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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
3章 フィーリア編
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34話 敬語の必要性

 ギルドで森の情報についての話を聞きに行こうと思ったが、フィーリアに「受付の方に詰め寄ったことを謝りに行ったほうがいいんじゃないですか?」と言われた。

 たしかにそれは早めにしておいた方がいいと思うので、フィーリアと共に騎士団の詰所へと向かう。


「お詫びの品とか持って行ったほうがいいのか?」

「まあそうですね。持っていかないよりは」


 なら買っていこう。

 お詫びの品……話でしか聞いたことねえな。どんなもんを買えばいいんだ。

 こんなところで長く人間世界から離れていた弊害が出たか。


「ユーリさん、私が選びましょうか?」


 お詫びの品を物色する俺にフィーリアがそう提案してくる。今日のフィーリアは一段と綺麗だ。

 謝罪にいく為にきちんとした格好をしているからだろうか。

 フィーリアはこういう時のためにと以前買っておいた、肌の色とは対照的な黒いドレスを身に纏っている。

 気品がにじみ出ており、まるで貴族のようだ。


 ちなみに俺もスーツを着ている。

 胸が苦しい。大胸筋がはちきれそうだ。


「フィーリアに選んでもらうのは駄目だ。俺がやったことだからな、俺が選ばないと」

「それはもっともですが……ダンベルはその、お詫びの品としては不適切かと」


 言いにくそうに言ってくる。

 そういうもんなのか。筋肉を鍛えるのにもってこいなのにな。


 話し合いの結果、フィーリアが何個か選んだ中から俺が選ぶということになった。

 このままじゃ流石にどれだけ時間がかかるか分かったもんじゃないから仕方がない。









 お詫びの品を持ち、詰所に到着する。

 受付の女性はこの前とは違う人だ。

 待ち合わせをしていることを説明し、部屋へと案内される。そこには先日の受付嬢が座っていた。


「申し訳なかった」


 顔を確認した俺は即座に頭を下げる。フィーリアも続けて頭を下げた。

 俺の責任なのにフィーリアが頭を下げることになるのは申し訳ない。

 今回の件で俺は色々な人に迷惑をかけてしまっている。それを強く自覚した。


「もういいですよ。ゴーシュさんから事情も聴きましたし……助かってよかったですね」


 頭を上げると受付嬢が笑みを浮かべていた。

 突然喚き散らした俺を許してくれるのか。寛大な人だ。


「恩に着る。ええと……」

「ミーナです」

「ミーナさん、本当にありがとうございます。ほら、ユーリさんもちゃんとお礼言ってください!」

「あ、ありがとうございます」


 慣れない敬語で礼を言う。

 敬語は苦手だが、そんなことを言っていい場面かどうかぐらいは俺にもわかる。


「もういいですよぅ。それに……罪徒を捕まえてくるよう言われたらしいじゃないですか」


 コソコソと声を小さくする受付嬢。

 フィーリアが「なにかあるんですか?」と聞き返す。


「罪徒を捕まえるなんて、そう簡単に出来ることじゃありませんからね。まず見つけるのが大変ですし、たぶん相当難易度高いですよ。ゴーシュさんは良い人ですけど、たまに無理難題に思えるようなことを言いだしますからね。見つけられない可能性の方が高いと思いますけど……大丈夫なんですか?」

「それについては問題ない。見つかるまで探せばいいだけだ」

「ユーリさん、敬語」

「……いいだけです」


 フィーリアに助けられながら、俺はミーナへの、ひいては騎士団全体への謝罪を無事に終えた。








「ユーリさんって敬語使えないんですね。予想通り過ぎて逆に予想外です」


 宿に帰った後、フィーリアが俺に言ってくる。


「そういうこまごましたのが嫌いだったからな。そんなの覚える暇があるなら鍛えてた」


 はいはい筋肉筋肉、とフィーリアが俺をあしらう。


「でも、これから必要になる機会が増えるかもしれませんよ? 聞き込みとかもしなきゃいけないですし」


 俺は「うーむ」と唸る。

 敬語を覚えるのは面倒くさいと思っていたが、それを知らないことで難癖つけられる方が面倒かもしれない。

 それに――。

 俺はミーナの顔を思い浮かべる。


「ミーナは敬意を表すに足る人間だった。俺に詰め寄られても口を閉ざせる者などそうはいない。そういった相手に敬語が使えたら、敬意を伝えるのには便利かもしれないな」

「そう考えると、ミーナさんは本当にすごいですね。こんな筋肉の生まれ変わりみたいな人が詰め寄ってきたら、私だったら本能的に魔法撃っちゃいますよ」

「……まあわからなくもない」


 普段の俺ならまだしも、筋肉を解放した俺は通報されそうになることも一度や二度ではなかった。

 この筋肉美を理解できないのは悲しいことだと思う。

 ……そう考えるとフィーリアはよく俺についてくる気になったな。


「ユーリさんはもっと私に感謝をしてください」


 フフンと胸を張るフィーリア。また心を読まれたようだ。


「ありがとう、フィーリア」


 俺は自分の気持ちをフィーリアに伝える。

 フィーリアがいなくてもあのまま森で生きていくことはできただろうが、これほど刺激的な生活は送れなかったに違いない。

 そういう意味で、フィーリアにはとても感謝している。


「……あんまりまっすぐ見つめられると照れちゃうのでやめてください」


 目を逸らしたフィーリアの頬はこころなしか赤くなっているようにも見受けられた。

 自分が感謝しろと言ったのに感謝したら照れるってどういうことだ?


「とにかく、敬語は私が教えてあげますから心配はいりません」

「おお、助かる。よろしく頼む」


 その日から数夜、フィーリアと勉強の時間を取ることになった。

 別に勉強は嫌いではない。役に立つことなら貪欲に学ぶ姿勢は大切だ。

 ただ、なぜかいままでの勉強よりも楽しいと感じた。その理由は結局分からずじまいだったが。

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