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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
3章 フィーリア編
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42話 なんだかんだ言って見た目は重要

「おう、よく倒せたなフィーリア。……フィーリア?」


 俺はガガガストライプを倒したフィーリアに称賛の言葉を贈るが、肝心のフィーリアの姿が見えない。

 一瞬前まではたしかにいたはずなのだが。


「た、助けてください。動けません……」


 その声の源に従って、俺は目線を下げる。

 フィーリアはなぜかうつぶせで地面に突っ伏していた。


「どうしたフィーリア。昼寝か?」

「こんな森の中で昼寝する度胸はないです。なんか足を挫いちゃったみたいで……あう」


 フィーリアはぐぐぐっと腕に力を入れて立ち上がろうとするが、あえなく力尽きぺたんと腕を地につける。


「おい、無理すんなよ」

「衝動的に風神も使っちゃいましたし、なんかすごく疲れた気がします」


 フィーリアはもう一度立ち上がろうとするが、足を地面につけた瞬間うずくまってしまう。

 どうやらフィーリアの足の怪我は軽いものではないらしい。


「大丈夫かよ。そんな無理しなくてもよかったのに」

「だって早く倒さなきゃいつまでもからかわれるじゃないですか……」


 フィーリアは口をとがらせながらぷいっとそっぽを向く。

 あんなにやる気で満ち溢れていたのにはそういう理由もあったのか。


「悪かったな。ちょっとからかいすぎた」

「本当ですよ、おんぶしてください」


 フィーリアは恨みがましい目で俺を睨んでくる。

 俺にも少しは責任がある以上、断ることもできないだろう。

 ならばここはフィーリアの言う通りにするのがせめてもの謝罪だ。


「わかったよ」


 俺はフィーリアの身体を背中に乗せる。

 背中にふわりと柔らかい感触を感じた。


「……ん? というかフィーリアって回復魔法使えるんだよな? それで怪我を治せたりしないのか?」

「ぎくっ」

「おい」

「あーあーあーあー! 治せますけど楽したいんで使いたくありませんー!」


 開き直りやがった。まあいいけどさ。

 この森のレベルならフィーリアを背負ってるくらいのハンデがあった方が燃えるってもんだ。









「あ、これじゃないですか? 太陽草って」


 背中に乗ったフィーリアがそう口を出す。

 白い腕が伸びる方向を見ると、たしかにそこには一輪の花が咲いていた。


「おお、それっぽいな」


 俺はフィーリアを背負ったままその花に近づく。

 その花は太陽の名を冠するにふさわしく、情熱的な真っ赤な見た目をしている。

 見ているだけで生きる力が湧いてくるようだ。


「あ、私が採取しますよ。ユーリさんだと不安ですから」


 採取に移るべく俺の背中から軽やかに飛び降りたフィーリアは、そう言って自身のなだらかな胸を誇る。

 俺はそんなフィーリアの足首を凝視した。


「おい、怪我してたはずの足はどうした」

「おんぶして貰ってすぐに回復魔法かけちゃいました。痛いの我慢できなくて。ここまで運んでくれてありがとうございます」


 礼を言うフィーリアをじっと見つめる俺。

 足を痛めているお前のためになるべく衝撃を抑えて進んでやってたのに、俺の努力は全く意味がなかったと言うことか。

 なるほどなるほど……。


「……あれ、ユーリさん怒ってます?」

「……いや、別に」


 この程度のことで俺は怒ったりしない。

 なぜかって? ジェントルマッスルだからだ。

 ただしちょっとムカッと来たから釘を刺しておこう。怒ってはないけどな、怒っては。


「……帰りは自分で歩けよ?」

「元々そのつもりです。超絶美少女エルフの私ともあろう人が、おんぶされてるところを誰かに見られたら恥ずかしいですし」


 そう言いながら、フィーリアは慎重な手つきで太陽草を採取する。

 俺はそういう繊細な作業は苦手だからな。

 正直フィーリアがいてくれて助かった。




「わあぁ……!」


 太陽草を採取したフィーリアは、近くの茂みを見て顔を綻ばせる。

 先ほどから気配を感じていた場所だ。

 無視してもいいほど弱い気配だから相手にしていなかったが、何かいるのだろうか。


「どうした?」

「ユーリさん。あそこの魔物見てくださいっ」


 しゃがんでいるフィーリアは小声で俺に手招きをする。

 何かと思い俺も移動してみると、そこには茶色の体毛の猿のような魔物がいた。

 手が体に不釣り合いなほど長く細い以外は猿に酷似している。


「あれはメグミザルルという魔物で、薬草を渡すとお返しにその薬草の質に応じた色々な果物をくれるんですよ。なんでも会えると幸運が舞い降りるとか……。私たち運がいいですね!」


 薬草を渡すと果物をくれる……?


「変わった習性だな」

「自分より強い敵にあった時、その敵に薬草を渡すことで自分が敵ではないことをアピールするらしいです。効果があるのかは知りませんけど」


 へぇ、そんなやつもいるのか。

 俺は内心で感心する。

 魔物ってのも意外と考えてるんだな。


「きっとユーリさんより考えてますよ」

「それはないな。俺はインテリマッスルだぞ」


 それと勝手に心を読むんじゃない。


「ユーリさんユーリさん。この子に薬草あげてみましょうよ」


 たしかに魔物と物々交換をする機会なんて滅多になさそうだからな。

 貴重な経験として体験しておくのも悪くない。

 幸い薬草なら腰の次元袋に腐るほど入ってるしな。


「ほらよ。受け取れ」


 俺は茂みに半身を隠すメグミザルルに薬草を差し出す。

 メグミザルルは体毛の生えた腕を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返し、やがて俺の手元から薬草を奪い取った。

 そして素早く全身を茂みの中に隠す。


 そしてその直後。

 コトリという音がして、茂みの前に黄色い果実――バナナが置かれていた。


「ほら、凄くないですか?」

「ああ。なんとなく心が通じ合った気分だ」


 俺はもう一度次元袋から薬草を取り出し、茂みの前に差し出してみた。

 すると再びメグミザルルは姿を現し、俺の掌から薬草を奪い取る。




 コトリ。茂みの前にバナナが置かれた。


「おお、凄いな」


 もう一度やってみる。




 もう一度バナナが置かれた。


 そこまで確認した俺は眉をひそめざるを得ない。


「……なあフィーリア。なんでバナナばかりなんだ? 色々な果物をくれるって、バナナしかくれないじゃないか」

「……もしかして、ゴリラと間違えられてるんじゃ。ゴリラと言えばバナナですし」

「嘘だろ?」

「絶対そうですよ」


 フィーリアは笑いをこらえている。自分の考えに絶対の自信を持っているようだ。

 俺がゴリラと間違えられているだと……?

 そんなはずがないだろう。


「もう一度だ!」


 俺は次元袋から薬草を掴みとり、メグミザルルに手渡す。




 バナナ。


「またかっ!」


 俺は目の前の現実に声をあげる。

 だが諦めないっ! 


「なら数で勝負だっ! 戦いは数!」


 俺は次元袋から薬草を纏めて数束掴み取り、メグミザルルに手渡す。




 バナナ数本。


「くそっ、もう一度! 今度は品質のいい薬草だ! 戦いは質!」


 俺は特に品質のいい薬草を選りすぐり、メグミザルルに手渡す。




 高級そうなバナナ。


「畜生っ!」


 一体何が起きてやがるんだ。

 メグミザルルの目には本当に俺がゴリラに見えてしまっていると言うのか?

 そんなことはあってはならない。なんとかして対処法を考えねば……。


「はっ!」


 思考の海に沈み込んだ俺の脳裏に、突如として閃光が走る。


「……そうか、わかったぞフィーリア!」

「な、何がわかったんです?」


 フィーリアは頬を膨らませて必死に笑いを耐えている。


「逆転の発想だ」


 俺はそんなフィーリアに向け、不敵な笑みを浮かべた。


「いいか? ゴリラと勘違いされているのなら、逆にゴリラの真似をすればいいんだよ。そうすれば違いが明確になり、俺とゴリラが間違われることもない」


 さすが俺。インテリマッスルの名にふさわしい、素晴らしい発想だ。

 フィーリアも唖然として口を開けているではないか。


「良く見とけフィーリア。俺の雄姿をな」


 俺は上半身の服を脱ぎ捨て、半裸になってメグミザルルのいる茂みの前に仁王立ちをする。

 メグミザルルは興味深そうに茂みから乗り出して俺を見た。

 それを確認した俺は足をがに股に広げ、鍛え上げた胸筋を見せびらかす様に胸を張る。


「うほ。うほほ! うほほっ?」


 そう言いながら両腕をぶらんと垂れ下げ、茂みの前を往復する。

 これだけでも十分かもしれないが、さらにオマケだ。


「うほうほ~っ!」


 胸を叩いてドラミング。そして薬草を手渡す。

 これでどうだ!?









 バナナ。


「なんでだ!」

「わ、笑わせないでくださいって……! ふひっ、お、おなか痛い……っ」


 フィーリアは森の大地に腹を抱えて蹲る。その顔は笑いすぎて真っ赤になっていた。


 なんてこった。

 俺はゴリラなんぞより格段に美しい筋肉をしているというのに。

 こんなことがあっていいのか? この世界は狂ってやがる。



「はー、笑いました」


 しばらくたち、フィーリアは目に溜まった光る涙を拭う。

 笑いすぎだろ。


「くそっ、もっと鍛えなくちゃな」

「何をどうしたらその結論に至るんですか?」


 もっと鍛えてゴリラと見間違われないような筋肉を手に入れる。そう決意を新たにした俺だった。




 ちなみにその後フィーリアがメグミザルルに薬草を渡したところ、茂みの前には籠と共に零れ落ちんばかりのフルーツ盛り合わせが置かれた。

 しかもそのどれもが最高級の品質であることが容易に見て取れる。

 俺が質のいい薬草を渡したときのバナナと比べても圧倒的に高品質だ。


「やっぱり超絶美少女エルフは格が違いましたね」

「納得いかねえ……」


 勝ち誇るフィーリアの小癪な笑みに、納得いかない俺は首を横に振るしかなかった。











 ギルドへと戻った俺とフィーリアは、依頼人の少年に太陽草を渡しに行く。


「ありがとうございます! これでお母さんも喜んでくれる!」


 喜ぶ少年の顔は本当に嬉しそうで、働いた甲斐があるというものだ。


「そりゃあよかった。それからこれはついでだ」


 俺は少年に手さげ袋を手渡す。

 少年はそれを受け取ると、すぐに上から中を覗きこんだ。


「何これ……バナナ? 何でくれるんですか?」

「俺はゴリラじゃないからだ」

「……?」


 少年は意味がくみ取れないことを示す様に首をひねった。


「どうした? もう一袋いるか?」


 戸惑う少年にもう一袋渡してやる。


「な、なんでこんなに……? でもありがとう、お母さんと一緒に食べます!」


 そう言って少年は両手にバナナの入った袋を抱え、元気よく駆けて行った。母の元へ帰ったのだろう。


「……ぷ。……くひひ」


 少年を見送った俺は隣へと向きなおり、半目でフィーリアを睨む。


「フィーリア、いつまで笑ってんだお前」

「うひひひ。私だって笑いたくて笑っているわけじゃ……でもユーリさんがバナナ持ってるだけでツボにはいっちゃってもう……!」


 フィーリアは手で目元を隠しているが、口元は完全に口角が上がりきっている。


「……フィーリア」

「な、なんですか?」


 俺はフィーリアが目元を隠していた手をどかし、至近距離で向かい合った。

 そして無表情のまま一言を発する。


「バナナ」

「うひ。ぷぷぷ……」

「バッナァ~ナ。うほ、うほほ」

「……ぷへ。うひひ、あはははは! そ、それは反則ですって……! ~っ! い、息ができません……!」


 椅子からずり落ちるフィーリア。

 床をゴロゴロと転がりながらフィーリアは笑い声をあげ続ける。


「お前って本っ当に性格悪いな!」

「息が……うひひっ! ほ、本当に死んじゃう……っ! ユーリさん助けてください!」

「そんなの知るか! 俺お前嫌い!」

「き、嫌わないでくだ……にひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

「だから笑うな!」


 その日のフィーリアは俺の顔を見るたびに笑い続けた。

 まったく失礼なやつだ!

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