58話 赤髪の少女
今日は依頼のためにギルドに来ている。
といっても、もう依頼を終えたところだが。
「お疲れ様でした。依頼完了です」
「どうも」
ギルドに依頼の達成を報告した俺たちは宿へと帰ろうとする。
とその時、新たな冒険者がギルドにやってきた。
ルビーのように赤いなめらかなツインテールの長髪に、勝気な印象の軽いツリ目。
そしてその小さな体を全身真っ赤の衣装で覆っている。
肩に紐がかかった袖なしの赤いシャツと、太ももを大胆に露わにした赤いハーフパンツだ。
百六十センチ台中盤のフィーリアより頭一つ分小さいことを考えると、身長は百四十五センチほど。
ギルドへと入って来たのはそんな見た目の十二、三歳の少女だった。
「おい、あいつ……」
「ああ、あれが噂の……」
少女が入って来た途端、ギルド内がざわつきだす。
どうやらかなり有名な冒険者らしい。
注目の的になっている少女は周囲の目をものともせず、カウンターに向かってツカツカと歩く。
とそこで、ギルドから出ようとしていた俺の体と少女の肩がぶつかってしまった。
「おっと」
身長百七十数センチの鍛え抜かれた体を持つ俺と目測百四十五センチほどの華奢な少女では、衝突による衝撃が全く異なる。
俺は尻もちをつきそうになった少女を守るため、筋肉を解放してすばやく少女の背に腕を回した。
危ないところだったが、なんとか少女の体を支えることに成功する。
「悪い、不用心だった。怪我はないか?」
少女は肩を軽くさすりながら、俺の方を向いた。
「いたた……。いいえ、あたしこそ注意が足りなかったわ。支えてくれてどうもありが――って、きゃああっ! 化け物おぉっ!」
少女の甲高い絶叫がギルドに響く。
俺はすぐに戦闘態勢をとり、きょろきょろと辺りを見回す。
「化け物!? どこだ! 戦いたいっ!」
「あんたよあんたっ! 何よその体型は!?さっきまで普通だったじゃない!」
しかし化け物とは俺のことだったらしい。がっかりだ。
大体俺のどこが化け物だというのだ。
ただ筋肉を解放したから瞬く間に身長が頭一つ分大きくなって、体中が分厚い筋肉の鎧で覆われただけじゃないか。
「それは普通に化け物です」
フィーリアが隣で心を読んで何か言ってるが、俺に都合の悪そうな内容なので華麗に無視を決め込む。
そして俺の腕の中で小刻みにその小さな頭を振る少女の誤解を解いてやることにした。
「俺は化け物じゃない。これは筋肉だ。鍛えたらこうなった」
「普通ならないわよ! 頭おかしいんじゃないのっ!?」
普通なるだろ。そして頭もおかしくない。
「俺はインテリマッスルだ。……まあ、それくらい吠える元気があるなら怪我の心配もなさそうだな。手、離すぞ?」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ……」
少女の背に回した腕を引っ込めようとしたところで、少女が急に焦ったように慌てだす。
しかし俺にはその理由がわからない。
反応からして俺のことを好いているわけでもないようだし、これだけ元気なら怪我もしていなそうだ。
「? なんだよ?」
理由がわからない俺は直接聞いてみることにした。
少女はチラリと俺の顔を見、そして気まずそうにきょろきょろと目を左右に逸らした後、軽く俯きながら顔を赤くして言った。
「……腰、抜けちゃったみたい」
俺たちの間に沈黙が流れる。
その言葉に反応したのは黙って事の成り行きを見守っていた冒険者たちだった。
「……おい、今腰ぬけたって言わなかったか?」
「『炎姫』アシュリーも大したことないな」
「実はあいつ弱いんじゃね?」
「まあまあ、そう言ってやるなって。まだ十三歳のお子ちゃまなんだからよ!」
「お前が一番馬鹿にしてるじゃねえか!」
「ガハハハハ!」
嘲笑がギルドを包みこむ。
心無い野次に、少女は一層顔を赤くした。
「あまり気にしない方がいいですよ。あんな塵芥みたいな人たちの言葉なんて、真に受けるだけ無駄ですから」
フィーリアが少女にそう優しく声をかけ、回復魔法を使う。
腰が治るや否や、少女は俺の腕から素早く離れた。
「よくも……」
しかし少女はかなり怒っている様子だ。
顔を真っ赤にし、その小さい拳をぷるぷると震わせている。
まあこのくらいの年の少女に悪口を受け流せと言っても難しいだろう。
「よくもあたしに恥をかかせてくれたわね、あんた!」
そう言って少女はズビシッと俺を指差した。
……え、俺?
「俺が悪いのか?」
「悪いなんて言ってないわ。ただ気に入らないのよ! あたしはあんたに決闘を申し込む!」
「いいぞ」
なんかコイツ強いらしいし。
強い相手と戦えるなんてむしろこっちから頼みたいくらいだ。
俺の返事を聞いたアシュリーは意外そうに目を細めた。
「あら、随分自信があるじゃない。あたしを『炎姫』アシュリーだと知ってのことかしら?」
そう言って唇を触る動作は、十三歳とは思えないほどの艶めかしさで溢れている。
「いや、全然知らん。お前誰だ」
ピキッと少女の額に青筋が浮かぶ瞬間を俺ははっきりと見た。
さきほどの艶めかしさはどこへやら、「キーッ」と怒るその仕草はもう年相応の少女にしか思えない。
「誰って今名乗ったでしょうが!」
「すまん、聞いてなかった」
「はぁ!? ふざけないでよ!」
「まったく……」と言いながらももう一度ズビシッと俺を指差す少女。
律儀にももう一度名乗ってくれるらしい。真面目なやつだ。
「あたしはアシュリー・アリシエッタ。最年少Sランクの天才魔法使いよ!」
「おお、Sランク! 凄いな、強いな、嬉しいな! 俺はユーリだ、じゃあ戦おうぜ!」
こうして俺とSランク冒険者、アシュリーは戦うことになったのだった。
Sランクと戦うのなんて初めてだ。腕が鳴るぜ!




