#28 悪魔
少女が女性の血を飲み少し経った後、少女はゆっくりと首筋から口を離すと、女性は貧血気味になりながらも少女を怯えた目で見つめる。
「あ、あくま……!! やだ、!! 気持ち悪い、しにたくない………!!」
"死にたくない"
その思いから、女性は次々に少女に向かって暴言を吐き出す。
その暴言を聞き、少女は黙ったままじっと女性を見つめていたが、ゆっくりと口を開く。
「────どうして、悪魔っていうの?」
「どうして、そんな目で、私をみるの?」
こてんと首を傾げ、女性の血で薄い水色のドレスを所々紅く染めた少女はそう呟く。
けれど女性はその問いには答えず、少女に暴言を吐き続けていた。
「どうして、どうして?」
同じ言葉を使い尋ねる少女の瞳の光は消え失せ、彼女はゆっくりと小さな手で女性の頭を掴む。
まるで、怯えながらも自身を睨みつけてくる目から逃れる様に。
「──ねぇ、教えてよ」
「私が、私がこんな翼だから……? ねぇ」
女性は、頭を掴まれた事に悲鳴を上げ、少女はこてと首を傾げる。
少女の声はまるで鈴のように可憐な声だが、その声色はまるで機械の様に感情が失われていた。
「──────どうしてよ」
「私は…私は悪魔じゃ、悪魔なんかじゃない……………」
段々と、女性の頭を掴んでいる手の力が強くなり、パキリという頭蓋骨にヒビが入る音が女性の耳に入る。
少女の手の力は、その見た目相応に弱いというのに、だ。
女性は聞こえてくる音に、恐怖のあまり悲鳴を上げ、少女はその悲鳴を気にしたりはせず言葉を紡ぐ。
「どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして────」
『ルリ、待つん────────』
「教えてよぉ…………!!!」
壊れた人形の様に同じ言葉を繰り返す少女を──ルリアを見、ウィルは彼女を止めようと声を出し手を伸ばしたが、彼の言葉をかき消す様に、彼女は目を綴じて叫ぶ。
その声はあまりにも悲痛で、彼女の感情を物語っている様だった。
そして、そんな叫び声と共に─────
パァン、という何かが破裂した音が部屋に響き渡った。
ルリアの耳にその音が入り、彼女は我に返ると、目蓋を綴じたまま息を吐き、感情を落ち着かせようとする。
だが、女性の頭を掴んでいた手が空を掴んでいる事、そして先程までは無かったぬるりとした何かが手や頬に付いている事に気付き、目蓋を開けると女性の方にゆっくりと目線を傾けた────
「───────ぁ、あぁ………」
────彼女の視線の先には、先程まであった頭部は跡形もなく消え失せており。頭部の代わりと言っては何なのだが、何かの蔓が幾つも伸びていた。
その蔓は庭に咲き誇っているバラの蔓の様に至る所に棘があり、所々朱に染まっているのだった。
そして、彼女の小さな手は真っ赤に染め上がり、視界の隅に映るドレスも所々が、彼女の瞳の様に紅く染まっていて。
彼女は───ルリアは、自身の能力が暴走したという事に気付くと、声にならない声を出しゆっくりとその場を後退る。
「いや、いや、いやあああああ────────!!!」
意図せず発動した能力。
自身の感情の赴くままに暴走した能力。
ルリアは、また能力を暴走してしまった事に絶望し、瞳に涙を溜め、髪を握りしめる。
彼女を呼ぶウィルの声は耳に届かず、泣き叫び、そして気を失った────
─────────闇の様に全てが黒い世界の中。
ぽちゃん、という一滴の水が滴る音が世界に響く。
その黒い世界の中で。
「 」は、ゆっくりと、"何か" を形作り始めていた。