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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
4章 炎姫と魔人編
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55話 福引で運試し

「何食べます?」

「俺は何でもいいぞ」

「そうですか。私も特に食べたいものもないですし、見てから決めますか」


 俺はフィーリアと共に食材を買いに大通りまでやってきていた。

 ジープップの街並みはムッセンモルゲスと特に変わったところはない。


 ただしそれは街並みの話。

 売っている食材に関して言えば、農業が盛んな分ジープップの方が種類も品質も優れている。


 俺たちはジープップの商店街を練り歩き、夕食の材料を探す。

 夕食時だからだろう、商店街は活気に満ち溢れている。

 男女比は大体三対四ほど……いや、二十九対四十だな。

 商店街全員の気配を感じとり、俺は正確な人数比を知ることに成功する。

 こういった日常の場でも絶えず訓練をしないとな。


「難しい顔してどうしたんですか?」

「フィーリア、二十九対四十だったぞ」

「そうですか、それはよかったですね」


 見事に受け流されてしまった。

 仕方がないので本格的に食材探しに取り掛かる。

 そしてすぐに一つの候補を見つけた。


「これなんかどうだ? ブタウマギュウ」


 ブタウマギュウとは、豚の鼻をした牛のような体で「ヒヒーン」と鳴く魔物のことだ。

 部位によって豚の味がしたり牛の味がしたり鶏の味がしたりする。なんで馬の味がしないのかは知らん。


 ともあれ、美味しいことで有名な魔物だ。

 少し値は張るが、俺たちにとっては関係ない。

 ほとんど食事以外に金を使わない俺たちの懐には金が溜まっていく一方だからだ。


「いいですね。じゃあ今日はハンバーグにしますか」


 フィーリアも俺の提案に頷いて賛同してくれる。


「なら主菜は決まりだな。あとは副菜を……」


 俺たちは買い物を続けた。









 買い物を終えた俺たちは帰路につく――のが普段の行程なのだが、今日は違っていた。

 フィーリアがぺらぺらと扇いでいる四枚の紙がその理由だ。


「福引券なんてものがあるんですねー」


 買い物を終えたときに渡された福引券、その有効期限が本日限りということで、俺たちはわざわざ反対方向の福引場所まで歩いているのだ。


「なんか面白そうですよね。里にはこういったものが無かったので、少し楽しみです」


 フィーリアは笑顔で福引券をぺらぺらさせる。

 そんなに楽しみなのか。


「じゃあフィーリアが全部引くか?」

「えっ、いいんですか?」


 俺がした提案に目を輝かせるフィーリア。

 そしてそれを見て目にハートマークを浮かべる道行く男たち。

 たしかにフィーリアが可愛いのはわかるが、お前らはちゃんと前を見て歩け。


「んー……」


 俺が周囲に気をとられている間に、フィーリアがなにやら唸りだしてしまった。

 顎に柔らかそうな手を置き、「むー……」と悩ましげな声をあげている。

 一体どうしたのだろうか。


 声を駆けようかと思った矢先、フィーリアは勢いよく顔を上げた。


「……うん、やっぱり半分こします。その方が楽しいですし」


 そう言ってフィーリアはにへらと笑う。

 ……なんだかんだ言って、やっぱり良いやつなんだよな。

 俺は二枚の福引券を受け取った。


「お前ってたまに優しさ見せるよな」


 そう言うと、フィーリアは眉をひそめる。


「優しさ……? あ、もしかして何か勘違いしてません? 私はユーリさんが外れを引くのが楽しみなだけですよ?」


 なんだコイツ、ただのゲスじゃねえか!

 先程までの純真な笑顔とは対照的な、腹黒さが極まったような笑顔を浮かべるフィーリア。

 コイツを良いやつだと思った俺が馬鹿だった。


「まあいい……一等は俺が貰ったからな!」

「急にやる気ゲージマックスになりましたね」

「やるからには全力で。当然だ」


 絶対外れなんか引いてやらないんだからな! 絶対だぞ!









 数分歩いたところで、紅白の屋根を張ったテントが見えてきた。

 その前には数人が列を作っており、先頭の一人がガラガラと音のする抽選機を回している。


「ここが福引をやってる場所みたいですね」

「早速並ぶぞ」


 俺たちは最後尾に並び、順番が回って来るのを待った。



 一人一人にかかる時間はそれほど長くないようで、ほどなくして俺たちの番がやって来る。

 最初に引くのは俺だ。


 俺はチラリとテントの奥に飾られた商品を見る。

 一等は薄黄色の球で、ジープップならどこでも使える商品券があたるようだ。

 ぶっちゃけると金が余っている俺たちにはあまり必要のない代物だが、一等である以上狙いに行くしかない。


「ふぅ……」


 チャンスは二回、その間に一等を当ててやる。

 俺は一つ息を吐き、目の前の茶色い抽選機を回す。

 抽選機はガラガラと音を立てて回り、その口から茶色い球を一つ吐き出した。


「茶色は参加賞ですね。靴紐になりまーす!」


 運営員の若い女から細い紐を渡される。

 それは球と同じ茶色い色をしていた。

 参加賞というからには外れなのだろう。実際いらないし。


「ぷぷぷ……」


 後ろからはフィーリアの実に愉快そうな笑い声が聞こえる。

 うぜえ――っと、集中だ集中!

 これは俺の神経を乱すアイツの作戦だ。惑わされるな俺!


 俺は精神を安定させ、再び抽選機の取っ手を掴む。

 これがラストチャンス、なんとしても一等を当ててやる。


「薄黄色来い薄黄色来い!」

「薄いんだか濃いんだかよくわからなくなってきますね……。あ、ちなみに私は恋より愛が好きです」

「それはこの前も聞いた! そんなことより薄黄色だ!」


 俺は抽選機を回す。

 ガラガラと音を立て、抽選機は陽気に回る。

 そして茶色い球を一つ吐き出した。

 悔しいが、どうやらまた外れを引いてしまったようだ。


「……ん?」


 いや、茶色っぽいがさっきとは微妙に色が違う。茶色より気持ち濃い目だ。

 これはもしかして、当たりか!?

 一等でなくとも、二等、三等の可能性は――


「焦げ茶色は参加賞ですね。靴紐になりまーす!」


 運営員の女の元気な声と共に、俺の手に靴紐が収まる。

 その色は先程の靴紐より若干濃いものだった。


「……このカラーバリエーションいるか?」

「お客様に楽しんでいただくためにご用意いたしました!」


 ニコニコとそう言われれば、責めることも出来ない。

 俺は二回とも参加賞という渋い結果に終わってしまった。


「残念でしたねユーリさん……にひ」

「ぐぐぐ……」


 笑いを堪えきれていないフィーリアにポンポンと肩を叩かれるが、結果が結果だけに言い返すことができない。


「まあ見ててくださいよ。超絶美少女福引エルフのフィーリアさんが、福引とはなんたるかを教えてあげます」

「やったことないんじゃねえのかよ」


 大体福引エルフって何だ。


 俺の反論にフィーリアは「チッチッチッ」と指を振る。


「やったことなくても当たるんですよ。天に愛された女ですからね、私」


 そう言ってフィーリアは迷いなく抽選機を回し始めた。

 ガラガラという音と共に、抽選機は球を一つ吐き出す。


「あっ……」


 そこから出てきたのは茶色い球だった。

 それはもう、まごうことなき茶色だった。


「お前も俺と一緒じゃねえか」

「ま、待ってください! 若干色が違いますから! ほら、ちょっと薄いじゃないですか!」


 フィーリアが指差す球の色は、なるほどたしかに俺が出した茶色い球よりも少し淡い色合いをしていた。


「き、きっと薄黄色が汚れちゃったんですよ。つまりこれが一等です。そうに決まって――」

「薄茶色は参加賞ですね。靴紐になりまーす!」


 無情にも、運営員の女の声がフィーリアの声を遮った。

 紐を受け取ったフィーリアはぷるぷると震えている。


「茶色系統全部外れなんですか!?」

「茶色系統全部外れです!」

「そんなぁ……」


 フィーリアは項垂れるが、それで何が変わるわけでもない。


「外れ引け……外れ引け……」

「……ユーリさん、なに小声で私が外れ引くの望んでるんですか」

「仲間になろうぜ。外れ同盟だ」

「そんな名前の同盟、絶対加わりたくないです……!」


 フィーリアが抽選機の取っ手を掴む。


「お願い、薄黄色来てください……!」


 そして抽選機を回した。

 抽選機はガラガラと回り、そして一つの球を吐き出す。


「あ!」


 その色は――薄い黄色だった。


「やった、やりましたよユーリさん!」

「おお、凄いなフィーリア!」


 思わず手を取って喜びあう俺たち。

 そんな俺たちに運営員の女はにっこりと笑いかけ、告げる。


「レモン色は六等ですね。伊達眼鏡になりまーす!」

「……えっ」


 どうやらフィーリアが引いたのは薄黄色ではなくレモン色だったらしい。

 フィーリアは伊達眼鏡を渡され、福引を終えた。







「一等じゃなくて残念だったな」


 宿へと帰る途中、黒いフレームの伊達眼鏡を手に持つフィーリアを慰める。

 ……というかなんでこれは黒のフレームなんだ。そこはレモン色にするべきだろ。


「まあでもこっちの方が使い道ありそうですし、逆に良かったです」

「そうか」


 フィーリアは一等を当てられなかったことも特に残念がっていないようだった。

 たしかにおしゃれとして使えることを考えれば、眼鏡の方が良い景品かもしれない。


「家に帰ったら早速つけてみます。ユーリさんにも貸してあげますよ」

「本当か? ありがとな」

「……絶対似合わないでしょうけど。くひ」

「お前はいつも一言余計だな」


 そんな会話をしながら宿へと帰った。

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