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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
5章 死の国編
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92話 『女王』ロゼッタ・スー

「あの一瞬で仲間に指示を出すなんて、エルフの子はあなたと違って優秀なようね」

「ああ。俺と同じで優秀だよ」


 俺はロゼッタの足元を見ながら答える。

 顔が見れない以上、足の動きから全身の動きを予測するしかない。


「戯言ね。エルフ、あの男の相手をしてやりなさい」


 フィーリアは陶器のような無機質な瞳で俺と向かい合った。

 その桃色の唇は真一文字に閉じられている。


「フィーリア……」


 フィーリアが洗脳されたのは俺のせいだ。


「ウフフフフ。なぁんだ、あなたも良い顔できるじゃないの。さあやっておしまいなさぁい、エルフの子」


 ロゼッタの言葉に呼応して、フィーリアの気が高まっていく。

 フィーリアの体は風の巨人に包まれた。そして巨人は俺を目掛けて腕を射出する。


「クソっ」


 俺は横に跳びそれを避けようとした。

 しかし、巨人の腕によって巻き起こされた風が俺の体を押し戻す。


「らぁっ!」


 空中を蹴り出しなんとか腕をよけた。

 本気の風神はここまでなのか。前に戦った時より強くなってるぞ。


 フィーリアは無表情で淡々と次の攻撃の準備に移っている。

 やはり戦うしかないのか。

 だが、あの風の纏を貫通して尚且つ致命傷を与えないように倒す、なんて芸当が俺にできるとは思えない。

 意識がない分、前に戦った時より俺への遠慮がない。完全に殺す気で来てやがる。

 そうなると、やはり狙うべきはフィーリアではなくロゼッタだ。


「あら、この子意外といい能力持ってるじゃないのぉ。良い駒手に入れたわぁ」


 ロゼッタは扇を仰ぎながら俺とフィーリアの戦いを見下ろしている。

 どこまでも人をいらつかせる女だ。


 ロゼッタにも気を回しながら、フィーリアの様子をうかがう。

 フィーリアは風の刃を躊躇なく俺に撃ち出してきた。


 避けながら何とかロゼッタに近付く隙を伺うが、フィーリアを出し抜けるかは怪しい。

 フィーリアのやつ、俺が昔教えた「相手の動きを先読みして、そこに魔法を撃ちこむ」ってことをちゃんと守ってやがる。


「どうしたのぉ? 随分と苦戦してるみたいねぇ」

「うるせえ。……あいにく約束しちまったんでな、俺が負けるわけにはいかねえ」


 もっとも、約束がなくても勝つけどな。

 だが誓った以上、負けることは絶対に許されない。


 国宮に人が集まってきているのを感じる。

 おそらくロゼッタが戦力を集めているのだろう。

 そうなったら流石に相手を殺さないための手加減は出来なくなる。時間がねえ。

 だが、俺はこの状況においても未だスーパーユーリさんモードの使用を躊躇していた。

 目の前のいけ好かない女に仲間がいたときのことを考えると、時間制限がある技は可能な限り使いたくない。


「ぅお!?」


 そんなことを考えていると、フィーリアが広範囲に鎌鼬(かまいたち)を飛ばしてくる。

 俺は体に力を入れてその攻撃をやり過ごす。皮膚には軽い切り傷が入った。

 力んだ俺の体に傷をつけるほどの魔法を使うやつなんてそうはいないんだがな。

 やはり鍛錬の甲斐あって、魔法の威力も上がっているようだ。


「一応私も用心しておこうかしら」


 ロゼッタはフィーリアの影に隠れるように移動し、俺に言葉を投げかける。


「私は昔から望むものは何でも手にしてきたわ。金も名誉も、そして男も。でもある時気付いたのよ。どうやっても手に入らないものがあることに。あなたは不満に思ったことはなぁい? この世界が自分が死んだ後も変わらず続いていくことに。私がいくら美を磨いても、魔法を磨いても、世界は私の物にならないの」


 ロゼッタはゆったりとした足取りで、石造りの床にコツコツと足音を響かせる。


「それに気づいたときはたまらなくイラついたわ。でもそんな時、私に能力が目覚めた。ねえ、素敵な能力だと思うでしょう? この力があれば、世界は私の物になるの!」

「……そんなもんで人を支配しても何にも楽しくなんかねえだろ。張り合いがねえ」


 俺はフィーリアの絶え間ない攻撃を躱しながら、ロゼッタの動向を目の端で確認する。

 自分に酔ったのか、ロゼッタはフィーリアの影からドンドンと抜け出してきている。

 ……今ならフィーリアを躱してロゼッタのところまでいけそうだ。


「愚かな人間には分からないようね。まあいいわぁ。私はこの国を私の国にする。私がいなければ成り立たぬ国、成り立たぬ世界! うふふ、最高ねぇ。この世界の全ては私の物なのよ!」


 ……今だ!

 俺は脚に渾身の力を入れる。

 そしてロゼッタへ向けて走り出した。


 フィーリアは俺がロゼッタに近づけないよう、巨人の腕を部屋の端まで伸ばしてなぎ払ってくる。


「どらぁ!」


 目前に迫る風製の腕にピストル拳を当て、相手の威力を弱める。

 フィーリアは続けざまに風の刃を飛ばしてきたが、こちらは無視だ。

 せいぜいが四肢一本の損失、食らったところで死にはしない。


 俺はこんな所で止まれない、もっと先に行く。


 俺は速度をみじんも落とさず、迫り来る巨人の風腕に突っ込んだ。

 俺の体を鋭い風が斬りつける。その一斬り一斬りは達人の斬撃となんら遜色ない。


「終わりね」


 風神を切り抜けた俺に、ロゼッタが(とど)めとばかりに炎魔法を撃ち込んでくる。

 俺はそれをピストル拳で相殺した。

 ふう、体中傷だらけだ。フィーリアのやつ、良い魔法持ってやがるぜ。


「なっ!?」


 驚愕の声をあげるロゼッタ。

 だが、なんら不思議なことは起きていない。

 今俺が苦戦している相手はフィーリアであり、ロゼッタの魔法など最初から眼中にないのだ。


「魔力の密度が低すぎる。お前、能力にかまけてろくに鍛練してねえだろ」

「戯れ言を……やりなさい!」


 ロゼッタはフィーリアに指示を出し、自らも炎魔法を創り出す。

 挟み撃ちになってしまったが、ここまで近づいた以上は俺の勝ちだ。


 もう複数の気配が建物の内部まで進入してきている。もう時間はあまりなさそうだ。


 俺はロゼッタに近づく。

 ロゼッタは俺の動きに反応できていないが、身を守るために咄嗟に炎で自らを覆った。

 悪いな、そんなものじゃ俺は止まれねえんだ。


「この世界の全て(・・)がお前のもんだって? ならこの痛みもお前のもんだな。やるよ」

「なにを……!?」


 ロゼッタを目前に捉えた俺は腹の中心めがけ拳を振りぬく。

 女だろうと戦い方は変えない。俺にはこれしか出来ねえからな。


「させないわぁ!」


 ロゼッタは咄嗟に火魔法で俺の腕を押し、軌道をずらしてきた。

 それによりわずかに狙いを外れ、俺の腕は腹の左側を掠めるにとどまる。

 ロゼッタはガボッと声を上げながら回転しつつ飛んでいき、壁に激突した。

 すかさずフィーリアが俺とロゼッタの間に回り込む。追撃はできなかったか。


「うぎゃあああああ! 治癒ぅ! 誰か治癒しなさぁい!」


 ちっ、防ごうとしただけならそれごとぶちのめせたのに、致命傷を避けようとするとはな。

 なかなか頭が回るようだ。

 ロゼッタは自分で回復魔法を使うが、どうも練度が低いらしく治りが遅い。

 そしてその間ずっと耳に不快感を与える声で喚いている。

 ちょっと腹が抉れたくらいで大げさな奴だ。


 さて、どうするか。

 フィーリアを出し抜いてロゼッタのところにたどり着いても、一撃で倒さねえと挟み撃ちにされる。

 先程の炎魔法の威力からするとロゼッタは能力頼りな戦い方のようだが、それでも魔法が直撃すれば足が止まるのは避けられない。

 さすがに二人に連撃をされたら俺もただでは済まないだろうな。


 この状態で出てこないということは、もう仲間がいる可能性はほぼゼロだろう。

 ならスーパーユーリさんモードで一気に片を付けるべきか……? 


 そんなことを考えていると、ロゼッタがユラリと立ち上がった。

 っと、危ねえ。目は見ないようにしないと。

 視界を下へと移した俺の耳に、つんざくような声が響く。


「私は神になるの! ならなきゃいけないの! こんな所で……死ねるものですかぁ!」

「でかい声を出すな。下品だぞ?」


 俺の挑発に、ロゼッタは一瞬口を(つぐ)んだ。

 目を見なくとも、その雰囲気の変容が、ロゼッタがキレたことを否応もなく語っていた。


「……もう許さないわ。……エルフ、あなた自害しなさい」


 ロゼッタの冷たい声が部屋に響いた。

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