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零式夏風



「来い、獣。わたしが相手だ」



 言いつつわたしは刀を目の前の獣に突きつける。


 なんという巨体であろうか。私の二倍の背丈はある。



「あ、あなたは……だれ?」


「ん?」



 これは気付かなかった。見目麗しき少女が倒れているではないか。


 その姿はとてもかわいらしく、まるで野に咲いた一本の百合の花のように雅な姿をしていた。


 だが、良く見てみるとその衣装は土にまみれているところが多々あり、当然、その原因は目の前の獣のせいであろうことは明確である。



「キサマ、ワレノジャマヲスルトイウノカ!」


「わたしは刹那だ。小娘、お主の名はなんという」


「刹那……さん、私はミカンといいますっ――って、危ないっ」



 美しい声をしているな……なんという幸運か。斯様な美少女と出会えるとは、いやはやこの夏獲無とやらは最高であるな! いやまったく!



「ふふふ……ハッハッハ!」


「ナ、ナンダコイツハ!?」



 巨体から繰り出される攻撃は鈍い。わたしの眼力をもってすれば避けることなどたやすいものであるが、今避けることに集中してしまうと、後ろの雅な女子に攻撃が行ってしまう。


 で、あるからわたしは全て弾き返すことにした。



「ミカン……良い名であるな、小娘よ」


「え、あ、ありがとうございます……ってこの人なんなの……強いし、全部攻撃を弾き返してる……」



 棍棒が振り下ろされるが、わたしはその芯を狙い刀一本で弾き返す。


 激しい剣戟の音が繰り返される。



「ア、アリエナイ……グヌヌ、ナラバコレデドウダ!」



 彼奴はなにやら手に持っている獲物を変えて、なにやら鉈のようなものを出してきた。


 それにしても、鈍い。殺意と力は合格なのだが、『技』がない。


 こんなもの、世間話をしながらでも弾けるわ。



「この後予定はあるか? 小娘……いや、ミカンよ」


「え、え? 予定!?」


「フンフンフン!!」


「ああそうだ。予定だ。わたしはこの後暇でな。明日は友人たちとぎるどというものを作り、探索をするのだが……そうだ、ミカン。わたしと共にギルドに来ないか? うむ、我ながら良い考えではないだろうか」


「ぎ、ギルド!? ぜ、ぜひお願いします……! 私一人なので……ありがたいですっ」


「フンヌハーーーー!!」


「ははは、そんな土下座のようなことまでせずとも良い」


「グォオオオオオオオ!!」



 それにしても煩い。これでは世間話をしながら弾いても殺した方が余程このミカンとの時間を楽しめるというのに。



「うるさいぞ、獣」


「グッ!?」



 彼奴が鉈を振り下ろしてきたので、私はそれを刀で思い切り弾く。



「グァアアアアア!?」


「鉈が、とんだ!?」


「――弱い。弱すぎる。これでは図体がデカいだけの木偶ではないか」


「キ、キサマアア!! サキホドカラダンショウシオッテ! コロシテヤル!!」


「……己の力量も弁えておらぬのか。よろしい、では――この一刀にて決めてやろう」



 刀の刃を上にして、その切っ先を敵に向け、わたしは刀を顔の横より少し上に構える。


 この剣技を使うのも久しぶりであるが、この美しい少女に見せるには丁度良い技だ。


 彼奴はもう無手だ。その巨大な拳をわたしに目掛けて振り下ろしてくる。



 ――見切る。ここである。



「【零式『夏風』】」


「――え?」


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