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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
4章 炎姫と魔人編
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75話 お酒は二十歳を超えてから

 祭りを見終えた俺達はロリロリに続いて村人との別れを済ませ、ジープップへと帰ってきた。

 いい気分転換になったな。

 これでこれからの修行にも一層熱が入るようになる。


 そんなことを思っている俺とは裏腹に、アシュリーは真剣な顔でフィーリアの方に向き直った。


「フィーリア姉……あたし、このまま王都に行くよ」

「アシュリーちゃん!? なんでそんな突然……」


 確かに突然だな。

 ずっとフィーリアと一緒にいたいのだとばかり思っていたが……。


「あたし、自慢じゃないけど天才って言われててさ。自分の力には自信があったの。でもユーリに負けてロリロリにも負けて……あたしより小さい子に負けたままじゃ、あたしがあたしを許せない。だから、王都で腕を磨こうと思うんだ」

「王都に籠ったら強くなんてなれなそうじゃないか?」


 俺は思わず口を挟む。

 向上心があるのは立派なことだが、方法を間違えると意味がないぞ。

 溢れんばかりのエネルギーを持っているだけでは駄目なのだ。その活かし方もしっかりと考えねば。


 そんな思いから忠告する俺に、アシュリーは「ああ」と思い出したように声を発する。


「ユーリは世間知らずだから知らなくても無理はないか。王都周辺には質の良い飛竜使いが集まってるの。その分値段は高いけど、あたしには関係ないし。だから王都は世界中とつながってるのよ」


 なるほど、王都はそんな風になっているのか。

 危険なところと言えば僻地と考えていたから、王都については余り調べていなかった。


「王都から依頼の出た危険な場所へ移動して戦闘力を磨くってことか」

「そういうこと」


 そういうことなら俺は口は出さない。

 そもそも俺が口を出すべきことではないしな。


 アシュリーも最初からフィーリアの意見が聞きたいのだろう。俺はフィーリアの方を向く。

 下を向いてじっと考え込んでいたフィーリアは、顔を上げてアシュリーの顔を見た。


「アシュリーちゃんの選択ですし、私は止めません。だから……約束しましょう? またいつか必ず会うって。何があっても、絶対」


 そういってアシュリーの頭を優しく撫でる。


「……うん! ありがと、フィーリア姉大好きっ!」


 アシュリーは目をウルウルさせてフィーリアに抱き着く。

 抱き着かれたフィーリアもそれを優しく受け入れた。

 中々に感動的な光景である。


 俺はそれを見ながら口を開く。


「俺には抱き着いて来ないのか?」

「誰が抱き着くかこの筋肉ユーリ!」


 俺には抱き着かないらしい。なんでだ。








「寂しくなりますね」


 宿への帰り道、フィーリアがポツンと呟いた。


「少しな」


 正直ソリは合わなかったが、いざいなくなるとなると少し感傷的な気分になってしまう。


「心配しなくてもいいですよ。私はユーリさんから離れませんから」


 そういってフィーリアは少し距離を詰めてきた。手が当たりそうな距離だ。


「いや、別にそんなことは心配しちゃいないが」


 俺の答えが不服だったのか、フィーリアは口をとがらせて文句を言う。


「え~。今のは『フィーリア……。ありがとう、おまえは俺の心の支えだ』とか言って抱きしめるところじゃないんですか?」

「抱きしめてほしいのか?」

「そんなことされたらセクハラで訴えますけどね」

「俺にどうしてほしいんだよ」


 フィーリアはテテテと駆けていき、俺の方を振り返って軽く体を傾けた。


「まあ、ユーリさんも寂しがってるみたいですし? 今日は私が夜までお酒でも飲みながら語り合ってあげますよ」

「……ああ、よろしく頼む」


 明らかに自分が寂しいだけなのだろうが、それを口に出すのは野暮だろう。

 俺はフィーリアに連れられて酒場へと足を運んだ。






 フィーリアはどうやら外で酒を飲んだ経験がないらしく、散々街を彷徨(さまよ)うことになった。

 フィーリアのいたエルフの里は十五歳から飲酒が認められていたのだが、エルフたちは普段あまり酒を飲むことはなかったらしい。

 俺も別に酒は苦手ではないが、進んで飲みたいとも思わないしな。

 そもそも肝臓の働きを弱めないと酔えないし。


 彷徨った末に辿り着いたのは、中年の男がたむろしている普通の酒場だ。

 部屋の四隅まで照らしきれていない明かりの中、薄汚れたテーブルの上にビールとお通しが運ばれてくる。


「ユーリさん、乾杯」

「ああ、乾杯」


 カン、とグラスを合わせて酒をあおる。

 フィーリアはグビグビとビールを口に流し込んでいく。


「ぷはぁ」


 フィーリアが空になったグラスをテーブルに叩きつけた。

 その呑みっぷりに、薄い頭髪の店主がチラリとこちらを見る。


「嬢ちゃん、良く飲むねぇー」

「胸!? 胸がどうしたっていうんですか! 男の人なんて胸の話ばっかりです!」

「すぐ酔ったなお前」


 いくらなんでも酔いが回るのが速すぎる。

 酒に弱いってレベルじゃねえぞ。


「まだ酔ってない! 私がそんなすぐ酔うわけないです。私を誰だと思ってるんですか。超絶美少女エルフ、フィーリアさんですよ」


 ヒックとしゃっくりをして、フィーリアはお代わりを頼んだ。






 それから十数分がたった。

 フィーリアはテーブルに突っ伏し「うぅ~……」と唸りながら、ビールをチビチビと飲んでいる。

 ……完全に出来上がってんな。


「おい、大丈夫か? なんかヤバそうなんだが……」

「アシュリーちゃん……ロリロリちゃん……グスッ」


 泣き上戸かよ……。

 フィーリアは俺の方を見て目を見開き、テーブルをバンバンと叩く。


「ユーリさん全然飲んでない! 私にばっかり飲ませて……はっ! こうやって私を酔わせて、酔い潰したところでいかがわしいことをする気ですね? ユーリさんそれでも人間ですか!? ひどすぎる……」


 コイツはもう駄目だな、被害妄想の権化と成り果てやがった。

 涙目で睨んでくるフィーリアからは、普段のしゃんとした雰囲気は微塵も感じ取れない。

 とりあえず、適当にあしらおう。


「そんなこと考えてねえよ」

「ハイうそー! だって私、『透心』持ってますもん。心読みまくりですもん!」


 うるさい、指をさすな。

 試しに透心で覗いてみろ、そんなこと考えてねえから。


 しかし、わざわざ否定するともっとムキになりそうだしな……。

 大人な俺はフィーリアの言葉に肯定してやることにする。


「ああ、じゃあ考えてるよ。これでいいだろ」

「ほら、やっぱり! 私が可愛いばかりに可愛すぎて狙われてしまうんですね。ああ、私ってばなんて罪な子なの……」


 何故か白目になって、俺にガンを付けてくるフィーリア。

 コイツの勢いについていけない。


「お前飛ばしてんなぁ」

「うるさいうるさい! 私はさみしーの! ユーリさんは私の話を聞いて!」

「っ……はいはい」


 急なタメ口に一瞬ドキッとしてしまった。

 それにコイツ、足をバタバタさせながらテーブルに突っ伏してるもんだから、胸元が見えちまうじゃねーか。

 なにやってんだ、可愛いんだからちょっとは警戒してくれ。

 あと、数秒ごとに白目になるのもいい加減やめてくれ。


「……ユーリさん? どうかした?」

「いや、別に」


 俺は気を落ち着かせるために店主の方を見ながら答える。

 だが、目があった店主はなぜか頬を軽く染めて俺を見つめ返してきた。

 やめてくれ、俺にそういう趣味はないんだ。やめてくれ。


「じゃあ話を続けるね。あの二人は私にとって心のオアシスだったの。別にユーリさんが嫌いなわけじゃないよ? でもそういうのとは違って、うーん、なんというか……妹?」


 俺は以前フィーリアがアシュリーのことを妹とか言っていたのを思い出す。

 アシュリーもフィーリア姉と呼んでるし、この二人は互いに姉妹のように思っているのだろう。

 そしてどうやらそこにロリロリも加わったようだ。


「そう、妹。だから、妹が二人続けて離れていっちゃった感じなんだ。だから……さみしい」

「それは大変だな」


 俺は調子を合わせ、深刻そうな顔で頷いた。




 その後もフィーリアの語りは止まらず、明け方まで聞かされた。

 黄色い朝日が街を照らす中、完全に酔いつぶれたフィーリアを背負って帰ることにする。

 背中に男とは違う柔らかい身体が触れる。

 肌寒い夜に、フィーリアと触れている背中だけは温かく感じた。


「う~、ゆーりさんのえっちぃ~」

「やかましいわ、おろすぞ」


 俺はブー垂れるフィーリアを無視して歩き出す。


 しばらくすると、背中からは穏やかな寝息が聞こえてきた。

 顔を見てみると、フィーリアは実に気持ち良さそうに「むにゃむにゃ」と小さく口を動かしている。


「ったく……」


 もう二度とフィーリアと一緒に酒は飲まないと固く心に誓った俺だった。








「ふぁーあぁ。ゆーりさん、おはよー……ございます?」


 翌日。

 ベッドから起き上がったフィーリアは左手で寝ぼけ眼をこすりながら、右手ではねた銀髪を整える。


「……え、あれ? んん……?」


 そして目を上方に泳がせた後、動きを停止して最上級の苦笑いを浮かべた。

 顔の筋肉がヒクヒクと動いている。


「どうした?」

「いや、なんか頭の中に目も覆いたくなるような恥ずかしい記憶が存在してるんですけど。……これは……夢、ですよね?」


 あれだけ酔っていたのに記憶はあるのか。

 俺は狼狽えているフィーリアに事実を伝えてやる。


「残念だが、現実だ」

「うそ……」

「今回はフィーリアの気持ちも分からなくもないからな、大目にみる」


 フィーリアのフォローをしてやる。

 寂しさを紛らわせたい気持ちは分からないでもない。


「うぅ……せっかく完璧美少女のイメージがついてきたところだったのにぃ!」

「安心しろ、最初から全然ついてきてないから」


 フィーリアはカッと顔を赤くさせながら、ベッドに潜り込み足をバタバタさせた。

 これじゃ完璧美少女というより残念美少女だな。


「恥ずかしいのでこっちをみないでください!」

「はいはい」


 俺は壁の方を向いてイメージトレーニングをする。

 室内には暫く足をバタバタとさせる音が響いていた。




四章『炎姫と魔人編』完結です、次話から新章に入ります。

いわゆる悪役との戦闘がない章だけに、楽しんでいただけたかは少し不安です。


楽しめたという方は、ブックマークや評価をいただけるとすごくありがたいです。

「評価してあげたいけどやり方知らない……」という方は、(最新話の)下にある評価欄の数字をクリックもしくはタッチして「評価する」を押せば評価できます。


※この国の成人年齢は十五歳です。日本ではお酒は二十歳になってからですよ!

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