73話 他人からどう見えてるかは自分じゃ意外とわからない
「顔を見るなり逃げ出しちまって悪かったな。罪滅ぼしにもならないかもしれないが、楽しんでいってくれ」
モイチを筆頭に、ロリロリの祭りへの参加を皆が認めてくれた。
不審そうな目で見ていた村人たちも、アシュリーが頼み込んだ瞬間に態度をガラッと変えてロリロリを迎え入れる。
どうやらアシュリーは村では絶対の信頼を得ているようだ。
まさかこんなに何事もなく受け入れられるとは、さすがの俺も思わなかったぞ。
「アシュリーちゃん、本当に人気なんですね」
「アシュリーはこの村から出た初めてのSランク冒険者だからな。俺らの誇りだよ」
なるほどな。Sランクなんて世界に百人もいないって話だから、確かに誇れることだ。
それに昨日一人で戦うのにこだわっていた理由もこれで得心がいった。
これだけ信頼されてたら、応えたくもなるだろう。
「村の皆の許可は得たわ。これでロリロリもお祭りを見れるわよ」
「おー! 良くやったアシュリー! ロリロリが褒めてやる!」
ロリロリは背伸びをしてアシュリーの頭をワシャワシャと撫でる。
髪をボサボサにされながらもアシュリーは嫌がってはいないようだ。
「いい? お祭りは楽しむためにあるの。だから皆、あたしの村のお祭り目一杯楽しんでいってね!」
「わかった!」
「うん、楽しませてもらうね」
「おう」
お祭りは夕方からだということで、俺たちはアシュリーの部屋で待機中である。
手伝うとも申し出たのだが、「折角来てもらえたんだからゆっくりしていってほしい」と言われてしまった。
そう言われたら断る道理もないしな。
俺は筋トレのためにロリロリとフィーリアを背中に乗せて腕立て伏せをしている。
二人が背中に乗っても大きさ的に問題ないように、筋肉は解放済みだ。
「にしてもユーリは変なやつだな~! そんなムキムキな人間なんて、ロリロリは今まの人生で見たことがなかった! 初めて見たときに思ったのはな、『うわっ! 変なの!』だ!」
「俺は『変なの』なのか……」
背中が上下するのにはしゃぎながら、ロリロリは俺をそう評する。
すると、椅子に座って俺たちを見ていたアシュリーも口を挟んできた。
「その気持ちはあたしもよぉ~くわかるわ。あたしだってユーリの第一印象は『人里を襲って人肉を貪り食らう悪魔』だもの」
「クレイジーすぎるだろ!」
俺は人間だし、人も食わねえぞ!
「だって怖かったんだもん! あんたはもうちょっと自分の怖さを自覚した方がいいわよ?」
「確かに俺の筋肉はある意味恐ろしいものだが……」
「そういうことじゃないのよ、気づいて」
そういうことじゃないならどういうことだろうか。イマイチ要領を得ない。
にしても、俺の印象が悪すぎやしないだろうか。
もっとこう、『筋肉が美しいと思った』とかそういう印象はないのか。
「なあフィーリア。お前は俺に初めて会った時どう思った?」
一縷の望みに賭けて、フィーリアにも聞いてみることにする。
「ユーリさんの第一印象ですか?」
背中の上のフィーリアは「そうですねぇ」と悩ましげな声をあげ、
「『人里離れた森に住む、文明を知らない野蛮人』ですかね」
「揃いも揃って酷過ぎる……」
俺の第一印象に碌なものがないんだが。
「……まあでも、人間扱いされているだけフィーリアのが一番マシか」
「変なの」と「悪魔」と「野蛮人」なら野蛮人だろう。
それに野蛮人ってちょっとカッコ良いしな。筋肉もついていそうなイメージがある。
「私のファーストコンタクトはユーリさんが筋肉状態じゃない時でしたからね。筋肉状態で出会っていたら、多分出会いがしらに魔法をしこたま撃ち込んでます」
「酷いどころの話じゃないな」
出会いがしらに魔法とか、俺以外なら下手したら死んでるぞ。
まあ俺なら問題なく平気だが。
「でもまあ、今はこうして仲良くできてるんだからいいじゃないですか。私、これでもユーリさんのことは信頼してますよ」
「そうかもな」
森に住んでいた時と比べたら、フィーリアと出会ってからはずっと賑やかだ。
想定外のことも多々あったが、それもまた一興。
なにより多くの人と出会えて楽しいしな。
そうしみじみと感慨にふける俺に、アシュリーはあっけらかんと言い放つ。
「勘違いしないでほしいんだけど、あたしはユーリと仲良くないわよ?」
「照れんなよ」
「て、照れてないわよ! 馬鹿じゃないの!?」
アシュリーは照れ屋だなぁ。
まあSランクと言ってもまだ子供だと言うことか。
アシュリーは椅子から立ち上がり、俺の方へ猛然と歩み寄って来る。
俺の筋肉を観察しにきたのかとも思ったが、そうではないらしい。
筋肉目的でないのなら、俺はトレーニングに本腰を入れるとするか。
「ちょっとユーリ、聞いてるの!? あたしは照れてなんかないわ!」
「ああ、そうだな」
「というかなんであたしがあんたの話で照れんのよ、意味わかんないじゃない!」
「ああ、そうだな」
「……あんた、あたしの話聞いてる?」
「ああ、そうだな」
「……こんの、馬鹿ユーリぃっ!」
ツインテールを揺らしながらギャーギャーと喚くアシュリーの言葉を全て聞き流し、俺はトレーニングに励むのだった。




