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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
1章 始まりの街編
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7話 ブロッコリー+キリン+バナナ=ブロッキーナ

 数日後。

 いつもと同じように薬草採取の依頼を受けていた俺とフィーリアは、森にいつもとは違う雰囲気を感じ取っていた。


「……フィーリア、何か変じゃないか?」

「おそらく何かいますね。場違いな量の魔力の残滓を感じます」


 フィーリアが険しい表情になる。

 俺が感じる気配も併せて考えると、相当手ごわそうなやつがいるようだ。


「すげえな、魔力の残滓なんてわかるもんなのか」

「一応エルフですからね。そう言うユーリさんはどうして異変に気づいたんですか?」

「勘だな。あと、強いて言うならいつもと少し森の匂いが違ったくらいか」

「そっちの方がよっぽどすごいですよ……」


 なんにせよ、何かがいるのは間違いがないようだな。

 嬉しさを隠しきれず、笑みがこぼれてしまう。

 俺はもっとこの広大な世界を旅したい。そして強い相手と戦ってみたいのだ。


 だが残念なことにEランクの依頼に魔物の討伐依頼はない。

 しかしだからと言って依頼をこなさなければランクは上がらない。

 それらの問題を一気に解決したのが何を隠そうこの俺の『薬草採取するついでに魔物も倒そう大作戦』なわけだ。


「ユーリさんってネーミングセンスなさすぎません?」

「頭の中を覗くな! まったく……」


 フィーリアは『読心』の能力を使って俺の頭の中を読んだらしい。


 それにしても、この気配。

 これはこんな初心者用の森にいていい魔物の気配ではない。

 俺たちが倒しておかねばならないだろう。

 というかそんなこと関係なしで、戦う以外の選択肢なんてハナからない。


「歩いて見つけるのは面倒だな。ちょっと跳ぶか」

「跳ぶ? ユーリさん何を――きゃあ!」


 俺は跳んだ。

 俺の体はどんどんと浮き上がり、木々の高さを超える。そして魔物の姿を探し――見つけた。


 まず最初に目に入るのは驚くべき首の長さ。

 木々とほとんど変わらない大きさを見るに、体高も十メートルは優に超えているとみていい。

 おそらく木々に擬態しているのだろう、体色は茶色で、首より先は葉と同じ緑色をしている。

 顔の部分はもじゃもじゃな緑の毛で覆われており、頭頂部にはバナナに似た黄色い果実のようなものが生えていた。


 姿を確認した俺は地面へと落下する。


「いたぞ、フィーリア」

「その前に、今何したのか一応聞いてもいいですか?」

「何って……跳んだんだ。体が落ちる前に空気を蹴りだし続ければ跳べるだろ? そういうことだ」

「なるほど。参考にならないということがわかりました」


 フィーリアに見つけた魔物の特徴を伝えると、フィーリアは僅かに顔を固くする。


「それ……多分ブロッキーナですよ。まだ全部は覚えきれていませんが、たしかBランク上位くらいの魔物だったはずです」


 フィーリアによるとブロッキーナは長い首を振り回す攻撃をしてくるようだ。

 そしてなにより、やはりこの森には不釣り合いなほど危険度が高い魔物らしい。


「この森に来るような冒険者ではおそらく返り討ちでしょう。私たちがやるしかないですね。ハァ、損な役回りです……」

「強そうだな、楽しみだ」


 身体が、そして気分が高揚するのを感じる。

 血がどくどくと脈打ち、血液が全身を流れる。

 生。まごうことなき生の感覚。今俺は確かに生きているのだ。


「なに戦闘狂みたいなこと言ってるんですか」

「自分の力を思いっきりぶつけられる相手ってわくわくするだろ?」

「全然共感できないんですが……」


 どうやらフィーリアはピンと来ていないようである。


「まったく、これだからフィーリアは……」

「えっ、私がおかしいんですか?」


 フィーリアが驚いたように目を開く。

 常識に照らし合わせて考えれば、おかしいのがフィーリアであることに疑いはない。

 そのくらいすぐにわかると思うのだが。


「それで、どうしますかユーリさん。作戦とか決めます?」

「そうだな……。今回は俺が筋肉魔法の神髄を見せてやろう」


 俺はそう言いながら腕捲りした。

 我慢できずに口の端が緩んでしまう。


「なら私の出る幕はなさそうですねー。何か手伝えることはありますか?」

「いや、大丈夫だ」

「じゃあ私は遠くから見てますね。一応目はいいですし。どっちの方角ですか?」

「左斜め四十五度の方向だな」

「わっかりましたー。じゃあ木の上で見てますね」


 そういうとフィーリアはふわっと体を浮かせ木の上の方の枝に座る。

 風魔法にはそんな使い方もあるのか。俺の筋肉魔法には及ばないが、中々便利そうだ。


「あ、見えました。うわー、でっかいですねー」

「そうか、じゃあ行ってくる」

「あ、ユーリさん」


 駆けだそうとしたところをフィーリアに呼び止められる。


「……頑張って。死なないでくださいね」

「おう、暴れてくらぁ」


 俺はフィーリアに猛獣のような笑顔でサムズアップを返した。






 森の中を一目散にブロッキーナの方へと走る。

 すぐに気配もはっきりと感じ取れるようになり、その方向にしばらく走ると接敵した。


「間近でみるとでけえなぁ」


 俺はそんな感想を口に出す。

 一方のブロッキーナは俺を脅威と感じたようで、口に魔力を集め始めた。


「いいぜ、来いよ」


 俺は右腕をわずかに引く。

 たったそれだけ。たったそれだけでブロッキーナは焦ったような素振りを見せる。


 やっぱり強いなこいつ。身の危険を感じ取る能力が高い。

 俺は冷静に目の前の魔物を評価する。

 俺の筋肉魔法の怖さを初見で感じ取るとは、中々お目が高いやつだ。


「ブロロロロオオッ!」


 ブロッキーナはその巨大な首を振り子のように存分に活かし、ハンマーのように頭を振るってくる。

 俺はとりあえず力量を知るために、それを真正面から受けてみた。


「うおお!?」


 意外と威力があるな。これなら本気でいって良さそうだ。

 俺は喜びに震えながら、脳内で意識的に制御していたリミッターをはずす。

 体の奥底から力が溢れてくる。

 体形の変化とともに、圧倒的な力が俺の体の端々にまで行き渡った。


「悪いなキリン野郎。手加減はできそうにねえ」


 ブロッキーナが直立不動の俺に向け、口から魔法を放ってくる。

 直接目視することができないそれは、おそらく風魔法の塊であろう。

 風の流れを感じれば避けることもできるが、わざわざ避けるまでもない。

 俺はブロッキーナの風魔法を体で受け止めた。




「中々良い魔法だな。俺相手じゃなければ使える武器だろうよ」


 俺は無傷のままでブロッキーナに笑いかける。


「フィーリア、よーく見とけよ? 俺の筋肉魔法の凄さを」


 木の上で見ているであろうフィーリアに対して独り言を言い、右手に一層の力を込める。

 ブロッキーナは危険を感じとり、首を振り子にして俺にのしかかろうとしてくるが――もう遅い。


「食らいな」


 言葉とともに右の拳を振りぬく。

 空を切った拳はブロッキーナには当たらない。

 しかしリミッターをはずした俺の右腕の突きは音速を超える。

 そして音速を超えた拳はすさまじい衝撃波を生み出すのだ。

 衝撃波は一直線にブロッキーナのもとへと向かう。


「パンッ!」と何かがはじけるような音がして、ブロッキーナの胴体は爆裂四散した。

 唯一残った頭のみが落下してきてゴロゴロと地面を転がる。

 宙にはブロッキーナだったものの欠片がひらひらと花弁のように舞い散っていた。


「……あれ? やりすぎたか?」


 まさかブロッキーナまでほとんど形が残らないとは。

 かろうじて頭が残っているくらいか。


 まあ、合格点だな。

 俺は今の一撃をそう顧みる。


 俺の拳は音速を超える。――その名も「ピストル(こぶし)」。

 属性魔法に軒並み適性がない俺にとって、この魔法がほぼ唯一の遠距離魔法であった。


 俺は足元に転がってきたブロッキーナの頭を見る。

 まあまあ歯ごたえのある相手だった。あれでBランクか。

 なら、もしかしたらSランクはまじで俺より強いかもしれねえな。

 こりゃあより一層厳しいトレーニングをしねえと。


 俺は新たな目標を見つけ、ホクホク顔でフィーリアのもとに戻る。




「帰って来たぞフィーリア」

「おかえりなさーい……って左腕怪我してるじゃないですか! 見せてください!」


 俺は言われるがままフィーリアに左腕を見せる。

 左腕は軽く腫れていた。おそらく最初のハンマー攻撃の時だろう。

 さすがに普段の体型のまま、あの攻撃を受けたのは少々無茶だったかもしれない。

 心のどこかで油断があったかもしれないな。要反省だ。


 フィーリアは小さく柔らかい手で俺の腕を掴む。

 やがて俺の腕は白く柔らかな光を発し、その光が収まると俺の腕は元通りになっていた。


「はいっ。これで治りましたよ」

「おお、ありがとな。お前本当に凄いんだな。……ところでこれって俺金とられんのか?」

「さすがに仲間からお金とるほどがめつくありません。依頼料金も二等分してもらってるんですし」

「フィーリア、お前なかなかいいやつだな」

「うるさいです。黙ってください」


 せっかく褒めたんだから素直に喜べばいいのに。可愛くないやつ。


「ところでユーリさん、最後のあれはなんですか? ブロッキーナが爆発したように見えたんですが」

「あの技か? ピストル(こぶし)だ。すげえだろ。拳圧をな、バーンって飛ばすんだ」


 それを聞いたフィーリアはなぜか微妙な顔をする。

 もう一度「バーンってな」と言うと、さらに微妙な顔になった。


「……ユーリさんという存在は常識の外側にいる存在だと身に染みてわかりました」

「アイツもなかなか強かったけどな。おかげで俺もモチベーション上がりまくりだ」

「なんでモチベーションがあがるんですか……」


 フィーリアはハァとため息を吐く。

 そうか、フィーリアはブロッキーナと戦ってないんだもんな。


「悪かったよ、お前も戦いたかったよな。いい筋トレ法を教えるから許してくれ」

「そんな言葉を真顔で言うことがまず信じられません。やっぱり脳筋なんですね」

「褒めるなよ、照れるじゃねえか」

「……ハァ」


 俺達はギルドへブロッキーナのことを報告しに帰ることにした。はぁー、今日は良い日だ!

ブロッキーナの生態

基本的には木の葉が主食だが、鳥型の魔物が頭頂部の果実に見立てた部位をついばみに来た場合は捕食する。


※ピストルについては『魔道具でそういったものがある』という認識でお願いします(11/5追記)

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