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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
6章 王都の日常?編
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98話 さすがインフェルノ様

 俺とフィーリアは王都へと移動するために、王都行きの地竜車に乗って行くことにした。

 なぜ走っていかないのかというと、『地竜車の護衛』という依頼があるからである。

 商人などは腕利きの冒険者を雇って国と国、街と街の間を行き来するのが通例らしく、俺たちはその依頼を受けることにしたのだ。

 どうせなら人の役に立った方が気持ちがいいし、お金も貰えて良いこと尽くめだからな。




 依頼書にあった場所へと向かうと、遠目から地竜車が一台止まっているのが見えた。

 その外装はまるで常に雷魔法を纏っているかのようにキラキラと煌びやかに光り輝いている。


「あれが依頼人の方の地竜車でしょうか? 凄い竜車ですね」

「そうだな」


 そんな話をしながら地竜車へと近づくと、竜車のドアが不意に開く。

 そこから出てきたのはふくよかな女性だった。

 紫の髪をカールさせた、気品が身体から溢れ出ている婦人だ。

 ……どこかで見た顔のような……。

 その顔に既視感を感じた俺は記憶を探ってみる。


「……ああ。あんた、いつかの占い師じゃないか」


 俺の言葉に女は顔を崩しながら軽く手を挙げた。


「あら、いつかのお二人。こんな偶然ってあるのねぇ」

「よろしくな。マダム・インフェルノ……だったか?」


 たしかそんな名前だったはずだ。


「ええ。地竜車の護衛、よろしく頼むわね」


 どうやら合っていたようで、インフェルノは俺たちに軽く頭を下げた。






 地竜車の中は俺たちが乗ったことのあるものよりも二回りほど大きいものだった。

 なんでもマダム・インフェルノは様々な事業で失敗知らずの超やり手な実業家らしいので、こういうところにもお金をかける余裕があるのだろう。

 孤児院にも相当な金額を寄付しているらしいあたり、人格者でもあるようだ。


 竜車の中には四人掛けの座席が二つ備え付けられており、俺とフィーリアはインフェルノと向か合って座る。

 御者の男が合図を出すと、地竜たちは滑らかな動きで走り始めた。


 しばらく進んだところで、インフェルノがフィーリアの顔を覗き込みながら話しかける。


「……あなた、大丈夫? なんだか顔色が優れないみたいだけれど」

「いえ、大丈夫です。少しあの日のことを思いだしてしまっただけですから……」


 フィーリアの言うあの日とは、占いのおかげでイカサマがバレた日のことだろう。


「あの後逃げたフィーリアを追いかけているうちに、いつの間にか持久走に変わってたんだよな」


 俺はあの日のことを思いだしながらしみじみと呟く。

 まったく、不思議なこともあったものである。


「ユーリさんが付かず離れずでピッタリ追走してくるから止まるに止まれなかったんです。まったく、あの時は酷い目に遭いました。走るのは辛いですし、かといって止まったらユーリさんにお仕置きされますし」

「そうだったの。私のせいでごめんなさいね?」

「いや、あんたが謝る必要はない。元々はフィーリアがズルをしたのが悪いんだからな」


 インフェルノが謝る必要などどこにもない。

 ズルをするやつが悪いのだ。


「何にも言い返せません……」


 さすがにそれに対して言い返すほど図々しくもないようで、フィーリアはしゅんと体を小さくする。

 そんなフィーリアに、インフェルノは優しい声色で声をかけた。


「でも、いい顔になったわね。あの時隠していた悩みも打ち明けられたように見えるわ」

「はい、おかげさまで」


 そういや隠し事があるとか言ってたな。

 あの時インフェルノが言っていた隠し事ってのは、自分の過去と能力についてだったってことか。

 誘拐騒ぎでなし崩し的にとはいえ、抱えていた秘密を打ち明けてくれたということは、フィーリアも出会った時より少しは俺を信用してくれたのだろうか。だとしたら嬉しいな。


「それにしても、インフェルノさんは占った人を一人一人覚えているんですか?」

「ええ、もちろんよ。人生は一期一会、私が多少なりとも影響を与えた相手の顔は忘れたくても忘れられないわ。占った人がその後幸せな人生を歩んでいるのがわかると、私まで嬉しくなるの」


 言葉通り嬉しそうに語るインフェルノ。

 占いはあくまで事業の息抜きでやっているということだが、もしかしたら本当は一番彼女の性に合っているのかもしれない。


「素敵なパートナーみたいね。羨ましいわ」


 インフェルノの言葉でフィーリアは俺の方を見る。

 じっと見つめられるとなんだかむず痒い。


「そうかもしれませんね。むしろ私がお世話してあげてる感じですけど。……まあ、いざというときは頼りになります」

「うふふ、素直じゃないのね」

「……なんのことだかわかりません」


 フィーリアは軽く口をとがらせ、頬を赤くしながら窓の外に視線を移す。

 それを見たインフェルノはより一層優しい笑みを浮かべた。


 その一連の行動の意味を、残念ながら俺は理解できない。

 まあとりあえず、確かなことは――


「たしかにフィーリアは相当捻くれてるよなぁ」

「あっ、そういうこと言うんですか? ユーリさんみたいに頓珍漢な方向に真っ直ぐなよりはいいと思いますけどねーだっ」


 ぼそっと呟いた俺の言葉に反応し、あかんべーをするフィーリア。


「お前に付き合えるのなんて俺くらいだろうな」

「違いますぅー、私がユーリさんに付き合ってあげてるんですぅー」

「二人とも、とっても息が合ってるわね。こんなに波長の合う人は滅多にいないわよ。私が言うまでもないでしょうけど、お互いのことを大切にね」

「ああ、わかってる。フィーリアは俺の大切なパートナーだからな」

「ふふん、ユーリさんにとってかけがえのない私は肩が凝りました。マッサージしてください。ほら、早く早くー」


 コイツ……。

 と、そんなおちゃらけたフィーリアを諌めたのは、意外なことにインフェルノだった。


「フィーリアちゃん、駄目よ? ユーリ君はちゃんと気持ちを言葉にしたんだから、フィーリアちゃんもちゃんと言葉で伝えなきゃ」

「うぐ……。……わ、私もユーリさんには感謝してます。いつも、その……ありがとうございます」

「そうか、こちらこそ」


 俯きながらたどたどしい言葉で紡がれたフィーリアの言葉は、だからこそ本心なんだとわかった。

 なんだか少し嬉しい気分になる。


「はい、よく言えたわね。偉いわよ」

「顔から火が出そうです……」

「何、顔から火が!? 新しい魔法か? やってみてくれ!」


 そんな魔法があったなんて、全く知らなかった。

 この世界にはまだまだ俺の知らない魔法がありやがるぜ!

 フィーリアのやつ、そんな魔法が使えるなら俺に教えておいてくれてもいいのに!


「うふふ、面白い冗談ねユーリ君」

「インフェルノさん。これ、驚くことに冗談じゃないんです」

「……え?」


 インフェルノの表情がピキリと固まる。


「? なんだ? 魔法じゃないのか?」

「あらあら、これは中々骨が折れそうねぇ……」


 インフェルノはフィーリアを気の毒そうな表情で見て、小さなため息を一つ吐き出した。








 数日後。

 特に何が起きることもなく、平穏無事に王都に着くことができた。

 街の中心では、高くそびえる荘厳な白城が王都全体を見渡している。


「数日間ありがとう。あなたたち、凄く強いのね。驚いちゃったわ」


 そう言ってインフェルノは成功報酬を渡してくる。


「まあ、あれぐらいはな」と言って俺はそれを受け取った。

 王都へと向かう道すがら、何匹かの魔物と遭遇したが、いずれも雑魚も雑魚。

 EランクやDランクの魔物ばかりで、昂ぶりを感じる暇もなく爆散してしまった。

 あの程度は護衛のうちに入らないだろう。


「短い間だったけれど、あなたたちと話せてよかったわ」

「いえ、私たちの方こそです。ね、ユーリさん?」

「そうだな。フィーリアが俺に感謝してると言ってくれたのも、インフェルノのおかげだ」


 普段はあんなこと言ってくれないからな。


「そ、それはもういいじゃないですか」

「ユーリ君、あまりからかいすぎないようにね? フィーリアちゃんの偽りない気持ちなんだから」

「わかっ……りました」


 最後はなんとなく敬語になってしまった。

 これが年の功というものだろうか。





 インフェルノと別れた俺たちは、王都を二人歩く。


「なんというか、不思議なオーラのある人ですよね、インフェルノさんって」

「そうだな」


 会話しながらすれ違う人間を観察する。

 王都なら俺より強いやつがいるかもしれないからな。楽しみだ。


 王都そのものはやはり国の中心だけあって平和なのだろう。こんなに争いであふれた世界にも関わらず、それを微塵も感じさせない人間が多い。

 しかしそういった大多数の人々に紛れて、明らかに眼光の鋭さが異なるものも散見された。

 人間たちの中心となっている国だけあって平和ボケしきっていないか少し不安だったが、どうやら杞憂のようだ。

 これなら俺も王都を楽しめそうだ。良かった良かった。

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