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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
3章 フィーリア編
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44話 えっ、あのトートーをたった一人で!?

「ほっほっほっ、良い取引をさせてもらいました」

「そ、それはどうも……」


 結局取引は終始村長に手綱を握られたまま終わってしまった。くえないじじいだ。


 ほくほく顔の村長とは対照的に、フィーリアはヒクヒクと苦笑いを浮かべている。

 フィーリアも頑張ってはいたが、所詮は素人。

 村長の老獪な話し方であれよあれよというまにあちらに有利な取引になってしまった。

 因みに俺は一言も発していない。門外漢が関わるとろくなことにならないからな。

 俺にできるのはフィーリアの足をひっぱらないことだけだ。


「うう……未熟ですみません」

「いや、問題ない。取引で少ししてやられたくらいなら些末な問題だ」


 珍しく肩を落として落ち込むフィーリアを慰めてやる。

 魔物を一日多く食べなければいけなくなっただけで、実際あまり影響はない。


「二日分の食料は手に入れたんだ、さっさとエルフの里に向かおう」

「はい……」

「ちょっとまった!」


 村を後にしようとした俺たちを呼び止めたのは若い男だった。

 年は十七、八だろうか。髪を逆立てており、興奮しているらしく鼻息が荒い。


「何のようだ」

「あんたら、ここまで来れるってことは相当強えんだろ? 俺と勝負してくれよ」

「馬鹿者! 止めんか」


 長老が止めに入るが、男は聞く耳を持たない。

 事情を聞くと、男は村長の孫であり、冒険者に憧れているらしい。

 しかし長老は孫を危険な目に遭わせたくないようだ。


「じいちゃんは俺のこと心配しすぎなんだ! 俺は強い! トートーを一人で狩れるのは村で俺だけじゃないか!」


 トートーとやらがどんな奴かは知らないが、村で一番強いというのならそこそこの強さではあるのだろう。このあたりはBランク下位の魔物も出るしな。

 それに戦いを挑まれた以上、断るという選択肢が存在するはずもない。


「俺がやろう」

「お任せしますけど、勢い余って殺しちゃったとかは絶っっ対駄目ですからね!?」


 俺がそんなことするわけないだろうに。

 もっと俺を信頼しろ。


 俺は男と共に村の広場に向かう。

 広場に着いた俺たちは互いに向かい合った。


 男の構えは……中の下、といったところか。

 あくまで一般人の域の中であれば、確かに強いと言っても良いかもしれないな。


「では、儂の投げたコインが地に着いた瞬間から戦闘開始とする。命を取るのは御法度じゃから、ご法度じゃから……ご法度じゃから、くれぐれも気をつけてくだされ……」


 老人が不安でいっぱいの縋るような目で俺を見てくる。

 フィーリアといいこの老人といい、俺の信用のなさは何が原因なんだ。

 三回も繰り返さないと理解できないと思っているのか?

 俺はインテリマッスルなんだぞ?


 そんなことを考えていると、向かい合った若者から調子のいい声が聞こえてくる。


「おいお前、気をつけた方がいいぜ。そんな筋肉がついてたらのろまな動きしかできないだろ? そんな筋肉ムキムキにしたってダセエだけだ。男は黙って魔法だろ!」

「俺は魔法使いだぞ」

「えっ、そうなのか? ならごめん」

「ああ、筋肉魔法の使い手だ」


 俺は男に筋肉を見せつける。

 すると男はプルプルと体を震わせはじめた。

 なんだ? 感動してるのか?


「筋肉魔法だぁ? 俺をおちょくるんじゃねえ! お前みたいなダサダサ筋肉野郎なんて怖かねえんだよ!」

「そうか。――ならばお前に筋肉の崇高さを身を持って体感させてやろう」


 コインが頭上に投げられ、地へと着いた。

 俺は前へと踏み込んで拳をふるう。


「へっ?」


 男は間抜けな声を出して吹き飛んだ。

 もちろん拳は当てていない。

 しかしこの男相手なら拳圧だけで十分な威力だ。


「ううっ、くそっ!」


 男は吹き飛びながらも懸命に体制を立て直し、指から何かを放った。

 光線のようなそれは俺の顔めがけ一直線に飛んでくる。


「へっ、どうだ!」


 男はそう言って地面に落下した。







「良い攻撃ではあったが、その後に受け身もとれないようでは話にならないな」


 俺は即座に距離をつめ、倒れている男の首もとに手刀を近づける。

 男は首に添えられた手刀を視界の端で捉え、顔中にブワッと冷や汗を噴き出した。


「ま、参った……」

「そこまで! 勝者、ユーリ殿!」


 村長が安心したような声で俺の勝利を宣言する。

 孫が死ななくて安堵しているようだ。


「これが筋肉魔法の――ひいては筋肉の力だ。素晴らしいだろう?」


 倒れたままの男の腕を掴んで立ち上がらせてやる。

 しかし俺の手を取った男は納得いかなそうな顔をしていた。


「あんた、なんで俺の『光線』を食らって何ともないんだ?」

「鍛えたからだな」


 男の質問に答えてやる。


「鍛えたから……? ……意味分かんねえ。冒険者ってのは化け物かよ」

「なんてことはない。鍛え上げた筋肉は並の魔法では傷つかないというだけの話だ。それに、残像で分身出来るくらいの敏捷性があればあの程度なら見てから避けることも出来る。お前でも鍛えればできるぞ」


 吹き飛ばされている中で体勢を整えられるあたり、そこそこセンスはありそうだしな。


 俺の言葉を聞いた男は「……ヘッ」と小さく笑い、そして言った。


「……俺、この村で生きていくわ。冒険者になってもやっていける気がしない」


 なにか心境の変化があったのだろうか。

 まあ人の人生選択に口を出す気はない。

 一応年上としてアドバイスだけしておくことにした。


「そうか。それも一つの生き方だ。ただし、筋肉は鍛えたほうが良いぞ? 全ての源だからな」









 夕方過ぎに村を出る。

 孫が心変わりしたことについて村長はかなり感謝してくれたようで、追加で十分な量の食料を受け取ることができた。


「あなた方がきてくれて本当に良かった」とペコペコと頭を下げる村長に「別に大したことはしていない」と言葉を返す。

 実際ただ戦っただけだしな。


「フィーリア殿のお姿を見るに、ヒヒの森へと向かうのですかな?」

「ああ、その通りだ」

「ならば、お耳に入れておきたいことがあります。罪徒の一人、『狂面』ミジリーモジリーが最近このあたりで目撃されています。ないとは思いますが、出くわすこともあり得ます。どうかご用心を」

「ご忠告感謝する」


 ほう、罪徒がこのあたりにいるのか。是非とも出くわしたいものだ。

 フィーリアが上目づかいで睨んでくるが、いくら睨まれたって会いたいものは会いたいのだから仕方がない。

 それにいつかは戦わなくちゃいけない相手だしな。

 来い来い来い。罪徒来い。今すぐ俺に会いに来い。


 村長の姿を背に、俺達はエルフの森へと向かう。

 見送りに孫の男の姿はない。俺の言葉に感銘を受け、早速筋トレに励んでいるのだろう。

 筋肉を愛する人を増やすことができたようで、実に嬉しい。








 村を出た俺たちは走りながら会話する。


「ユーリさんにしては珍しく熱くなりすぎませんでしたね。殺してしまわないかと気が気でありませんでしたよ」


 フィーリアが自らの胸に手をおき、胸をなで下ろす動作を見せる。


「俺だってやればできるんだ。殺さないように手加減するのはかなり疲れるから普段はしないだけで」

「それはそれは。お疲れさまでした」

「ああ、フィーリアも交渉苦労だった」

「どーも」


 周りに注意を払いながらも、目的地であるヒヒの森へ素早く進む俺たちであった。

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