プロローグ
とある世界の、とある大陸。
アレーヌ大陸と呼ばれる大陸には、アレーヌ王国という、この大陸の中で1番大きな国がある。
その王国から遠く、遠く離れた、広い森の奥深く。
滅多に人が立ち寄らない所に、黒く大きな屋敷が建っていた。
屋敷は、魔女の結界で周りから見えない様にされていた。
そしてそこには、人間の天敵であり、夜の王とも呼ばれる "吸血鬼の長" が住んでいる。
吸血鬼の長は、兄と、沢山のメイド達と共に暮らし、そしてたった1人の妹を人間から護っていた────
──少女は、窓が無い広い部屋で夜を待つ。
大きな天蓋ベッドに腰掛け、腕の中にある白うさぎの人形を抱きしめ、1人で。
彼女の周りには沢山の人形や絵本、机やクレヨンなど沢山の物があり、とても大切にされているという事が見てとれた。
「………………さびしい……」
少女の舌っ足らずな幼い声が、暗い部屋に木霊する。
「………お姉様、お兄様……」
悲しげで寂しげな声が、静かな部屋に反響する。
──そんな少女の左足には、どういう訳か足枷がついている。
枷の鎖はベッドの足に繋がれていて、鎖はあと少しと言った所で部屋の扉に届かなそうな長さだった。
それは、彼女にとっては普通の事なのだろう。
繋がれている足枷を気にも止めず。彼女は人形を強く抱きしめた後、寂しさを紛らわせようと、近くの床に落ちている絵本を読むためかがみ込む。
────その際に、彼女の左翼にぶら下っている様々な装飾品が揺れ、"シャラン"と、心地よい音を奏でた。
その大きな翼から、彼女は「人間」ではない事がわかる。
──けれど、彼女の肩甲骨からはえる翼は、「人外」とも少し違っていた。
彼女の肩甲骨からはえる大きな翼は、右翼は蝙蝠の翼なのだが。
左翼の骨組み部分が木の枝の様になっており、そこにツタが巻かれ様々な色の花が咲き乱れ、様々な形の装飾品が吊るされているのだ。
左右違う翼を持つ彼女は。異形の翼を持つ彼女は。
夜が来るまでの、長く孤独な時間を紛らわせるように、本に意識を向ける。
早くメイドが来て、この足枷を外し、庭に出れる事を考えながら。
──少女は何時も、孤独だった。
否。彼女は毎夜、足枷を外しこの空間から外──庭に出れる事が出来る。
庭で彼女の姉や兄、そしてメイド達と遊んだりお茶会が出来る。
だが、朝になれば彼女はまた足枷を付けられ、この広い空間に入れられてしまう。
まるで、許可なく外に出てはいけないと表すかのように。
やってくる夜を一人きりで待ち続け。夜になれば庭に出、兄や姉と遊び、メイド達と庭に咲くバラを眺める。変わらない日々。
そんな変わらない毎日に。
彼女は何時も、謎の空虚を感じていた。
それが、その理由がなんなのかは分からないまま。
彼女は1人、やってくる夜を待ち続ける。
これは、そんな少女の物語──────