#2 小さな家
蒼と白を基調としたドレスを着ている少女は、腰の少し上からはえている大きな蝙蝠の翼を少し撫でながら、長い廊下を歩く。
廊下には彼女のドレスや髪と同じ蒼色のカーペットが敷かれ、彼女の靴の音を吸収する。
その途中で、廊下や窓を掃除しているメイド達に出会い。メイド達は廊下の端に寄ると彼女に深々とお辞儀をし、彼女はそれを見、微笑を浮かべながら通り過ぎる。
そんな彼女は階段の前まで歩くと、手すりに手を置くと階段を下り、目の前にある大きな扉に手をかけ、ゆっくりとその扉を開けた。
ギイィ、という重い音が屋敷に響き渡り、開けた扉の隙間からは月の淡い光が洩れ出していく。
彼女は夜空を見上げ、小さく笑みを零すと外に足を踏み入れる。
──1歩踏み出すと、そこには紅い紅いバラが咲き乱れていて。
風が吹く度に、バラの良い香りが少女の鼻孔をくすぐり、花弁が舞う。
彼女は腰程まである長い髪を抑えながら、舞い散るバラの花弁をチラと見た後、とある場所に進んでいった────
────着いたのは、庭の中にぽつんとある三角屋根の小さな家。
紅いバラの庭に合う、可愛らしい家。
彼女は、その家の扉をゆっくりと開ける。
暗い室内が視界に入り、扉から入ってきた風により、何かが"シャラン"と鳴る音が聞こえてくる。
『……………………ルリ』
その音を耳で拾いつつ、彼女は笑みを浮かべると、ルリと──ルリアの愛称を呼びながら部屋の中に入っていった。
部屋の中は最低限の灯りしかなく薄暗いが、吸血鬼である彼女にとっては充分に明るく、どこにルリアが居るのだろうと辺りを見回す。
『……何時もはすぐに来るのに………。…………あ』
ルリアが何時も眠っているベッドに近付き、彼女はそう呟く。だが、鎖が壁の方にのびている事に気付き、鎖の方向に歩み寄る。
──そこには、壁に寄りかかっている大きなくまの人形を抱きしめながら、静かに寝息をたてているルリアの姿があって。
彼女が静かに息をする度に翼が上下に揺れ、微かに"シャラン"と音を立てる。
『ふふっ……起きて、ルリ』
「………ん、ぅ……?」
その寝顔があまりにも可愛らしく、少女は笑みを零し、少しの間寝顔を見つめた後、彼女の肩を優しく叩く。
ルリアは眠りが浅かったのか、肩を叩かれている事に気付くと、ゆっくりと目蓋を開けた。