第6話 敵討ち
こんばんは。Ao月です。
遅くなりました。第6話、どうぞ^^
「グルァ!」
グリズリーウルフは雄たけびと共に右前足を振り下ろす。
「くっ」
ロキがやられた斬撃が飛んできて俺は咄嗟に横に飛びのく。
あの鎌鼬のような斬撃がグレイウルフとの違いらしい。
あれを喰らったら俺のHPはかなり削られるだろう。
「どうにかやつに近づかないとな」
怒っても冷静に。
やつを殺す。
俺は隠密を発動して、歩き始める。
当然効果は発動しないが、それでもかまわない。
俺の狙いは別にあるのだから。
「さぁ第1ラウンド開始だ」
総勢20匹のグレイウルフの群れが一斉に俺に向かってきた。
奴らはシズク達と一緒に戦ったときとは違い、統率を取ることなく
獣のようにそれぞれが走り込んできていた。
「好都合だ」
1匹目の突進を躱し、そいつの尻尾を掴んで2匹目に向かって投げ飛ばす。
怯んだグレイウルフに短剣で一突き。すかさずバックステップ。
飛び掛かろうとしてくるやつにシャドウハンドで足を掴み、一突き。
それでも途切れることなく、飛び掛かってくる。
「さすがに数が多いけど、これならやれそうだ」
俺は大きく後ろに飛びのき、グレイウルフたちとの距離をあける。
「これでも喰らえ」
隠密用のMP以外の残りのMPをありったけつぎ込み、シャドウハンドを発動させる。
普段と違い、俺を覆い隠して余りあるほどの大きな影の手ができた。
「シズク達のおかげだな」
魔法に求められる消費魔力以上の魔力を込めることで、その魔法の効果を強めることができる。ただ魔法の種類によっては暴走するらしいが、俺のシャドウハンドは大丈夫みたいだ。
これはシズクたちに教えてもらったことだ。今度何かお礼をしなければ。
「いくぜ」
その大きな影の手を、グレイウルフたちに向かって振り下ろす。
「成功だ」
俺はほくそ笑んだ。
グレイウルフたちは影の手を恐れ、避けたためダメージはまったくなかったが
俺の姿を見失い、動きを止めていた。
「まずは1匹」
近づき、首元に短剣を突き刺す。あえて血が自分にかかるように。
「2匹目」
腹に一突き。
グレイウルフはまだ俺を見つけられない。
やつらの血を浴びているおかげで、匂いでも俺を探し出すことはできない。
「さぁ、第2ラウンドだ。」
俺は静かに、怒りを胸に秘めて、やつらを睨み付けた。
***
「これで最後だ」
短剣で20匹目も始末する。
隠密が効いてからは俺のワンサイドゲームだった。
グリズリーウルフでさえ、俺を見つけれていない。
「でもここまでか…」
隠密用に残してあったMPも残りわずかだった。
もって数秒。これでは同じようにグリズリーウルフは殺れない。
「第3ラウンドに行く前にっ!お前のその前足、もらうぞ」
残り数秒。その数秒を最大限使いきるために、グリズリーウルフの元に走って一閃。
「グルァ!」
「まずは最初にロキを攻撃した分な」
隠密が切れて姿を現した俺を睨み付けるやつの右足は、俺の攻撃でかなり傷ついていた。
もう右足での攻撃もできず、やつの速さも半減したはずだ。
「さて、第3ラウンドだ」
憎しみが込もった左目でこちらを睨み付けながら、グリズリーウルフが立ち上がり咆哮。
「くっ」
咆哮にもダメージ判定があるらしく、俺は吹き飛ばされる。
腐ってもボス。
前足を負傷させただけでは、勝ちはもらえないらしい。
「それでもロキの敵は取らせてもらうぞ」
やつに向かって駆け出す。
「あいつの咆哮は指向性を持っているはずだ…っと」
咆哮と共に横に飛びのく。
「よしっ!」
先ほどとは違い咆哮のダメージは受けなかった。
そのまま近づいて、傷つけた右足に再度一閃。
やつは遂にその腰を落とす。
「よしっ…ぐっ!?」
やつが腰を落としたことに油断したせいだった。
やつが振るった左前脚を受けてしまう。
短剣でガードはしたものの、かなりダメージを受け、残り体力は30ほどだった。
「次で仕留めなかったら負けだな…」
残り体力よりも武器の方が状況は深刻だった。
攻撃を受け止めた短剣にひびが入っていた。
恐らく次の攻撃で壊れる。
やつはこちらをじっと見て動かない。
「すーはー…行くか」
深呼吸1つ、覚悟を決めて突っ込む。
「うおぉぉぉぉ!」
こちらを噛み切ろうと、大きく開けたその顎に短剣を持った右手を伸ばす。
「届けーーーー!」
そして交錯
「俺の勝ちだ…」
グリズリーウルフは倒れて光の粒子となっていった。
「ロキ、敵は取ったぞ」
“特定条件「敵討ち」を達成しました。”
“獣魔ロキが一定の条件を満たすことで進化が可能になります”
“称号「ボスを初めて倒せし者」を獲得しました。”
システムアナウンスがロキの敵討ちを果たせたことを教えてくれた。
そして、視線を右手に向ける。
手に持っている短剣は刃の部分が粉々に砕けていた。
「ありがとな」
このゲームを始めてからそんなに経っていないかもしれないが、ずっと一緒だったもう1つの相棒。粉々に砕けてしまいもう使うことは叶わないかもしれないが、それでもこの武器にはずっと助けられてきた。
また助けてほしいと思ってしまうのは詮無き事だった。
「…帰るか」
俺は少し休んだ後、街への帰路についた。
感想をくれる方、本当にありがとうございます!
明日時間が取れるので、お返事させていただきたいと思います。