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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
3章 フィーリア編
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27話 変なやつがいっぱい ~類は友を呼ぶ~

 翌日、俺とフィーリアはいつものようにギルドへと向かっていた。

 だが今日は何か変だ。昨日の買い物の時も思ったが、少なくない数の人間が俺とフィーリアの方を見てひそひそと話している。

 たしかに俺の美しい筋肉とフィーリアの美貌はよく目立つが、いつもと反応が違うような気がするのは気のせいか?

 俺は耳を澄まして会話を盗み聞きした。


「おい、あれって魔闘大会に出てたやつらじゃねえか?」

「マジだ。しかもアイツ優勝者じゃねえか」


 ……なるほど。優勝したから騒がれてんのか。

 なんとなく居心地の悪さを感じながら俺達はギルドへと到着した。


 カウンターでCランクの依頼も受けられるようになったことを確認したが、特に受けたい依頼もなかった。大会の翌日だしたまには体を休めるか、と思っていた俺達に、背後から低い声がかかる。


「おうおう、チャンピオン様じゃないか。不機嫌そうな顔してどうした?」


 誰かと思ったらババンドンガスだった。今日はウォルテミアは一緒ではないようだ。

 ババンドンガスは俺が何も言わないうちに「ああ」と得心がいったような表情に変わる。


「あれか。優勝したから噂されてんだろ? でもまあ三日もすりゃ収まるよ。今だけだ、今だけ」


 そうか、ババンドンガスは前回大会の優勝者だったな。


「気がまいった。他の街へ行こうかと考えている」


 笑って背中を叩いてくるババンドンガスに俺は本心を告げる。コイツ中々馴れ馴れしいな。


「おいおい早まるなって。この街もいいところなんだぜ。俺もそんなに知らねえけど。……そうだ! 今暇か? 俺が楽しいところに連れてってやるよ」

「そうか。つまらなかったら殴るからな」

「お前に殴られたらその瞬間に人生終わっちまいそうだから勘弁してほしいんだが……」


 特に予定もなかった俺とフィーリアはババンドンガスについていくことにした。

 どこに行くのかと思ってみれば、着いた先はカジノだった。


「おまえら、カジノはやったことあっか? 楽しいぜぇ、これは」

「私は賭け事の類は生まれてこの方一度の経験もないですね」

「俺もだな。そんなことより筋トレがしたい」


 ババンドンガスは目を丸くし「変わってるな」とつぶやいた後、俺達を引き連れてカジノに入った。

 音楽がけたたましく鳴り響き、酒とたばこの匂いが充満している。第一印象は控えめに言って相当悪い。


「一番人気はこれだ! ルーレットを回して、一から八の中で入る数字を予想するってやつだな。まあ習うより慣れろだ。やってみな」


 俺達はババンドンガスの言葉に従い、ルーレットの席に座った。

 わざわざ連れてきてもらったことだし、やらないのも悪いだろう。


「俺は三番にかける」

「私は七番で」


 ディーラーによってルーレットが回され、七の数字の場所で止まる。


「おっ、フィーリアちゃんやるじゃねえか」

「ありがとうございます」


 ……フィーリアに負けるのは嫌だな。

 勝負事では負けたくない。負けると絶対馬鹿にされるから。








「こいこいこいこい! 三番、三番!」


 しかしコロコロと転がった玉は無情にも四番のところで止まる。

 何度やっても一度も当たらない。なんだこれは。

 隣を見ると、八分の一の確率にもかかわらず二回に一回当てるという、人外じみた成果を残したフィーリアがにんまりとこちらに微笑んでいる。


「ユーリさんには残念ながら才能がなさそうですね。私と違って」


 札束で扇ぎながら言ってくる。

 ……言い返せない。

 あまり金を使うわけにもいかないし、もう終わりにすることにした。


「よう、カジノはどうだった?」


 他のゲームを終え、帰ってきたババンドンガスに声をかけられる。


「最高でした」

「最低だよ」


 俺とフィーリアは真逆の答えを返す。

 ババンドンガスはその答えで俺達の成果を察したようで、ガハハと笑った。


「まあ気分転換にはなっただろ?」

「ああ。それはまあ、な」

「じゃあいいじゃねえか」


 だがカジノには二度といかん。金がいくらあってもたらない。






「おっ、そうだ。まだ時間あるか?」


 カジノを出て別れようとしたところで、ババンドンガスに呼び止められる。

 何か用があるようだ。


「まあ、俺は予定があるわけじゃないな」

「私も大丈夫ですよ」

「それはよかった。是非見せたいものがあったんだ」


 それを聞いたババンドンガスは嬉しそうに口角を上げ、腰につけた次元袋から何かを取り出す。

 取り出したものは青い背表紙のアルバムだった。その厚さは下手な辞典を優に超えている。

 ババンドンガスが次元袋から取り出した分厚いアルバムには、透き通る青い髪の大人しそうな少女――つまり妹のウォルテミアの写真が何枚も貼られていた。


「どうだ、可愛いだろ?」

「いつも持ち歩いてるのか?」


 俺はババンドンガスに尋ねる。

 可愛いのはわかるが、やっぱり全然ババンドンガスとは似てないな。


「当たり前だろ! 片時も離さず持ち歩いてるぜ」

「お前は筋金入りだな」

「ぶれませんねー」

「妹を守るのが兄の役目ってもんだ。そのために俺は生まれたんだからな」


 カッコいいこと言ってはいるが、妹の写真を眺めてデレデレしながら言われるとカッコよさ半減どころの話じゃないな。


「可愛いだろ? 可愛いだろ? この写真も見てくれよ! あ、そうだ、こっちも見てくれ! あー、これは四年と六か月と十五日と三時間十六分前の写真だな。懐かしいぜ……」

「そ、そうなのか」

「た、たしかに可愛いですねー」


 捲し立ててくるババンドンガスに若干引く。

 記憶力が尋常じゃない……。どんだけ妹好きなんだよ。


「ちゃんと見てるか? その角度よりもうちょっと真正面から見た方がこの写真のウォルテミアは可愛く見えるんだ。あ、もちろんウォルテミアはどの角度から見ても可愛いんだけどな! ユーリはもうちょい左から、フィーリアちゃんはもうちょい右から見てくれ。どうだ、この可愛さは!」


 コイツ止まんねえな。

 結局ババンドンガスの話は日が落ちるまで続いた。








 ババンドンガスと別れた俺たちは宿へと帰る。


「凄かったな……」

「凄かったですね……」


 凄かった以外の感想が出てこない。

 アイツ、ウォルテミアに恋人が出来たらどうなるんだろうな。とてつもないことになりそうで怖いんだが。

 というかババンドンガスの話を聞くまで何してたんだっけか。……ああ、カジノ行ったんだった。


「お前、カジノに入り浸るようになったりしないよな?」


 パートナーがギャンブル中毒になってしまうのは避けたい。

 フィーリアなら大丈夫だとは思うが……。


 そんな俺の心配を払しょくするように、フィーリアは「おほほほ」と高笑いをする。

 ……おほほほ?


「大丈夫ですわ。そんなことには決してなりませんもの。確かに面白くはありましたが、高貴な身分であるこの私には少し低俗すぎて……」

「そ、そうか」


 まるでどこかの高位貴族の令嬢のように扇子を仰ぐポーズをとるフィーリア。

 顔の造り的にはそういう身分でもおかしくはないのだが、普段のフィーリアを知っているだけに違和感が酷い。


「こういう演技も似合ってしまう私。さすがすぎます……。さすが超絶美少女エルフです……」


 フィーリアはうっとりとした眼で自分を褒める。


「まあ、似合ってると思うのは自由だよな」

「む、どういうことですかそれ」


 どういうことってそういうことだろ。

 軽く怒ったように頬を膨らませるフィーリアを見て、俺はつくづく思う。


「俺の周りは変わったやつばっかだな……」

「筆頭であるユーリさんがそれを言いますか」


 そんな会話をしながら宿へと帰る俺たちだった。

サブタイトルに副題を付けたのは初めてです!笑

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