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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
3章 フィーリア編
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49話 『狂面』 ミジリーモジリー

「待てよ。俺も混ぜろ」


 俺は向かい合う二人に割って入る。

 二人だけの世界入ってんじゃねえぞ。こんな楽しそうな戦いに参加できないとかどんな拷問だ。


「貴様が混ざろうと混ざるまいと、どのみち皆殺しだ。結末は動かん。世界は滅亡せねばならんのだ」

「良くわからんが、俺も参加するぜ」


 しかし、ここで考えなければいけないのは俺の立ち位置だ。

 ミジリーモジリーは敵でいいとして、エルフィートはどうなんだろうか。


「小僧、癪だが協力しろ。まだ里の民の避難が済んでいない。今の状態で好き勝手暴れられると困る。貴様とは一旦休戦だ」


 エルフィートが小声で俺に耳打ちする。

 コイツもなんだかんだで里長なんだな。

 まあ俺も必要以上に命を奪う趣味はない。しばらくは里のエルフたちの避難を優先するか。


「話し合いなど無駄なことだ。どうせ死ぬのだから」


 ミジリーモジリーは両腕をそれぞれ俺とエルフィートの方へと向ける。


「!」


 見えない何かが飛んでくるのを感じ取り、俺は咄嗟に真横に飛んだ。

 それが俺の頬を掠め、俺の頬から温かいものが流れ出す。

 ……今一瞬死の気配がした。

 防げる気がしなかったぞ。今のがコイツの能力か。


「ほぅ、あれを避けるか。生意気な異教徒だな。従順になれば楽に死ねるものを」


 ミジリーモジリーは感嘆の言葉を口に出す。

 ナチュラルな上から目線がイラつく野郎だ。


「しかし、里長の方は無事では済まなかったようだな」

「貴様……。何をした」


 エルフィートの前には両断された土の壁が存在していた。

 どうやら防ごうとして失敗したようだ。

 直撃は避けたようだが、胴から血が流れてきている。


「そんな軟弱なものでは俺の『虚無の(やいば)』を止めることはできない。俺の能力は防御不可、その上不可視の最強の能力だからな。この暗黒神様から頂いた能力で、俺はこの世界を終わらせるのだ」

「お前は馬鹿か?」


 俺は思わず口を出してしまった。

 だってこれは余りにも酷いだろう?

 自分で自分の能力をばらす馬鹿がどこにいるんだ。ここにいた。


「……貴様、俺を愚弄するのか。ということはつまり、暗黒神様も愚弄するということ。その所業、許してはおけぬ」


 虚無の刃とやらを飛ばしてくるミジリーモジリー。

 俺はその全てを完璧に躱して見せた。


「……どういうことだ。貴様、何をした」

「特に何も。ひとえに修行の賜物だ」


 そもそも虚無の刃とやらの速度はそこまで速くない。

 不可視といっても風の流れを感じれば躱すことは難しくない。

 奇襲じみた最初の攻撃で仕留められなかったならば、いくら撃ってももう無駄だ。


「悪いが、もう終わりだ」


 俺はミジリーモジリーを殴るため、接近を試みる。


「舐めるなよ」


 火焔球を飛ばしてきたが、そんなもので止まる俺ではない。

 最短距離を突っ切る。


「その傲慢が、貴様を殺すのだ」

「ほぅ」


 火炎球の中から三撃の虚無の刃が飛んできた。

 ちっとは考えを巡らせられるようだな。


「だが、こんなんじゃ俺は捕まらねえよ」


 俺は刃の間を縫うように体勢を横にしながら跳んだ。

 後退はしない、このまま進んでぶん殴ってやる。


「それが傲慢だと言っているんだ、異教徒よ」

「っ!?」


 今まで直進しかしていなかった虚無の刃が軌道を変え、俺へと迫る。

 空中を蹴って逃げようともがくが、地上ならともかく空中の俺の速度はそこまで速くはない。

 目前にまで迫っている刃を躱すだけの速度は俺にはなかった。


「暗黒神様、今また一つの魂がそちらに向かいます。どうか一切の慈悲なく滅してください」


 視界の端でミジリーモジリーが祈りをささげているのが見える。


 クソが、戦闘中に平気で目をつぶって祈るやつに俺が追い詰められるとは。

 これは手足の一、二本を覚悟した方がいいな。


「ふんっ!」


 そう思った俺の体が突如として上空へと持ち上げられる。


「おお?」


 地面が隆起して、俺の体は上へ上へと向かっていた。

 刃が先刻まで俺がいたところの土を削り取る。

 土でできた塔が倒れる前に俺は刃から距離を取った。刃は少し俺の方に飛んできた後、形を崩して消滅した。

 射程は直線距離で十メートルってところか。それほど長くはないな。


「危ないかと思って手を出したが、余計なお世話だったか?」

「いいや、助かった」


 どうやら俺はエルフィートに助けられたようだ。

 生きてたんだな、てっきり死んだのかと思っていた。


「死ぬはずの命を助けるなど……。貴様には暗黒神様の教えの素晴らしさが分からないのか!?」


 ミジリーモジリーは仮面を掻き毟る。

 仮面がギギギと耳障りな音を鳴らした。


「私が信じる神は風神様だけだ。風神様は貴様の信ずる神とは違って狭量ではないんでな」


 突如ミジリーモジリーの足元の地面がミジリーモジリーを囲うように隆起し始める。エルフィートの土魔法か。


「今だ! 早く始末しろ!」

「おう」


 俺は再びミジリーモジリーに迫る。

 すでに戦闘の影響でどゅーんからむむむっへと声を変えた木が騒ぐ中、俺の耳は土の中に捕われたミジリーモジリーのささやき声を捉えていた。


「暗黒神様……来てくださったんですね……!」

「小僧、駄目だ! 下がれ! 魔力が膨れ上がった!」


 土の壁が破壊された。

 そこから姿を現したのは血で塗れたミジリーモジリー。

 仮面の裏側からは絶えず血が流れ出ており、そのシャツを赤く染めている。


「暗黒神様……来てくださった。暗黒神様……来てくださった」


 声が先ほどまでより一段高くなった。

 よたよたとふらついているが、それに反して隙は見せない。


「なんかヤバい雰囲気だな。……面白くなってきやがった」

「相手がどんな化け物だろうと関係ない。風神様が我らの味方である限り、我らに訪れるのは勝利のみだ」


 俺の感情に呼応するように心臓がより一層強く脈打ち全身に血を巡らせる。

 そうだ、俺は今命の奪い合いをしてるんだ。

 一瞬先には死んでいるかもしれない、このスリル。

 時間が凝縮されていく感覚。

 その感覚に身を震わせる。


「もう時間稼ぎはいいんだろ?」

「ああ、おそらくもう避難は粗方完了しただろう。もう里の民を巻き込む心配はない」

「ならいい。思いっきりいかせてもらう」


 俺は拳を握りしめる。

 いいぜ、アガってきてる。心臓の音が俺に生を実感させる。

 俺は地を蹴ってミジリーモジリーに接近する。


「暗黒神様……皆殺しにしましょう。世界中の人類を殺して殺して殺しつくすんです。殺せば殺すほど徳が高くなる。この世の中は腐ってる。俺が正さないと。矯正(ただ)さないと……!」


 支離滅裂な文言を呟きながら虚無の刃を飛ばしてくる。

 さっきまでとは速度が段違いだ。そして数も七撃と今までで一番多い。


「おらぁ!」


 俺は地面をぶん殴って地表を盾にした。


「暗黒神様……」


 それを目くらましにして、ミジリーモジリーの背後へと移動する。

 刃も俺を見失ったようで直進していった。


「化け物よ、眠れ」


 エルフィートもミジリーモジリー目掛け雷魔法を放つ。

 そちらにも気を割かざるを得ないだろう。

 つまり――殴るなら、今!

 俺は音もなく振りかぶった。


「暗黒神様……アアアアアアアアアアア!」


 ミジリーモジリーは体を全く動かさず、首だけをグリンと百八十度回転させてこちらを向いた。


 いや、こっちのほうが速いはずだ。

 迷うな……迷うな!

 俺はコイツをぶん殴る!


「オラァ!」


 俺の渾身の拳は土の壁に遮られた。

 壁を貫いて、そのままミジリーモジリーを殴る。しかし当たった感触はない。

 野郎、俺と同じ手使ったな……? 壁を目隠しに使いやがった。


「チッ」


 土の壁を削り取って虚無の刃が飛んでくる。

 俺はたまらず後退した。


 中々捉えきれねえな。あの能力が凶悪すぎる。

 防御できないってどういうことなんだよ。


「オギャア! オギャア! 俺は暗黒信様のおかげで生まれかわったのだ!」


 ミジリーモジリーの体に傷は見当たらない。

 やはりダメージを与えられてはいなかった。


「暗黒神様によれば! 暗黒神様によればっ! この世は暗黒に包まれるっ! なぜ人は生まれてくるのか、それは死ぬために他ならない。生物全てに共通していることは、生まれることと死ぬことだけだ。ならば暗黒神様が楽しめるような死に様を見せることこそが我が使命。貴様ら……貴様らにはそれが分からぬのか! この……屑どもめ!」


 ミジリーモジリーはよく分からないことを捲し立てている。


「小僧、突っ込んでも突っ込んでも成果がでんな。この私がわざわざお膳立てまでしてやったというのに」


 エルフィートが呆れたように手を振りながら俺に毒突く。


「うるせえ。お前だってダメージ与えて無いだろうが」

「小蠅がうろちょろとアイツの周りを飛んでいるからな。邪魔くさくて本気で魔法を撃てないだけだ」


 俺は小蠅ってか? 言ってくれるじゃねえか。


「てめえは馬鹿か。本気で撃てよ、俺はてめえの魔法なんかに当たるほど鈍間じゃねえぞ」

「よくほざく小僧だ。……ならば見せてやろう。この私、エルフィート・ミストラルの本気というものを」


 エルフィートはそう言ってローブを翻した。

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