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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
4章 炎姫と魔人編
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56話 眼鏡はインテリの証

 福引で伊達眼鏡と靴紐(茶色三色)を当てた俺たちは、宿のベッドで話し込む。


「結果は六等でしたけど、ユーリさんは二回とも靴紐でしたし、この勝負は私の勝ちですね」


 フィーリアは上機嫌に鼻を鳴らす。


「仕方ない、今回は俺の負けだ」


 二回とも参加賞というあまりにもふがいない結果な以上、異議を申し立てることも出来ない。

 俺の敗北宣言をフィーリアはうんうんと目をつぶって聞き入れた。


「くるしゅうないぞよ」

「なんだそのキャラ」


「偉い人になりきってみました」とフィーリアは真面目な顔で言う。

 どうやらフィーリアの中の偉い人像はこんな感じらしい。


「そういえばユーリさんに勝負で勝ったのってすごろく以来な気がします。やっぱり勝てると嬉しいですね!」


 フィーリアは声を弾ませて、腰を着けたベッドの上で身体を揺らす。

 すごろくか……。


「ああ、すごろくっていうとあのフィーリアがインチキしたやつか。ズルして勝ったやつだな」

「ギクッ。ぼ、墓穴を掘りました……。あの時のことはもう忘れてください。あれはほんの計画的な出来心だったんです!」

「それは出来心って言わないぞ。ただの計画的犯行だ」


 俺が真っ直ぐフィーリアを目線で捉えると、フィーリアは露骨にわたわたと視線を動かす。

 そして眼鏡を手に取り、高々と掲げた。


「ま、まあ、昔のことは良いじゃないですか! それより今は眼鏡です!」


 それもそうだな。

 ぐちぐち蒸し返すほど酷いことをされたわけでもないし、もういいか。

 俺は追及を止め、眼鏡の話題に心を移す。


「特別にユーリさんからかけていいですから。それですごろくの件はチャラってことでお願いします」

「わかったよ」


 もう許していたのだが、かけさせてくれるのならばありがたくかけさせてもらおう。

 俺はフィーリアから黒い伊達眼鏡を受け取る。

 四角いフレームが知的な印象を感じさせる眼鏡だ。


 ほう……。

 俺は人知れず目の前の眼鏡に感嘆する。

 これなら俺のひそかな野望を果たせるかもしれない。

 ――知的キャラになるという野望が。


「俺はインテリマッスルなんだが、どうにもそのインテリ具合が伝わってないみたいだからな。この眼鏡で知的キャラになってやる!」

「ユーリさんユーリさん、残念ながらその発想自体が知的じゃないです」

「フィーリア、文句は眼鏡をかけた俺を見てから言うんだな」


 俺は眼鏡をかけ、顔をフィーリアの方に向ける。


「どうだ、知的か? 俺は知的か?」


 俺の顔を見たフィーリアは、ゆっくりと顔を傾けた。


「……おおー……? 微、妙ですね……。うーん、普通よりちょっと似合ってないかなって感じです」


 似合ってないのか……。

 鏡で自分でも確認してみるが、似合ってるとか似合ってないとかぶっちゃけよくわからない。

 まあフィーリアが微妙って言うってことは微妙なんだろう。


 なら眼鏡で知的計画は中止だな。

 そもそもからして、物に頼ると言う発想が駄目だ。

 俺という存在から醸し出されるアトモスフィアによって知的さを伝えなくては。




 そんなことを考えていた俺は、眼鏡について気になることを発見した。


「なあフィーリア。この眼鏡、これじゃちょっと貧弱すぎないか?」

「確かに細いですけど、眼鏡って意外と丈夫ですよ?」

「そういうことじゃなくてさ。軽いんだよ」

「最近の技術は凄いですよねー。かけてる感じがしないですもん」


 フィーリアが何気なく発したその言葉。

 それを聞いてピンときた俺は、指をパチンと鳴らす。


「そこだ!」

「……どこですか?」


 フィーリアが怪訝そうな顔で俺を見てくる。

 ならば説明してやろうではないか。俺の画期的なアイディアを。


「どうせ眼鏡をかけるなら、岩くらいに重量があるものにした方がトレーニングにもなって楽しいんじゃないかと思うんだよ」

「絶対楽しくないです」


 即座に否定されてしまった。

 でも方向性はあってると思うんだよな。


「やっぱり何かインパクトがあるといいよな。……そうだ、突然何の前触れもなく全身を感電させる機能付きってのはどうだ? 凄いインパクトだろ! それにスリリングだ」

「そんなインパクトは誰も求めてませんし、眼鏡にスリリングさはいりません」


 眼鏡にスリリングさっていらないのか。

 じゃあ皆何のためにかけてんだ?


 納得がいっていない俺を見て、フィーリアはハァ、とため息をつく。


「ユーリさんって骨の髄から脳筋思考ですよね」

「よせよ、照れるだろ」

「ユーリさん気づいてください。私今ユーリさんのこと(けな)してます」

「なんだ、貶してたのか」


 気づかなかった。


「『筋』って付いてたら何でも喜ぶのどうかと思いますよ?」

「嬉しいんだから仕方ないだろ。見ろよこの筋肉。うへへへ……」

「うわぁ……」


 うっとりとした目で自分の筋肉を眺める俺を見て、フィーリアは自らを抱きかかえるようにして腕を交差させた。


「そんな顔するけどな、お前は自分の顔を鏡で見た時どう思うんだ?」

「この世界は私のために存在してるんだろうなーって思います。具体的に言うと可愛すぎて食べちゃいたい。ぐへへへ……」

「うわぁ……」


 何コイツ、頭おかしいんじゃねえの?


 俺はぐへへと笑うフィーリアから少し距離をとったのだった。

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