#15 初仕事
扉を開け、部屋から廊下に出ると辺りは暗くなっていて、カミーユはきょろきょろと辺りを見回す。
暗い廊下には、壁に等間隔についている燭台に明かりが灯されているが、最低限の明かりの為に薄暗く、けれど、広い廊下や床に敷いてあるカーペットやその薄暗さでも高価な物だという事が分かって。
カミーユは改めて、自分が良い所の人に──否、この屋敷の主であるセリーヌは吸血鬼であるため、良い吸血鬼に拾われたのだと実感していた。
そして、カミーユは窓を拭いているメイド達にじろじろと見られている事に戸惑いながらも歩き、屋敷の反対側に行く廊下がある事に気付くと立ち止まり、廊下の反対側の方を見ようとする。
『そっちはセリーヌ様達の部屋だよ。カミーユが担当する妹様はこっち』
立ち止まったカミーユを見、ジェシカは廊下の反対側にある部屋が誰の部屋なのかという説明をすると、階段の方を指さし歩き出す。
カミーユはその事に少し疑問になりながらもジェシカの後をついて行った。
「………そう言えば、ジェシカさんもセリーヌ様に名前を付けてもらったんですか……?」
長い階段を降り、カミーユはふと思ったのか、自身の少し前を歩いているジェシカに向かって問いかける。
ジェシカは、彼女の方に振り返らず頷くと口を開く。
『この屋敷に来てすぐに名前を貰ったよ。もう本当の名は覚えてないかなぁ』
" 本当の名を覚えてない "
その言葉に彼女は目を見開き、驚いたのか立ち止まる。
『ん? ………別に、昔の名前に愛着があった訳じゃないし、今の名前の方があたしはしっくりくるからなぁ……。ま、そんなに大事なら、ちゃんと自分で覚えておく事だね』
足音が無くなった事に疑問に思ったジェシカは彼女の方を振り返り、少し経った後、自分の言葉に驚いたのだと自覚すると、へらへらと笑いながら言う。
カミーユはその言葉にゆっくりと頷くと、ジェシカは彼女に「玄関を開けてくれる?」と言われたので、慌てて彼女より先に階段を降り、真正面にある大きな扉をゆっくりと開ける。
────そして、視界に移る光景に目を見開いた。
カミーユの視界には、庭1面にバラが咲き乱れているのが入り、バラが咲き乱れた庭はとても紅に染まっていた。
そして、そのバラを淡く照らす月の光がとても綺麗で、彼女は感嘆の声を洩らす。
『………セリーヌ様自慢の庭は、気に入った様だね』
ずっとバラの庭を眺めているカミーユを見、後から来たジェシカは笑みを浮かべながら言うが、カミーユを待たず先に歩き出す。
彼女はもう少しバラの庭を見ていたかったが、ジェシカが歩き出しているため後を追わなければならず、扉を閉めると名残惜しそうに目線を庭から外し、ジェシカの後を追うために駆け出した。