97話 Sランク
ロポポから地竜車に揺られてジープップへと帰ってきた俺達は、いつも通りの日々を過ごしていた。
ゴーシュに会った際にロゼッタを倒したことを伝えて礼を言うと、「君たちは本当に凄いね……」と驚いていたが、変わったことと言えばそれくらいだ。
訓練したり、依頼を受けたり、訓練したり、依頼を受けたり。
俺はそんな充実した毎日を送っていた。
ジープップへと戻ってきてから十日ほどたっただろうか、いつものようにギルドへと向かった日のことだった。
「この街もそろそろ飽きてきたな」
「ユーリさんって意外と飽き性ですよねー。トレーニングには飽きないくせに」
「フィーリアだって呼吸には飽きないだろ? それと何も変わらない」
「呼吸と同じレベルなんですか……?」
そんな会話を交わしながらギルドへと至る。
ギルドはいつも通りの見慣れた明るい雰囲気だ。
「フィーリア様、ユーリ様。少々よろしいですか」
俺達の姿を認めたギルド嬢が俺達を呼んだ。
何かと思いつつ、俺達はそれに従いカウンターへと近づく。
ギルド嬢は近づいてきた俺たちに一度頭を下げ、口を開いた。
「ギルド長からお二方にお話があります。少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「……わかった」
俺がそう答えるとギルド嬢は奥の扉から早歩きでどこかへ行ってしまった。
何だ? 呼ばれるのはこれで二度目だぞ。
「フィーリア、心当たりはあるか?」
「思い当たるのは、やはりマリエッタ国でのことでしょうか。というよりそれ以外にないでしょうね」
ああ、あれか。
あそこは鎖国状態と聞いたが、それでも話が伝わってきたのだろうか。それとも騎士団伝いに情報が入ったのかもしれないな。
「お待たせいたしました。準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
再び姿を現したギルド嬢についていく。
ある部屋の前で立ち止まったギルド嬢は扉を開けた。
中は以前入った部屋とそこまで変わらない。
壁には凶悪な顔をした魔物の剥製が飾られ、床には高そうな毛並みの良い敷物が敷いてある。
「良く来たの。さあ、座ってくんろ」
スクリーンに映った白髪の小さいギルド長がそう言うが、俺たちのいる部屋には椅子が無い。
この婆、ボケてやがる。
「ありがとうございます」
仕方なく俺は空気椅子をすることにした。
俺レベルになると空気椅子も似合ってしまうから困る。
「それで、ご用件はなんでしょうか?」
隣のフィーリアがそう言ったのでそちらを向くと、フィーリアは空気椅子に座っていた。
俺の空気椅子とは違う。文字通り、空気で作った椅子に座っているのだ。
筋肉魔法による空気椅子と、風魔法による空気椅子。夢の共演だな。
「ああ、マリエッタ国の首脳部から連絡があっての。あの閉鎖的な国が一体何事かと思ったら、お主たち国を乗っ取っていた罪徒を倒したらしいではないか。その功績をたたえて、お主たちをSランクとして認めようという話になったのじゃ」
「それは嬉しいです」
俺は無難にそう答えた。
「Sランクの任命式は王都で行われるのじゃ。これに出ないとSランクとしては認められぬ。じゃから、お主らも王都に来るといい。式は二週間後じゃ、待っておるぞ。……あ、もちろん火都に来るのじゃぞ?」
ギルド長はそれだけ言うとスクリーンは黒一色に変わった。
言いたいことだけ言って終わりかよ、自由だな。
ギルド長の話を聞き終えた俺達は、ギルドの外で話し合う。
「行くよな?」
「そうですね、久しぶりにアシュリーちゃんの顔もみたいですし」
「そうか、あいつも王都にいるんだったな」
強くなってるのだろうか。
子供というのは成長が早いものだと言うし、今度会ったら是非とも戦いたいところだ。
「あ、そういや火都に来いとかなんとか言ってたが、王都ってのは種類があんのか?」
「はい、現在も残っているのは人間中心の火都と水人中心の水都の二種類ですね。エルフ、ドワーフ、獣人の王都は昔の戦争等で無くなってしまったみたいですね。今新しく作るとなると、どこが王都にふさわしいかで争いになるのは目に見えてるので放置されているといった感じでしょうか。ちなみに地上で『王都』と言うと、普通火都のことを指します。ついでに言うと水都は水の中にあって、一国一街制を採っています」
「へぇー、良く知ってんな」
俺がそう唸ると、フィーリアは顔に少し呆れを滲ませた。
「これくらいは一般常識の範囲です。覚えておかないと、いざという時に困りますよ?」
「フィーリアがいてくれて助かる」
「あ、自分は覚えないつもりですか? つくづく良い性格してますねー」
「常識はフィーリアの担当だからな」
俺は荒事担当だ。
「常識は皆が知ってるから常識なんですけどね」
「俺は常識にとらわれない男だ」
「はいはい。あとで痛い目みても知らないですからねー?」
フィーリアのその言葉に俺は少し思い直す。
思えば敬語も使えるようになっておいて良かった場面は多かった。
インテリマッスルたるもの、常識もある程度は覚えておかなければいけないかもしれない。
「……まあ、少しずつ覚えていくことにするか」
「是非そうしてください」
俺の言葉を聞いたフィーリアはなぜか嬉しそうな顔をした。フィーリアは未だに良く分からない。
ともかく、会話を終えた俺達はいつものように依頼へと向かった。




