77話 キウェー!
ジープップから少し離れた村。
そこで俺とフィーリアは伐採に勤しんでいた。
「にしても、何が目的で植樹なんてするんだろうな」
「さあ……。案外、環境保護とかじゃないですか?」
俺とフィーリアは目の前の森を見上げる。
森は村にまで迫りきっており、村の端の家はもうすでに森に飲み込まれつつあった。
この原因はキウェーというダチョウのような魔物である。
この魔物、何故か非常に精力的に植樹を行う魔物として有名らしい。
ダチョウのような外見に不釣り合いな二本の腕が生えており、それで木を次々に植えていく。
そして厄介なことに、キウェーに植えられた木はなぜか即日成木となる。
結果として森の面積が爆発的に広がっていく、とこういう訳なのだ。
といってもキウェーは他の冒険者によってすでに退治されているらしいので、俺たちが今日行うのはただの伐採作業である。
戦えないのは残念だが、伐採は修行にもなるからな。悪くはないだろう。
「よし、ちゃっちゃと始めるか」
俺は筋肉を解放し、腕に力を込める。
そして成木に向け拳を放った。
拳の衝撃波は直線状にある二本の木の幹を貫通し、三本目の中ほどまでで止まる。
ぽっかりと穴が開いた二本の木は、メキメキと巨大な音をたてながら地面に倒れた。
「ふむ、まあまあだな」
フィーリアの方を見ると、フィーリアは風魔法でスパスパと木を切っていた。
その切り口はとても綺麗なものだ。
「風魔法を使う木こりは数いれど、素手で伐採なんていう馬鹿げた芸当ができるのはユーリさんくらいのものでしょうね」
「まあ、筋肉魔法だしな」
「……一瞬その理屈で納得しかけた自分が怖いです」
「怖がるな、素直になれ。お前の本能はもう筋肉魔法を魔法だと受け入れてるんだ」
俺は両手を開いて優しく笑いかけ、フィーリアの心変わりを促す。
しかしフィーリアは頑として首を縦に振らない。
「受け入れてませんよ。だってそもそも魔力使ってないじゃないですか」
「なんだよ、ケチんぼめ。魔力を使えば何でも魔法なんだから、筋肉を使っても魔法で良いだろもう」
「一体全体どういう理屈なんですか……」
やれやれ、議論は平行線だな。
どちらの言い分にも一理あるだけに、埒が明かないぜ。
「どちら言い分にも一理ある……?」
フィーリアが何故か首をひねっていたが、意味はよくわからなかった。
「にしても結構手馴れてますね。前にやってたりしたんですか?」
風魔法を巧みに扱いながら、フィーリアが聞いてくる。
魔法を使っている間に本人が別のことを出来るのは便利だな。筋肉魔法だとそうはいかないからなぁ。
そんなことを考えながら、質問に答える俺。
「ああ、森でな。繰り返しやっていると弱所が見えてくるんだよ」
「弱所?」
「弱点、軟いところだな。反対に硬いところも見えてくる」
「なるほど、柔らかいところを狙えば素手でも木を伐採できると。初めてユーリさんの説明を理解できた気がします」
そう言ってフィーリアは得心がいったことを表す様に、目をつぶりコクコクと頷いた。
だが、フィーリアの言っていることは完全に的外れである。
「いや、違うぞ? 一番硬いところを殴らなきゃ修行にならないだろ」
俺の言葉に、コクコクと頷いていたフィーリアの頭が停止した。
「……根本からして考え方が違うんですね……。どうすればそんな思考回路になるのか本当に不思議です」
「俺は普通の一般人だぞ」
「大丈夫です、ユーリさんが普通だったら今頃この世は終わりを迎えてますから」
コイツは俺を何だと思ってるんだ?
俺はどこにでもいる戦い好きな一般人だというのに。
「にしても、何がユーリさんをそこまで駆り立てるんですか? 別にそこまで体を鍛える必要もないと思いますけど」
ボコボコと拳で木をなぎ倒していく俺を見て、フィーリアがぽつりと呟く。
「決まってるだろ、好きだからだ。あとはまあ、筋肉が俺に期待してくれてるだろうからな。応えてやらねえと」
「筋肉が期待するってなんですか。そんな言葉の組み合わせは存在しませんよ」
「なら……そうだな、筋肉神が俺に期待してくれてると言い換えてもいいぞ」
筋肉神、咄嗟に考えたにしてはいい響きだ。
「相変わらず全然意味わかりませんし、そんな神様はいません」
「いるさ。俺の――そして生きとし生けるもの、その全ての心の中に」
俺は自らの筋肉を見つめる。
やはり筋肉は素晴らしい。筋肉が無ければ生き物は生きていけないからな。
ちなみに正確に言うと筋肉神は神様ではない。筋肉である。
全ての筋肉の集合体とでも言うべき存在なのだ。俺が今そう決めた。
「妄想も大概にしてくださいね?」
「……今夜お前の夢の中にでてくるかもな」
「ぼそっと怖いこと言わないでくださいよ!」
「怖くなんかない、むしろ凄く名誉なことだろう。その凄さがわからないのか!?」
あまりの衝撃に声をあげる俺。
そんな俺に対しても、フィーリアはふるふると首を横に振る。
「全然わかりません」
嘘だろ、そんなやつがまだこの世にいたのか!?
筋肉が夢に出てくるってことは、無意識下で筋肉と繋がれてるってことなんだぞ!
「仕方ない、なら俺が教えてや――」
「遠慮します、わかりたくもないですから」
俺の言葉を遮って否定の意を伝えてくるフィーリア。
もはや俺は驚きすぎて逆に冷静になってしまった。
「……変わってんなぁ、お前」
「はは、面白い冗談ですね」
この後何事もなく伐採作業は終えた。
そこそこトレーニングにもなったし、俺の筋肉も喜んでいるようでなによりな一日であった。




