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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
4章 炎姫と魔人編
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59話 対アシュリー

 決闘を約束した俺とアシュリー、それにフィーリアは荒原へとやってきていた。

 もう日も暮れかけているという時間帯であることも相まって、周囲に人の姿は見られない。


 吹きすさぶ風に長い赤髪を揺らしながら堂々と佇むその様は、たしかに一介の冒険者とは明らかに隔絶したものだった。

 暗い視界に刺激的な赤が輝く。


「逃げ出さなかったことだけは褒めてあげるわ。あたしに喧嘩を売ったらどうなるか、その身にわからせてあげる」

「決闘を挑んできたのはそっちだぞ」

「……こ、細かいことは良いのよ!」

「確かにそうだな。戦えるなら、それでいい」


 どちらから挑んだだの、そんなことはどうでもいい。

 肝心なのは俺は今からコイツと戦えるってことだ。


「ユーリさん、やりすぎないでくださいよ?」


 わざわざ付いてきたフィーリアが俺に注意を入れる。


「ああ、わかってるって」


 そんなに心配しなくても、殺すまではしない。決闘だからな。

 だが、その会話に噛みつく者が一人。


「何? 隣のあんたまであたしが負けると思ってるわけ?」

「い、いえ、そんなつもりは……」

「あんたたち、二人そろって嫌なやつらね!」

「そ、そんな……。私がユーリさんと同等……」


 おいフィーリア、そこは喜ぶところだろうが。

 膝をついて項垂れるとはどういう了見だ。




 ふう、と俺は肺から息を吐き出す。


「御託はこのくらいにしてさっさと始めようぜ」


 ぶっちゃけもう我慢できねえ。

 こんな強いやつと戦えるってのに、お預けは御免だ。


「ええ、いいわ。ぼっこぼこにしてやるんだからっ!」


 そう言って体から炎を漲らせるアシュリー。

 戦闘態勢に入ったことで、その魔力がどんどんと高まっていく。

 十メートルほど離れている俺のところまで熱気が届くほどだ。


「わくわくすんぜぇ……!」


 俺は歓喜に震えながら戦闘態勢をとった。









 十数分後、荒原。


「はあっ……はあっ……!」


 アシュリーの息はすでに上がっていた。

 その身体にはかすり傷以上の傷がいくつも付き、数か所からは血も流れている。

 満身創痍と言ってもいいだろう。


「いいぞ、もっとだ! もっとこいよぉっ!」


 対する俺は軽傷。

 何か所かやけどを負ってはいるが、いまだに息すら上がっていない。


「くうっ……絶対負けないわ……! あたしが……あたしが勝つのよ!」

「そうだ、諦めんな! 本気でこいやぁっ!」


 アシュリーが最大火力の火魔法を放ってくる。

 その大きさと威力はいずれも申し分ないものだった。


「そっちが火魔法ってんなら、俺はこれだろ」


 筋肉魔法。

 ――筋肉をひたすらに鍛えた者だけが扱える、最強にして最高の魔法。


 俺はありったけの力を込めて、向かい来る炎の渦に拳を撃ち込んだ。

「ゴオッ」と音がして、俺の拳が燃える。

 これはあいつの炎で燃えたんじゃない。俺の拳が空気を燃やしたんだ。


「おらあっ!」


 俺の拳は炎の渦を真っ二つにかち割った。

 そしてすぐさまアシュリーに接近する。


「くっ……」


 アシュリーもそれに対抗しようとするが、最大魔法を撃った反動で動くことができない。

 俺は無抵抗のアシュリーの首筋に手刀を添えた。


「終わりだな。俺の勝ちだ」

「あ……」


 アシュリーは呆然と、焦点の定まっていない眼で首に添えられた俺の手を見る。


 俺は手刀を首から離し、戦闘態勢を解除した。

 俺の体型が二百センチ越えの巨体から、通常サイズへと戻る。


「なかなか楽しかったぜ。お前、強いなぁ。Sランクなだけはある」

「負けた……? あたしが……?」

「またやろうぜアシュリー。明後日でも明日でも、なんなら今日でもいいからよ!」


 実際この少女の実力はかなりのものだった。

 もしかしたら俺が十三歳の頃より強いんじゃないだろうか。

 しかも決闘でこれだ。命がけの勝負ならもっと強いのだろう。

 そう考えるとアドレナリンが絶えず分泌されまくり、俺のテンションは留まるところを知らなかった。


 しかし、アシュリーは俺の言葉に答えてくれない。


「なあアシュリー、聞いてるのか?」


 もう一度聞いてみるが、相変わらず返事はない。


「アシュリーさん、大丈夫ですか?」


 フィーリアが駆け寄りアシュリーに回復魔法をかける。


「……何だ? どっか大怪我でもしちまったか?」


 俺の気づいた限りではそこまでの大怪我はさせていないはずなんだが……。


「いえ、そこまでの怪我はなさそう――」


 と、そこまで言ったところでフィーリアは言葉を切る。

 何かと思って見てみると、アシュリーは赤い瞳から大粒の涙をぽろぽろと流して泣いていた。


「えぐっ、ぐうぅ……ひっく! ……あんたなんて嫌いっ! 大っ嫌いなんだからぁっ!」


 アシュリーは立ち上がり、治療の途中にも関わらずどこかへと走り去ってしまった。







 荒原に残された俺たちはジープップへと歩いていた。


「嫌われちゃったみたいですねユーリさん。……多分私もですけど」


 フィーリアは落ち込んだ素振りを見せる。


「何でだ?」


 俺にはアシュリーに嫌われた理由がわからなかった。

 特に何かをした覚えはないのだが……。


「さあ。心を読むのは失礼ですし、正確にはわかりません。……でもまあ、なんとなく予想はつきますけどね」


 どうやらフィーリアには思い当たる節があるようだ。


「へえ、良ければ聞かせてくれ」

「彼女――アシュリーさんは凄い才能ですよね。十三歳でSランク、それも史上最年少ですから」

「そりゃそうだろうな」


 最年少ってことはそれまで前例がなかったってことだ。

 どんな分野のどんなことであろうと、前例がないことを成し遂げられるやつは凄い。


 フィーリアは言葉を続ける。


「だから彼女はその才能ゆえに、今まで大きな壁にぶち当たったことがなかったんでしょう。そして今ユーリさんという大きな壁とぶつかった……こういうことじゃないですかね?」

「……ん? どういうことだ?」


 俺は首をひねる。


「壁にぶつかったなら嬉しくなるもんじゃないのか?」


 それを聞いたフィーリアは「ああ、ユーリさんはそういう人でした」と、どう受け取っていいのかわからない発言をした。


「多分ユーリさんには説明しても理解できませんね。……まあ、皆が皆ユーリさんのようなメンタルは持ってないってことです」


 そう言ってフィーリアは立ち止まる。


 振り返った俺に、フィーリアはひらひらと手を振った。


「私、アシュリーさんを探してきます。ちょっと心配なので」

「そうか。夕飯は用意するか?」

「いえ、大丈夫です。じゃあ、おやすみなさい」

「おう、おやすみ」


 俺はフィーリアと別れて一人ジープップへと帰る。

 元々俺は他人の気持ちを(おもんばか)るのが苦手だからな。

 ついて行ったら余計面倒なことになりそうだし、大人しく宿に帰って筋トレでもしていた方がいいだろう。

 俺はフィーリアの方を一度振り返り、再び宿へと歩き始めた。




 ――だから、ここから先は俺も知らない話。フィーリアとアシュリーだけの、秘密の出来事。

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