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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
5章 死の国編
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77話 キウェー!

 ジープップから少し離れた村。

 そこで俺とフィーリアは伐採に勤しんでいた。


「にしても、何が目的で植樹なんてするんだろうな」

「さあ……。案外、環境保護とかじゃないですか?」


 俺とフィーリアは目の前の森を見上げる。

 森は村にまで迫りきっており、村の端の家はもうすでに森に飲み込まれつつあった。


 この原因はキウェーというダチョウのような魔物である。

 この魔物、何故か非常に精力的に植樹を行う魔物として有名らしい。

 ダチョウのような外見に不釣り合いな二本の腕が生えており、それで木を次々に植えていく。

 そして厄介なことに、キウェーに植えられた木はなぜか即日成木となる。

 結果として森の面積が爆発的に広がっていく、とこういう訳なのだ。


 といってもキウェーは他の冒険者によってすでに退治されているらしいので、俺たちが今日行うのはただの伐採作業である。

 戦えないのは残念だが、伐採は修行にもなるからな。悪くはないだろう。


「よし、ちゃっちゃと始めるか」


 俺は筋肉を解放し、腕に力を込める。

 そして成木に向け拳を放った。

 拳の衝撃波は直線状にある二本の木の幹を貫通し、三本目の中ほどまでで止まる。

 ぽっかりと穴が開いた二本の木は、メキメキと巨大な音をたてながら地面に倒れた。


「ふむ、まあまあだな」


 フィーリアの方を見ると、フィーリアは風魔法でスパスパと木を切っていた。

 その切り口はとても綺麗なものだ。


「風魔法を使う木こりは数いれど、素手で伐採なんていう馬鹿げた芸当ができるのはユーリさんくらいのものでしょうね」

「まあ、筋肉魔法だしな」

「……一瞬その理屈で納得しかけた自分が怖いです」

「怖がるな、素直になれ。お前の本能はもう筋肉魔法を魔法だと受け入れてるんだ」


 俺は両手を開いて優しく笑いかけ、フィーリアの心変わりを促す。

 しかしフィーリアは頑として首を縦に振らない。


「受け入れてませんよ。だってそもそも魔力使ってないじゃないですか」

「なんだよ、ケチんぼめ。魔力を使えば何でも魔法なんだから、筋肉を使っても魔法で良いだろもう」

「一体全体どういう理屈なんですか……」


 やれやれ、議論は平行線だな。

 どちらの言い分にも一理あるだけに、埒が明かないぜ。


「どちら言い分にも一理ある……?」


 フィーリアが何故か首をひねっていたが、意味はよくわからなかった。




「にしても結構手馴れてますね。前にやってたりしたんですか?」


 風魔法を巧みに扱いながら、フィーリアが聞いてくる。

 魔法を使っている間に本人が別のことを出来るのは便利だな。筋肉魔法だとそうはいかないからなぁ。

 そんなことを考えながら、質問に答える俺。


「ああ、森でな。繰り返しやっていると弱所が見えてくるんだよ」

「弱所?」

「弱点、軟いところだな。反対に硬いところも見えてくる」

「なるほど、柔らかいところを狙えば素手でも木を伐採できると。初めてユーリさんの説明を理解できた気がします」


 そう言ってフィーリアは得心がいったことを表す様に、目をつぶりコクコクと頷いた。

 だが、フィーリアの言っていることは完全に的外れである。


「いや、違うぞ? 一番硬いところを殴らなきゃ修行にならないだろ」


 俺の言葉に、コクコクと頷いていたフィーリアの頭が停止した。


「……根本からして考え方が違うんですね……。どうすればそんな思考回路になるのか本当に不思議です」

「俺は普通の一般人だぞ」

「大丈夫です、ユーリさんが普通だったら今頃この世は終わりを迎えてますから」


 コイツは俺を何だと思ってるんだ?

 俺はどこにでもいる戦い好きな一般人だというのに。






「にしても、何がユーリさんをそこまで駆り立てるんですか? 別にそこまで体を鍛える必要もないと思いますけど」


 ボコボコと拳で木をなぎ倒していく俺を見て、フィーリアがぽつりと呟く。


「決まってるだろ、好きだからだ。あとはまあ、筋肉が俺に期待してくれてるだろうからな。応えてやらねえと」

「筋肉が期待するってなんですか。そんな言葉の組み合わせは存在しませんよ」

「なら……そうだな、筋肉神が俺に期待してくれてると言い換えてもいいぞ」


 筋肉神、咄嗟に考えたにしてはいい響きだ。


「相変わらず全然意味わかりませんし、そんな神様はいません」

「いるさ。俺の――そして生きとし生けるもの、その全ての心の中に」


 俺は自らの筋肉を見つめる。

 やはり筋肉は素晴らしい。筋肉が無ければ生き物は生きていけないからな。


 ちなみに正確に言うと筋肉神は神様ではない。筋肉である。

 全ての筋肉の集合体とでも言うべき存在なのだ。俺が今そう決めた。


「妄想も大概にしてくださいね?」

「……今夜お前の夢の中にでてくるかもな」

「ぼそっと怖いこと言わないでくださいよ!」

「怖くなんかない、むしろ凄く名誉なことだろう。その凄さがわからないのか!?」


 あまりの衝撃に声をあげる俺。

 そんな俺に対しても、フィーリアはふるふると首を横に振る。


「全然わかりません」


 嘘だろ、そんなやつがまだこの世にいたのか!?

 筋肉が夢に出てくるってことは、無意識下で筋肉と繋がれてるってことなんだぞ!


「仕方ない、なら俺が教えてや――」

「遠慮します、わかりたくもないですから」


 俺の言葉を遮って否定の意を伝えてくるフィーリア。

 もはや俺は驚きすぎて逆に冷静になってしまった。


「……変わってんなぁ、お前」

「はは、面白い冗談ですね」


 この後何事もなく伐採作業は終えた。

 そこそこトレーニングにもなったし、俺の筋肉も喜んでいるようでなによりな一日であった。

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