#8 何かの正体
じっと、柵の向こう側を見ているルリアの背後に誰かが忍び寄り、誰かはルリアの肩にポンッと軽く手を置く。
『わっ!』「ひっ……!?」
それと同時に声を上げ、ルリアはいきなりの事に驚いたのか、体を跳ねさせ小さく悲鳴を上げると急いで振り向く。
──そこには、暗い朱の髪を軽く1つにまとめ肩に垂らし、にこやかに笑っているメイドの女性がいた。
彼女の名前はジェシカ。
この屋敷のメイド長の1人であり、彼女達の食事を担当しているメイドだ。
「ジェシカ……びっくりしたぁ………」
ルリアはジェシカの笑顔を見、ほっとしたかのように息を吐きながら呟く。
『ルリア様は1つの事に凄く夢中になりますからね』
ジェシカはルリアの様子を見、にこやかに笑いながら言うとルリアを抱えあげる。
「きゃっ……!?」
『それに頑固だから、普通に言っても聞かないことを知ってますよ』
急に抱えあげられ驚き、ルリアは慌ててジェシカから落ちないように彼女の首に手を回し、ジェシカはそう言いながら柵から離れる為に歩き出す。
「あ……!」『危険だから、内側に行きましょうね』
柵から離れていき、ルリアは小さく声を上げ降りようとしたがジェシカの力には敵わず、頬を膨らませながらも抵抗を止める。
「………お姉様とお兄様に言われたのね……」
頬を膨らましながら呟くルリアを見、彼女の機嫌を取ろうとジェシカは立ち止まり、ルリアを抱えてない方の手を広げる。
すると、一瞬で彼女の手から炎で出来た紅い蝶が現れ、蝶はルリアの周りをぱたぱたと飛び回りだした。
『そんな顔をしていたら、可愛い顔が台無しですよ?』
「わ、……!」
ぱたぱたと自身の周りを飛び回る紅い蝶を、彼女は掴もうと手をのばすが、蝶はあと少しで捕まる、といった所でひらりとルリアの手をかわし、ルリアは頑張って捕まえようと、ジェシカの言葉も耳に入らず蝶に夢中になる。
ジェシカは一気に夢中になったルリアを見、くすりと笑うと柵から離れる為に歩きだした。
────一方、セリーヌ達は "何か" の目の前に立っていた。
『…………人間かしら』
"何か" はマントを被った少女の様で、弱々しく呼吸を繰り返す少女を、セリーヌはしゃがみこみ少女の顔を見つめながら呟く。
「……いえ。魔女のようです」
だが、ジャンヌは首を横に振り答えると、セリーヌは立ち上がりドレスを軽くはたく。
『魔力が見えたのね。……さ、魔女なら助けるわよ』
"魔女"
セリーヌはその言葉を聞き、静かに笑みを浮かべるとそう言い、ウィルは倒れている少女を抱えると屋敷に戻る為に歩き出した。