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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
1章 始まりの街編
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5話 ギルドと言えばの代名詞

「まあ、とりあえず習うより慣れろ。一回依頼を受けてみて――」

「よう、姉ちゃん中々可愛い顔してんじゃねえか」


突然野太い声がフィーリアに浴びせられる。

そちらを向いてみると、二十歳くらいの男数人がフィーリアにゆっくりと近寄ってきていた。

男たちはニタニタと笑顔を浮かべながら舌なめずりをしている。


……なんだかヒョロッヒョロの頼りない体してんなぁ。

男たちを観察した俺はそんな感想を抱く。

顔は整っているが、身体はまるで枝のように頼りない。

魔法使いなのかもしれないが、そうだとしても冒険者ならば最低限の筋肉は必要だ。

相手の攻撃を避けられるのと避けられないのでは取れる戦略の幅が変わってくるのだが……。


「……何か用ですか」


フィーリアが不機嫌そうに言う。会話を遮られて怒っているようだ。


「いや、姉ちゃん綺麗だなぁと思ってよ。そんな冴えない男といるより俺たちといたほうが楽しいぜ?」


男たちはニヤニヤと笑いながらフィーリアに近づく。

フィーリアはギルドに入った瞬間から目立っていたし、こういうやつが声をかけてくるのも不思議ではないか。


「はぁ、そうですか。お断りします」


フィーリアは心底面倒くさそうに男たちの提案を退ける。


「……あぁ? 何言ってんの姉ちゃん」

「あなたたちといても楽しくなさそうなので。それと一つ言わせてもらうと、私に弟はいません。『姉ちゃん』などと不愉快な言葉で呼ばないでください、吐き気がします」


「おえっ」と舌を出すフィーリア。

それを見た男たちは怒るのかと思いきや、フィーリアの桜色の舌を見て少し嬉しそうにしている。

なんとも救えないやつらだ。


「おうおう、気が強いねぇ。そういうところも俺たちのタイプだわ。あんなイカれた体のやつほっといて俺らと遊ぼうぜぇ」


誰がイカれた体だこら。お前は人のこと言う前にその貧弱な体を何とかしろ。


俺でさえ嫌気がさしているのだ。フィーリアは相当フラストレーションが溜まっているだろう。

そう思ってフィーリアを見ると、心底嫌そうに眉をひそめていた。


「いやあの、本当いい加減にしてもらっていいですか。あなたたちと私とでは顔が釣り合っていないので」


なかなか辛辣だ。フィーリアと顔の釣り合う人間なんてそもそもいないだろうに。


俺の目にはかなり怒っているのが一目瞭然なのだが、おめでたい男たちは気づいていないらしい。

目が見えていないのかと思ってしまうほど鈍いやつらだ。……これは俺が止めた方がいいかもしれないな。


「つれないこと言うなよな。一緒に楽しいこと、しようぜ?」

「おい、待てよお前ら」

「ユーリさん!」


 俺は男たちとフィーリアの会話に割り込む。

 今のは流石に聞き捨てならない。


「俺もいれてもらおうか……筋トレに」


 俺抜きで筋トレ(楽しいこと)しようなんてなめた野郎共だ。

俺がそう言うと、男たちもフィーリアも一様に変な顔をした。


「……てめえ、何を言ってやがんだ?」

「ユーリさんに期待した私が馬鹿でした」


 何だ違うのか。


「お前らにはがっかりだよ」

「勝手に期待して勝手に失望しないでください」


「てめえら……おちゃらけてんのもいい加減にしとけよ」


三者三様の魔法を準備し始める男たち。その矛先はフィーリアへと向いていた。

――それはさすがにやりすぎだ。


俺は男たちの魔法が放たれる前に、男たちとフィーリアの間に割り込んだ。

必然、魔法は俺の身体へと直撃する。だが全く痛くも痒くもない。


俺は内心ため息を吐いた。

森に住む魔物よりずっと弱い。弱すぎる。


「大丈夫かフィーリア?」

「はい、大丈夫です」


まあそうだろうな。フィーリアなら俺が守らなくても問題なく対処できていただろう。


「なんで無傷なんだよ! 服すら汚れてねえっておかしいだろうが!」

「ふふん、ユーリさんは野蛮人ですからね」


フィーリアが得意げに言う。

何の理屈にもなってないし、なんでフィーリアが誇らしげなんだ。


「ふ、ふざけてんじゃねーぞこら!」


男たちは意地になって魔法を連発してきた。

手元が狂っているせいで俺から外れる魔法もしばしばある。

俺は取りこぼしの無いよう、それらに自分から当たりに行った。


「なんで自分から当たりに行ってるんですか……」

「だってギルドの内装汚したら悪いだろ?」


数分後、ギルドの中心には疲れ果てたように肩で息をする三人組と全く無傷の俺の姿があった。


「てめえ、化け物じゃねえか……!」

「お前らが弱すぎるだけだ。それで本気なのか?」

「いい気になりやがって……!」


一人が俺を睨んでくるが、全く怖くない。

大体睨んでいる本人が俺を怖がっているのが見え見えだ。


「て、手加減! そうだ、今のは人相手だから手加減したんだ!」


 三人の内の一人がそう言うと、他の二人も追随する。


 こいつら……今、聞き流せないことを言ったな。

 俺はその場に仁王立ちした。


「手加減だと? そんな生ぬるいことしてんじゃねえ! もっと……もっと来いよぉっ!」

「なんなんだおまえ! 気持ち悪いんだよ!」


 男たちが再び背後に気を集めだす。

 そうだ、もっと来い! これは魔法に耐性をつけるためいい練習になる!


「そこまでだ! 街内での魔法の使用はご法度なのは常識だぞ!」


 もう少しで魔法が撃たれると言うところで、どこかの隊服のような白い服を着た男が大声を上げながらギルドに入ってきた。

 ちっ、魔法をくらう練習はおあずけになっちまった。

 いや……そういえばフィーリアも魔法使えるんだよな。今度俺に向かって撃ってもらおう。


「おい、おまえ! 聞いてるのか!」


 おっと、深い思考の世界へ落ちてしまっていたらしい。

 気付けば三人の男たちは入ってきた男によって捕えられていた。魔法によって創りだした糸で動きを封じているようだ。


「おい! 聞いてるのか!?」

「何の用だ」


 うるさいので返事を返す。


「お前も知っているだろうが、街中での害意ある攻撃魔法の使用は厳禁だ」


 それはギルドでも聞いた気がする。

 だけど俺には関係のないことのはずだが。筋肉魔法は使っていないし。


「私はこの街の騎士団の一員だ。あいつらが君たちに絡んだということは知っているが、こちらとしても規則は規則なのでね。一応ご同行願いたいのだが」

「よくわからないが……それでなんで俺が同行しなきゃいけないんだ?」

「魔法を使っただろう?」

「いや、俺は魔法なんて使ってないが」


弱すぎて筋肉魔法を使うまでもなかったしな。


「馬鹿な! では先ほどの魔法をどうやって防いだというのだ!」

「どうやってってそりゃあ、筋肉で」

「ふざけるな!」


 ふざけてなんていないのに。理不尽なやつだ。

 鍛え上げられた筋肉は刃物も通さないんだぞ。あの程度で傷つくわけがないだろう。


「お前も連れていく!」

「あ?」

「ちょっと待ってください。ユーリさんは本当に魔法使ってませんよ。この人魔力なんて皆無ですし」


 おお、フィーリアが俺のフォローに回ってくれるとは。もうちょっと薄情な奴だと思ってた。

 というか俺魔力ねえのかよ。初めて知ったぞ。


「なんであなたにそんなことがわかる?」

「私エルフなので」


 エルフはそういうのわかるのか。

 騎士団の男は渋々ではあるが納得してくれたようだ。よかったよかった。

 これで時間を無駄にしないで済みそうだ。


「最後に一ついいか」


 男が俺の方を向く。

 俺は首を縦に動かして先を促した。


「俺の魔法もその体で受けてくれないか。それができたのならばあなたの身の潔白は証明される」

「あんたが魔法使うのはいいのかい?」

「騎士団に所属する騎士の魔法の使用は許可されている」

「じゃあ何の問題もないぜ。こいよ」


 男は俺の返事を聞くと、目をつぶり集中し始めた。

 先ほどの三人とは比べ物にならない気が彼の前に集まっていくのを感じる。これはなかなか面白そうだ。

 三秒と待たずに形作られたのは、炎の玉だった。言うまでもなく密度は先ほどの比ではない。


「いくぞ」


 男はそう言って俺に炎の玉をぶつける。






「なかなかいい炎だ。服が焦げちまったぜ」


 良い攻撃だったが、俺の体に傷をつけるまでには至らない。

 しかし俺の服を燃やしただけでもたいしたもんだ。


「……信じがたいことではあるが、たしかに魔力は感じられなかった。疑ってすまない」

「いや、俺としてもいい修業になった」


 あの程度で服を燃やされるなど俺もまだまだ甘い。

 男は俺にもう一度非礼をわびた後俺に服代を渡し、三人を連行していった。

明らかに服代よりも金が多いのは迷惑料も含めているからなのだろうか。俺は迷惑じゃなかったから余計なお世話なんだけどな。


「良かったですね、連れて行かれなくて」

「ああ。あやうく依頼を受けられないところだったぜ。一刻も早く金を稼がなきゃいけないってのにな」


それに、いち早くランクを上げて色々な場所に行ってみたい。

そうすれば強いやつと戦える。すると俺も強くなれる。

このような最高の流れが出来上がるのだ。


「本当に戦闘狂なんですね……。もう何も言わないです」


 俺の心を覗いたのか、フィーリアは落胆したような顔をする。解せぬ。


「まあいいや。とりあえずこれを受けるぞ」


 俺は依頼を掲示板から剥ぎ取り、受付へと向かった。

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