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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
4章 炎姫と魔人編
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69話 火神像 

 アシュリーの村への出発の日。

 事前に教わったアシュリーの家の前には、しびれを切らしたアシュリーが待ち構えていた。


「遅い! 待ち合わせ時間から三十分も経ってるわ」


 ギロッと俺を睨んでくるアシュリー。元々ツリ目だから、睨むと結構さまになっている。

 まあ背が小さいからそこまで威圧感はないけどな。

 足を小刻みに動かしているところをみると、イライラしているのが丸わかりだ。


「文句ならフィーリアに言ってくれ」

「うっ……ごめんなさいアシュリーちゃん」


 フィーリアが申し訳なさそうに頭を下げる。

 今日の遅刻はフィーリアが寝坊したのが原因だ。朝に弱いフィーリアだが、寝坊するのは珍しい。


「なんだ、フィーリア姉か。なら全然気にしないでいいよ!」


 アシュリーはフィーリアのせいだと分かった途端機嫌を直した。

 足揺すりもやめ、ニコニコと笑顔を浮かべている。

 本当にフィーリアが好きなんだな。……いや、俺が嫌いなのか?




「じゃあ、竜車を呼ぶから中でくつろいでて」


 アシュリーは自分の家に俺達を招き入れる。

 赤い屋根と壁が目立つ、かなり立派な家だ。


「なんだ、お前はジープップが本拠地なのか」

「え、違うよ? これは別荘。あたし大体の街に別荘持ってるし」

「アシュリーちゃん、すごいですねぇ」


 すごい金の使い方だな。さすがSランク冒険者。

 別に自慢する風でなく、当然のように言っているのは意識の違いか?

 こんな子供の時から別荘持ってるなんて、見た目はてんであてにならないな。


「さ、入って」


 俺とフィーリアはアシュリーの後に続いて家に入りこむ。

 そのままリビングに案内された俺達を待っていたのは、赤い部屋だった。

 赤い天井、赤い壁紙、赤い家具。目につくすべての物が赤一色だ。


「すごい部屋だな」

「可愛い部屋ですね」

「そうでしょ! あたしの自慢の部屋なの」


 フィーリアに褒められたアシュリーはピョンピョン飛び跳ねて喜ぶ。

 この部屋可愛いか? 赤いペンキで塗ったら俺達の部屋もこうなると思うのだが。



「えーっと……よし、『リンリン』で送ったからあと少しで地竜車が来てくれるわ」


 アシュリーは掌からはみ出すほどの大きさの長方形の何かを弄りながら言う。


「リンリン? なんだそれ?」

「あれ、知らない? 遠く離れた相手に文面を届ける魔道具よ」


 アシュリーは手に持った赤い魔道具を見せてくる。


「そんな便利なものがあったのか」

「へぇ~。私も初めて見ました」


 フィーリアも興味深そうにアシュリーのリンリンを覗き込む。


「ユーリはともかく、フィーリア姉が知らないならまだこの辺りには広まってないのね。でもきっとすぐに広まると思うよ。遠く離れた相手に文章を送れるってすごく便利だし」


 確かに色々と使い道は多そうだ。

 世の中ってのは着々と便利になってるんだな。


 数分後、到着した地竜車に乗り込み、俺たち三人はアシュリーの故郷へと出発した。








 翌日の昼。

 俺たちはアシュリーの故郷の村へと到着した。

 地竜車はのどかな村道を横切りながらアシュリーの家の前で止まる。


「ふぅー、到着! フィーリア姉、ユーリ、部屋に荷物置いていいからね」


 そう言って家の中へと駆けて行くアシュリー。

 それに続いて家に入ると真っ赤な廊下が俺たちを出迎え、廊下を曲がるとまたまた真っ赤な部屋が俺たちを出迎えた。

 ところどころ家具の種類が違うが、色は恐ろしいほど赤で統一されている。


「お前、本当に赤が好きなんだな」

「そりゃそうよ、あたしのイメージカラーだしね」


 イメージカラーってなんだ。

 俺はもう赤は食傷ぎみだ。他の色が見たい。

 色に飽きたのなんか初めての経験だ。


「フィーリア姉、この部屋どうかな? ……フィーリア姉!?」

「き、気持ち悪いです……」


 フィーリアは口を押さえて(うずくま)る。


「どうしたフィーリア、大丈夫か?」

「わ、わかりません……。急に気持ち悪くなって……」

「……まさか、フィーリア姉って地竜車に乗るの初めて!?」


 アシュリーの言葉にフィーリアは頭を動かして肯定を示す。

 フィーリアが首を縦に振るのを見たアシュリーは、その掌を口元にやった。


「地竜車は慣れるまでたまに気持ち悪くなる人がいるんだった……。昨日の道と違って、今日は整備されてない道を通ったからだ……。ご、ごめんなさい! まさか使ったことないとは思わなくて……!」

「い、いえ。だ、大丈夫ですから……」


 フィーリアはふらふらしながら立ち上がるが、顔色がすこぶる悪い。


「全然大丈夫そうに見えないんだが」


 そう呟く俺の前で、フィーリアは自身に回復魔法をかけた。

 白い光がフィーリアの身体を包み込む。

 その光が消える頃には、フィーリアの顔色はだいぶ元に近いものになっていた。


「……ふう、なんとか大丈夫になりました。魔力全部使っちゃいましたけど」

「ご、ごめんなさい……」


 アシュリーはしゅんと俯きながらフィーリアに謝る。

 フィーリアはそれに首を振り、アシュリーの滑らかな赤い髪を優しく撫でた。


「いえいえ、本当に大丈夫です。アシュリーちゃん()人の気持ちを考えられる、優しい人ですねー?」


 おい、なんでこっちを見る。

 ……筋肉が触りたいのか?


「仕方ねえな。……ほら、触っていいぞ」


 俺は袖を捲って腕をフィーリアの方に向ける。


「見当違いの気遣いにもほどがありますよ……」

「……あんた、ある意味凄いわね」


 よくわからんがアシュリーに褒められた。やったぜ。






 家の外に出ると、ジープップとは違う光景が広がっていた。

 家のつくりは似ているが、村道の幅が広い。


 頭上からはジリジリと太陽の光が降り注いでいる。


「じゃああたしは皆のところにいってくる! フィーリア姉も行こ!」

「はい。アシュリーちゃんの育った村、楽しみです」

「なら俺は適当にうろついてることにするわ」


 村を見て回ることにしよう。

 そう思っていた俺に向かって、フィーリアは言いにくそうに口を開いた。


「……ユーリさんが一人でいたら不審者だと思われないですかね」

「あー……。人の出入りが少ない村だし、ただでさえ外から来た人は目立つんだよね。こんな見た目ならなおさら……しょうがないなー。一緒に連れてってあげるわ」


 俺の筋肉はイケイケだろう。なんで不審者扱いされるんだ。

 納得できないが、アシュリーの生まれ故郷で不審者騒動を起こすわけにもいかない。

 仕方ないのでおとなしくついていくことにした。




「おお、帰ってきてたのか。久しぶりだな」


 アシュリーに声をかけてきたのは二十代前半の若い男だ。

 頭にねじり鉢巻きをつけて、いかにも祭り男という感じである。


「お祭りだよ? あたしが帰ってこないわけないじゃん!」

「お前は祭り大好きだもんな」


 青年は俺達の方に顔を向ける。

 日に当たっているのが似合う爽やかな顔だが、体は貧相だ。

 しかし、ギルドにいる魔法使いの冒険者と比べれば幾分か筋肉質と言っても良い。


「こっちの方たちは?」


 男に対してアシュリーが俺達の説明を始めた。心なしか誇らしそうである。


「フィーリア姉、すごい可愛い」

「よろしくお願いします」


 フィーリアが軽く頭を下げる。雑な説明だな。


「ユーリ、筋肉かぶれ」

「……よろしく頼む」


 俺の説明ひどくねえか。

 俺は別にかぶれちゃいねえぞ、筋肉とは真摯に向き合ってる。


「おう、俺はモイチってんだ。二人ともよろしくな。何もねえ村だけどゆっくりしていってくれや。……それにしても、アシュリーにも友達ができたか。よかったじゃねえか!」


 モイチはアシュリーの頭をクシャクシャと乱暴に撫でまわした。

 アシュリーも満更ではなさそうにしている。


「べ、別にあたしは人気者だから当然だけどね!」

「コイツはプライドが無駄に高えけど、根は良い奴だから仲良くしてやってくれ」

「余計なこと言わないの!」


 アシュリーがモイチに抗議する。

 わりいわりい、と悪気のなさそうな顔で謝るモイチ。

 なんだかんだ村では大切に育てられてきたのが今の光景を見るだけで伝わってくるな。


「私はアシュリーちゃんのこと妹のように思ってますよ。とっても可愛いです」

「フィーリア姉……」


 フィーリアがアシュリーに向かって慈悲深く微笑んだ。

 あまりにも魅力的なその笑顔にアシュリーは目を潤ませ、モイチは呆けたようにフィーリアを見つめている。かくいう俺も一瞬ドキッとしてしまった。


「そ、そうだ! うちの村の祭りには名物があるんだぜ。一足先にみせてやるよ、ついてきな」


 正気に戻ったモイチは見惚れた気恥ずかしさからか露骨に話題をそらした。

 しかしその話題に存外興味をひかれた俺とフィーリアはアシュリーと共に男についていく。


「あれは最初に見たらびっくりするよねー」

「ああ、なにしろうちの村のは特別製だからな」


 モイチとアシュリーの話を聞いても何のことか想像がつかない。

 そもそも祭り事情とかほとんど知らんしな。


「この角を曲がれば……ほら、見ろ!」

「凄いでしょ!」


 モイチとアシュリーが自慢げな声を出す。


「これは……」

「確かに凄いな」


 確かに凄かった。

 人体を(かたど)った巨大な炎が燃えている。

 その大きさは十メートルほどで、火であるにもかかわらず細部まで凝った造りになっていた。

 揺らめいていなければ一瞬巨大な人間と見間違えそうなほどだ。

 ある意味フィーリアの風神に似ている。風神の火版といった感じだろうか。

 つまり……火神か?


「近頃の祭りでは手順を簡略化して当日に神の像を創るところが多いが、うちの村は違う。一ヶ月間炎を絶やさないんだ。その間に少しずつ微調整を加えていくから、他の祭りの神像と比べても高クオリティなんだ。どうだ、驚いただろ!」


 そうなのか。一か月掛かっているならこの繊細さも納得だ。

 そして神というからにはやはり火神なのだろう。


「あたしの説明したいこと全部言わないでよ!」

「おっ、わりいな」

「でも他の仕事もあるでしょうに、一ヶ月間炎を絶やさないなんてすごく信心深いんですね」


 フィーリアの言葉に同意する。

 費用と便益が釣り合っているようにはとても思えない。

 ……なんか今のちょっとインテリっぽいな。まあインテリマッスルだから当然ではあるが。


「違うよ、フィーリア姉。皆お祭り騒ぎが好きなだけなの。もちろん火神様もちょっとは崇めてるけどね」

「まあ、そういうことだ。うちの村はじいさんばあさんに至るまで、もれなく祭り好きだからな。この時期になると仕事そっちのけで祭りの準備をすんだ」


 モイチがニカッと笑った。

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