#23 真相
"イヴァン様 "
そう呼ばれた彼女は、2人の前で立ち止まるとウィルの方に身体を向け、彼と目線を合わせる様にする。
『────全く、貴方が人気なのは分かるけれど、この私に挨拶無しは酷いわね? それに面倒事を起さないで頂戴』
「はは、すまないよ」
先程とは違い笑みを浮かべず、バラの様に棘のある言い方で彼女は言うが、ウィルは先程と変わらない優しい笑みを浮かべながら謝罪の言葉を返す。
そして、彼は彼女の前に跪くと、自身に伸ばされた、白く細い手に軽く口付けを落とした。
『──貴方も、もう良いかしら? 先程言った通り、私の屋敷に飾っているバラは彼から送られた物だし、そのワインだってそう。それに────彼女達が身に着けているアクセサリも、彼がデザインした物よ?』
イヴァンは今度は男性の方を向き、少し迷惑そうにそう述べる。
彼女の言葉の通り、ホール内の至る所には鮮やかなバラが入った花瓶が飾られ──ウィルの近くにいた女性達の胸元や首に、控えめだが細かな装飾が施されているアクセサリを身につけていた。
男性はその言葉に戸惑いながらも頷き、彼女達から離れる。
『────さ、それより楽しみましょう。夜はこれからなのだから』
話が終わってもなお、ホール内には少しばかり気まずい空気が流れていたが。彼女はその空気を変える為に軽く手を叩き、そう述べると、周りの人達は彼女の言葉に従う様に先程の様に騒ぎ出す。
それもそうだろう。
彼女の名前は、イヴァン・C・ライ。
この屋敷の主であり、招宴を開き、周りの人々を招待した本人なのだから。
『ウィル、貴方は私の相手をしなさい。遅かった罰よ』
そんな彼女は何時の間にか立ち上がっていたウイルに背を向けたまま述べ、彼は彼女に深々とお辞儀をしながら承諾する。
「────踊るのはまた後でにしよう。まだ夜は始まったばかりなのだから、ね」
彼はまた自身の周りに集まり、次々と踊ろうと声をかけていた女性達にそう述べると、先に歩き出していたイヴァンの後を追った。
『──────全く、貴方はもう少ししっかりしてほしいわ』
2人は喧々としていたホールから2階へと続く長い螺旋階段を渡り、近くのバルコニーに入ると彼女はバルコニーにある手すりに手を置き、そこから見える外の気色を見つめながら、ため息まじりにそう言葉にする。
バルコニーから見える外の世界は、先程までいたホールの騒々しさが懐かしく感じる程閑散とし、空に浮かぶ大きな月は屋敷や屋敷の庭に咲き誇るバラを照らしていた。
『─────それに、前の名はアレン。その前の名はエヴァン。そして今はウィル。………誠の名を使うなんて、馬鹿じゃないかしら』
「今回はこれしか思いつかなかったんだ。──それに、君も私の事は言えないだろう? エルマー」
それを真紅の双眸に映しながら、彼女は続けて述べる。
その言葉の言い訳を述べる様に、彼は彼女の名────否、先程名乗っていた "イヴァン" とは違う名で呼んだ。