#22 非難
広いホールの高い天井には大きく、豪華なシャンデリアがぶら下がりホールを明るく照らし、至る所で着飾った人々が楽しげに会話をしていた。
けれど、ウィル達がホール内に入ると、扉の付近にいた人々は誰が入ってきたのかと視線を彼の方に向ける。
────だがその視線の中には、彼を良く思っていないかの様な、そんな非難の目を向けていた。
ウィルはそんな視線は気にせず、女性達と会話を続ける。
『──────謎に包まれたあいつが来たぞ』
ふと、誰かがウィルに向かってそう呟く。
独り言の声量ではなく、あからさまに彼に聞こえる様に大きな声で。
『あの方も、何をしているのか分からない奴を呼びたくないだろうに』
誰かの声に続けるように、またホール内にいる誰かがそう呟く。
周りの女性達はウィルを心配そうに見つめ、"気にしないで" と声をかけていたが、彼はそんな女性達には目もくれず、声の主に向かって歩き出す。
「────こんばんは。ところで、そのワインは美味しいかい?」
そして、声の主の目の前で立ち止まると、彼はにこりと女性達に向けた笑みと同じ、優しい笑みを浮かべ、相手の手に持っているワイングラスの中に入っている赤ワインを指差しそう尋ねる。
『は?美味いけど、それがなんだよ』
声の主である男性は、彼の言葉に少し戸惑うがそう言葉にする。
ウィルはその言葉を聞き、にこと嬉しそうに微笑んだ。
「なら良かった。私の作っているワインはお気に召したようだね」
『──────は?』
思いもよらない言葉に、男性は目を丸くする。
────否、男性だけではなく、周りにいた人々全員が彼を見つめ、先程まで喧騒としていたホールはシン、と静まりかえっていた。
その静かさを気にせず、彼は続ける。
誰もが1度振り返る程、端麗な顔に良く似合う、優しげな笑みを浮かべながら。
「そのワインは、私の家が造っているヴィンテージワインの1つだよ。中々手に入れる事は出来ないけれど、"彼女" は昔馴染みだから良く送っているんだ。それに──────」
『──それに、私の屋敷に飾ってあるこの赤いバラも、彼が送ってくれたものよ』
彼が言いかけた言葉を遮るように、コツリ、というヒールの音を響かせながら女性の声がホールに響く。
バラの様に美しい顔立ちによく似合う、控えめな笑みを浮かべて。
『────イヴァン、様』
先程までウィルを見ていた男性は近付いてきた女性を見、顔面を青くさせながら、ゆっくりと歯切れ悪そうに彼女の名を呼んだ。