6話 初依頼は薬草採取
ギルドで一波乱あったが、薬草採取の依頼を受けることにした俺たちは、街を出て外に向かう。
やってきたのは死の森とは別の森。危険度の低い魔物しかでない初心者御用達の森ということだ。
「おっ、あったな」
薬草を見つけた俺は、地面から薬草を引っこ抜く。
「見つけるの早くないですか?」
同じように地面にしゃがみ込んで薬草を探していたフィーリアが軽く驚いたような声を出した。
「匂いである程度わかるからな」
俺にとってはこのくらいは朝飯前だ。
なにせポーションもない森の中では、怪我がそのまま命の危機だったからな。そのままでもそこそこの効果がある薬草は俺にとって重要なものだった。
といっても森に住んでいた間に怪我をしたことなど一度もなかったのだが。
「回復魔法があるのに薬草なんて必要なのか?」とも思ったが回復魔法は使い手が少なく、使ってもらうには多大な金が必要らしい。
昨日宿でフィーリアがない胸を張りながら若干自慢げに教えてくれた。
そして今。匂いでわかると言った俺に、フィーリアは怪訝そうな顔をする。
「薬草って無味無臭だと思うんですけど」
「ほんのり甘い匂いがするぞ?」
俺がそう言うと、フィーリアは何かを諦めたような顔でため息をつく。
「……私やっぱりユーリさんが人間じゃない気がしてきました。薬草の匂いを嗅ぎ分けるなんて、犬でもできませんよ」
「まあ、森に住んでたしな。これくらいは出来る」
ピクン、と俺の言葉にフィーリアの耳が動く。
「森の民として負けられません……!」
フィーリアはプライドの炎が灯った眼で俺を見た。
「勝負するか?」
「望むところです!」
こうして俺とフィーリアの薬草採取対決が始まったのだった。
時は夕方。場所は森。
俺とフィーリアは薬草採取を続けていた。
「もう次元袋に入らないので、ここまでですね」
フィーリアの言葉で俺は薬草を探すのをやめる。
思ったよりも熱中してしまった。手ごわい相手だったぜ……。
フィーリアの採集速度は俺に全く劣らないものだった。森の民は伊達ではないといったところか。
なんでも、森を観察すればどのあたりに薬草が生えているかなんとなくわかるらしい。
「長年森で生きてきた種族ゆえの技です」と言っていたが、俺からすればフィーリアの方がよほど人間離れしていると思う。
「俺が百四十束、フィーリアが百三十六束。俺の勝ちだな」
結果は僅差で俺の勝ちだった。
「むぐぐ……こんなことならもっと大きい次元袋を街で買っておくべきでしたか。もう少し続けていれば勝負はわからなかったはずです」
フィーリアは唇を噛んで悔しがる。
……コイツ、そんなに負けず嫌いだったか?
今まで一緒にいた感じでは、マイペースであまり勝負事には執着しないタイプだと思っていたのだが。
もしかしたらエルフとしてのプライドは高いタイプなのかもしれないな。
「もう森に用はないし、とりあえず帰ろうぜ」
「うぇーん、うぇーん」
「……」
フィーリアは突然ド下手な泣きまねを始めた。
地べたに座り込み、両目を小さな手で覆っている。
そんなフィーリアを見て俺は思った。
「……なんだコイツ」
「う、うぇーん、うぇーん」
「……」
フィーリアが手の間から俺をチラ見してくる。
俺たちの間になんとも言えない空気が流れる。
俺が何か言った方がいいのだろうか。
ずっと一人で暮らしてきたせいで、こんな時どうすればいいかいまいちわからない。
俺が無言のまま立ち尽くしていると、フィーリアが口を開いた。
「……ユーリさん、慰めてください」
慰めてほしかったのかよ。それであんな下手な演技までしたのか。
なんか子供っぽいところもあるんだな。
フィーリアは手の間からチラリチラリとこちらの様子を窺っている。
もはや下手とかそういう次元を超えている気がするのは俺だけだろうか。
「……まあ、正直俺が負けてもおかしくなかったと思うぜ。フィーリアはすごかったよ」
「えへへ」
俺の言葉にフィーリアは一転顔を綻ばせた。
チョロすぎだろ……。
俺の言葉は本心だが、ここまで喜ばれると逆に不安になる。
「さあ、帰りましょうユーリさん!」
「……そうだな」
即座の立ち直りを見せたフィーリアに若干気後れしながら、俺はフィーリアの後に続こうとした。
とその時、右側の草むらから魔物が飛び出してくる。
俺は一瞬でその姿を捕捉した。
見た目は子犬ほどの大きさだが、前足の脚力は相当なものだ。
魔物はフィーリアを狙っているようだった。
「おらっ!」
「はあっ!」
飛び出してきた魔物に俺の拳とフィーリアの雷魔法が直撃する。
魔物は爆散した。
「……ユーリさん、その技より威力が低めな魔法は使えないんですか?」
フィーリアが俺の右拳を見ながら呟く。
フィーリアの言いたいことはわかる。「これじゃ魔物の素材が取れない」とでも思っているんだろう。
だが、俺にはこの魔法以外を使えない理由がある。
「俺にはどうやら筋肉魔法以外の才能がないらしくてな。生活魔法でさえ使えないんだ」
要は能力的に不可能なのだ。
俺が使える魔法は筋肉魔法だけ。
それ以外の魔法は使えないし、いつか使えるようになる気もしない。
というか、自分が魔力を持っていないことすらもこの前のギルドでのごたごたで初めて知ったくらいだ。
俺の言葉に、フィーリアは何かを思い出したようにポンっと手を叩く。
「あ、そういえばユーリさん魔力ないんでしたっけ。……折角魔法が効かないのにこっちから魔法が撃てないんじゃ、宝の持ち腐れ感半端ないですね」
「筋肉魔法は魔法だぞ?」
「それを魔法と認めたら魔法学は終わっちゃいますよ」
「なるほど。俺くらいの筋肉になれば魔法学の歴史に終止符を打てるということだな」
「全然違います」
最後に一波乱あったが、ともかく無事に初依頼を終えた俺とフィーリアであった。