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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
5章 死の国編
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89話 そういう時期あるよね

 エレクと出会ってからもう二週間が過ぎた。

 時は満ちたと言ってよいだろう。

 この二週間の訓練の成果を確かめるべく、俺はエレクと向かい合う。

 エレクの体は以前のヒョロヒョロとしたものではなく、しっかりと筋肉がついた男らしい体格になっている。

 まあ、俺からすればまだまだだが。


 対する俺は筋肉を解放せず、普段の状態で佇む。

 思えば、この姿で戦うのは久方ぶりだな。


「いくよ……」

「来い」


 エレクは雷魔法を使った。

 エレクが創りだした光源によって、辺りがまばゆい光に包まれる。


「目くらましか」


 やるな。ダメージを与えることより俺の視界を奪うことを優先してきた。

 エレクは中々頭の回転も速い。


「らぁ!」


 突っ込んできたエレクの蹴りを片腕で受け止める。


「せいっ!」


 蹴りを止められたエレクは着地するとすぐさま回し蹴りをしてきた。

 やはり運動神経が良い。エレクは蹴り主体の戦い方のようだ。


 俺は後退して回し蹴りを躱す。

 受け止められると思っていたのか、エレクはバランスを崩した。

 ここら辺はまだまだ甘いな、相手の行動を決めつけるのはいい判断とは言えない。


「おらっ」


 俺はエレクに向けて拳を振るう。

 エレクはなんとかと言った様子でそれを躱す。

 しかしそれによってバランスを崩したエレクは尻もちをついた。


 すかさずエレクに詰め寄り顔目掛け拳を振るう。

 エレクの顔に当たる寸前で拳を止めた。


「ここまでだな」

「あー、くっそー! 負けたぁ!」


 エレクは悔しさを隠そうともせずに地面に寝転がる。

 肩を上下させながら、ハァハァと荒い呼吸だ。


「いや、中々良かったぞ。かなりの急成長だ」

「見違えるような動きでしたよ」

「え、そ、そう?」


 実際ここまで早く形になるとは思っていなかった。

 まだまだ実践レベルではないものの、何気に土魔法も最低限使えるようになったらしい。

 フィーリアが教えるのが上手かったのもあるが、やはりエレク自身が熱心に取り組んだことが大きいだろう。

 筋肉を解放していない、かつ手加減はしているとはいえ、俺と拳を交わせるだけの実力がついたことが素直に嬉しい。


「これなら安心して国宮に乗り込めるぜ」


 俺とフィーリアは明日国宮に乗り込もうと画策していた。

 なぜ国宮かと言えば、エレクが言っていた「一番最初の犠牲者は国軍」という話を根拠としている。

 国宮に乗り込んできたロゼッタとの戦いの末に国軍の人たちは洗脳されたのではないか、と俺達は予想を立てた。

 国軍の団員の家も怪しいが、優先順位としてはやはり国宮が一番だろう。

 エレクもここまで戦えるようになったことだし、そろそろ乗り込んでもいいころだ。






 この国の夜は賑やかだ。

 賑やかと言っても声が聞こえてくるという訳ではなく、俺の耳をもってしても話し声は何一つ聞こえない。

 聞こえるのは人々の足音。

 何人かがローテーションで、夜通し俺たちを探し回っているのだ。

 そういうわけで、夜になってもマリエッタ国は眠らない。


 何個目かも分からない隠れ家で、俺達は最後の夜を一緒に過ごしていた。

 もうエレクには言ってあるが、俺達は侵入者だ。

 この国が正常な状態に戻ったとして、俺達がどういう扱いを受けるかはわからない。

 侵入者として扱われるにしても、国を救った救世主として扱われるとしても、どちらにしろ面倒だ。

 だから、俺とフィーリアはロゼッタを倒したらそのままこの国を抜けることに決めていた。

 つまりエレクと過ごす夜は今日で最後だ。


「ねえユーリ、フィーリアさん」


 エレクは珍しく正座をして俺達と向かい合う。


「なんだ?」

「皆は殺さないでほしいんだ」


 そうか、エレクにとっては顔見知りも多いだろうしな。

 心配に思うのも無理はないだろう。


「出来る限り善処はする。命の危険を感じたら手加減はできないけどな」

「うん、それでいいよ。……ありがと」


 エレクは正座からあぐらへと足を組み替える。


「ねえ二人とも、この国の外の話をしてよ」


 突然だな、と俺は思う。

 これまでエレクはあまり外の話に興味がなさそうだったのだが。


「明日が過ぎたらもう二人と会うこともないだろうから……二人の話を、聞きたいんだ。駄目かな?」

「もちろんいいですよ。ね、ユーリさん?」


 フィーリアがいいと言うならいいだろう。別に隠すようなことでもない。


「ああ、そうだな。とは言っても、何を話せばいいか……」


 俺は頭の中で、今までの冒険を思い返してみる。


「ああ、そうだ。俺が前に片腕を失った時の話なんだけどな」

「どういうことだよ……」

「どういうことって言われても、そういうことだ。そんでその時にな、フィーリアのやつ、俺に向かって『足の裏舐めろよオラァッ!』って言ってきたんだぜ」

「なんでピンポイントでその話を選んだんですか!? というかそんな言い方してませんよ!」


 俺の話を聞いたフィーリアが憤慨する。

 あれ、そうだっけか?


「ふぃ、フィーリアさんってそういう性癖なのか……。い、意外ですね……」


 ドン引きした顔のエレクに対してフィーリアは必死に取り繕う。


「違うよ、違いますから! 敬語になるのは止めてください。私はもう、すんごーいお淑やかなんですよ!?」


  そんなに必死になってる時点でお淑やかなんてとても言えないけどな。

 そんなことを考えていると、フィーリアは俺の心を読んだのか、先ほどまでとは打って変わって急に静かになった。

 笑顔にもかかわらず、なにやらどす黒いオーラを出し始める。


「……前にユーリさんが私を恥ずかしがらせようとしたことがあったんですよ」

「へぇー。それでそれで?」


 エレクが続きを促す。

 そんなことあったか? 記憶にないぞ。


「その時ユーリさん私を辱めるために何を想像してたと思います? 驚きますよ? 手をつなぐことと、目を見つめることです。この人、こんな見た目でピュアッピュアの初心なんですよ」


 思い出した。それ言うのは無しだろ!


「お返しですよーだ」


 フィーリアが俺にアカンベーをする。憎たらしい顔しやがって。


「変な顔してんじゃねえ」

「思考回路が変な人に言われたくないですー」

「ユーリ。手を繋ぐってお前、子供じゃねえんだからさ……」


 エレクはなにやら大人ぶっているようだ。

 ああ、あるあるそういう感じ。

「俺は全然恥ずかしくねえよ? そういうの興味ないから?」みたいな感じの時期あるよな。

 後で恥ずかしいからやめた方が良いぞ。


「そんなにすまし顔してるがな、エレク。じゃあお前は女と手を繋いだことあんのかよ?」


 俺は年上の威厳を見せつけてやることにした。

 これは親切心からの言葉だ。

「自分が経験していないことを他人に求めるのは間違っている」ということをエレクには学んでほしいのだ。

 別にからかってやろうなどという気は微塵もない。……少ししかない。


「うわぁ、流石ユーリさん。大人げないですねー。エレク君まだ十三歳ですよ? ある訳ないじゃないですかぁ~。ね、エレク君?」


 そう言いながら、フィーリアもエレクをからかっているようだ。

 コイツも大概タチが悪いよな。


「そんくらいあるよ。俺、彼女いるし」

「は?」

「え?」


 なんて?


「リュリュが俺の彼女。すげー可愛いんだぜ。リュリュはキスが好きなんだ。俺は一回で満足なのに何度もねだられてさー」


 エレクが鼻をこすりながら自慢げに語るのを、俺とフィーリアは黙って聞くことしかできない。

 コイツは何を言っているんだ。キス…………キスだと!? まだ十三やそこらのガキが、キス!?

 けしからん、一体全体どうなってるんだ! 破廉恥すぎる!


「嘘……。私だってまだしたことないのに……」


 フィーリアが茫然自失と言った様子で嘆く。

 人のこと初心とか言ってるくせに自分もキス未経験なのかよ。


「でも、もうキスどころか、デートもできないかもしれないんだよなぁ。リュリュ……」


 エレクは下を向く。

 彼女も洗脳されてしまっているのだろう。それはつらいな。


「きっとまた何度でもキ、キスできますよ」

「そうだぜ。しかもお前はより強く男らしくなったからな。前以上に好かれちまうぞ」


 フィーリアと俺がそう言うと、エレクは頭を上げた。


「そうだね、ありがとう二人とも。明日は応援してるから!」


 そういって拳を突きだしてくる。


「お前も逃げ切れよ」

「もちろんっ」


 俺はエレクと力強く拳を合わせる。


「必ずこの国を元に戻してきますから」

「うんっ」


 フィーリアもコツンと拳を合わせた。


 いよいよ明日だ。

 明日、俺たちが必ずこの国の未来を取り戻す。

前言撤回で申し訳ないのですが、予定を変更して五章の間は毎日更新でいきます!

六章からは毎週水曜日と日曜日の更新となります。

よろしくおねがいします!

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