?」
兄様──それはウィルの事であり、彼は「記憶を操る能力」を持っている。
その能力を使い、リリアに関しての記憶を消したのだろう。
悲しそうな笑みをやめ、無邪気な笑みを浮かべ答えるリリアを見、ルリアは頬を膨らますのだが────こてんと首を傾げ、そう尋ねる。
もう2度と忘れたくないと表す様に、リリアの手を握りしめながら。
指に伝わる温もりを感じながら、リリアは小さく笑みを浮かべながら頷くと、安心させる為にまたルリアの頭を撫でるのであった。
彼女の髪についているリボンが外れないように。優しく、やさしく。
「────あっ、リリィお洋服きてない……! 寒いでしょ……? 今持ってくるわ……!」
『私、闇からできてるから別に寒いとか大丈夫なんだが…………』
頭を撫でられ彼女は、幸せそうに微笑んでいたのだった。──けれど、リリアが服を着ていない事に気付くと、慌ててベッドから降りる。
だが彼女は闇を具現化して生きている為、寒さ等の皮膚に伝わる感覚はあまり感じないらしく、それを伝えようとしたのだが──────
靴も履かず裸足のまま、クローゼットに向かったルリアの優しさを無下には出来ず、その声は段々と小さくなるのであった。
「とりあえずたくさん持ってきたわ! 私と同じだからぴったりなはずよ?」
『ありがとな。……じゃあ、これにする。ルリ、手伝ってくれないか?』「うん……!」
ペチペチという裸足の音を暗い部屋に響かせながら、彼女はリリアの居るベッドに戻る。そして、両手に溢れんばかりのドレスを広げると首を傾げる。
純白なベッドに置かれた、色とりどりのドレスの中から、リリアは青いドレスを手に取る。
『────っと、どうだ?』
「んしょ………ふふっ、おそろいね……!」『………あぁ、確かにな』
青いドレスに袖を通し、腰についている淡い黄色のリボンを不器用ながらに結びながら、リリアはルリアに服が似合っているか尋ねる。
ルリアは、背中の方のリボンを結ぶのに苦戦していたのだが、ようやく出来たらしく、リリアの目の前に移動すると満面の笑みを浮かべながらそう述べた。
互いの瞳に映る、互いの姿。
どちらがどちらなのか分からなくなる程に、鏡の様に瓜二つな彼女達。
────違うのは、瞳の瞳孔の形。互いに浮かべる笑み。それだけだった。
「──────なにか、足りないわ。私とリリィ、こんなにも同じなのに」『んー………あ、頭のリボンじゃないか?』
しばらく互いは互いを見つめていたのだが、何かが足りないと呟くルリアに、リリアは自身の頭を指差す。
確かにリリアが指を差す部分に、ルリアはリボンを付けており、それが足りないからだと納得した彼女は自身の両手を握りしめるのだった。