#37 闇の少女
────憎い。
無意識に溜まる、真っ黒な憎悪。
──────うらやましい。
心を満たす、闇色の嫉妬。
充たされ、巻き付き、心を黒く染める負の感情。
心を妬き尽くし呪縛の様にまとわりつく、決して薄れる事のない嫌忌。
その感情はあまりにも重く、深く。
純粋で、吸血鬼だと言うのにあまりにも無垢な少女の心を破壊していく。
だが、彼女は目の前にある幸せに目を向け、自身の心が壊れてゆく感覚には気付かない。
────否、気付かない振りをする。
それが自身を破滅へともたらす道だと無意識に知っていても、分かっていても。
彼女は隠し、壊れてゆく。
そんな、少女の心の中で。
1人の【 】が目を覚ます。
【 】 の願いはただ1つ。
彼女を、「 」を助けたいという強い願い。
それが、【 】を創り出す。
その願いが、【 】を覚醒させる。
【 】は、暗い、暗い世界で手を伸ばす。
憎悪、嫉妬、嫌悪──あらゆる負の感情という名の闇に埋もれ包まれている世界で。
その世界で少女が護っている、たった1つの想いを護るために。
一筋の光に向かって、手を伸ばす────────
─────そして、負の感情を具現化し。自らの姿を創り出し。
少女は、目を覚ます。
カミーユと友達になり、何時もの様に姉や兄と遊んだ日の朝。
吸血鬼であるルリアにとって朝は眠る時間である為に、自室のベッドで横になり静かに寝息をたてていた。
けれど、ギシというベッドが軋む音が耳に入り、彼女はその音で目覚めてしまいゆっくりと目蓋を開ける。
────ぼんやりとした視界に映るのは、ベッドの上に座り込んでいる少女の姿。
視界がはっきりとなってゆくにつれて、ルリアはその少女の姿に目を見開き思わず飛び起きたのであった。
目の前にいる少女はまるで鏡の様に何もかもが瓜二つで、違う点があるとしたら──彼女とルリアの翼はそれこそ鏡の様に正反対で、少女の左翼は蝙蝠の翼で右翼はルリアと同じ装飾の翼。
そして、彼女を見つめる少女の紅の瞳の瞳孔は、ルリアの様に普通の瞳孔ではなく、セリーヌやウィルの様に縦に伸びていたのであった。
「……だれ……………?」
自身と瓜二つな少女の姿が誰なのか、ルリアはおずおずと尋ねる。その声色は不安げで、少し怖いのか声は震えていた。
少女はそんな彼女の姿を見、困った様に微笑む。
『────私はリリア。リリア・W・カーディナル。私はルリの…君の双子の姉。まあ、覚えてないよな………一緒に生まれた時に私は死んじまったんだから』
「どういう、こと……?」
少女はルリアの名を知っているのか彼女の愛称を呼び、ルリアと自身が双子だと話す。
けれど少女の──リリアと名乗った彼女は確かに目の前にいるのに、自身が死んでいると述べ、その言葉の意味が分からずルリアは首を傾げるのであった。
『私はさっき言った通り、ルリと一緒に生まれてきた。でも、その時に私は死んだんだ。だけど魂はルリの身体の中…………心の方が正しいか。そこにいたんだ』
『私が生まれた時に死んじまった事を、神とやらが哀れに思ったみたいでな、私はルリの闇を具現化するっていう能力を与えられた。それでもっとルリが小さい時は良く一緒に遊んでた。でも、幼いルリの闇は少ないからすぐに私は消えてしまってた。……だから、まあ、言い方は悪いが…………私がずっとルリの隣に居られるぐらいまで、ルリの闇が溜まったら会おうって決めてたんだ』
リリアの説明を聞き、ルリアは一瞬だが頭部に強い痛みを感じ頭を抑える。
──そして、誰かの名を呼びにこやかに笑う少女の姿が脳裏によぎる。
「──────おもい、だした………でも、でも、どうして私は……大事な、大事なリリィを忘れていたの……?」
長い、長い時間が経ち、ルリアは何故か忘れていた片割れと遊んだ記憶を思い出すと、リリィと──リリアの愛称を呼び、今にも泣きそうな瞳で彼女を見つめながら小さく呟いたのであった。