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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
2章 魔闘大会編
24/196

24話 大会、その終わり

「さーぁ、いよいよ準決勝。第一試合は圧倒的な魔法でここまで駒を進めてきたウォルテミア選手VSミミンホトプ選手だっ」


 司会の声がコロッセウムに響き渡り、ウォルテミアが胸ほどまである杖を構える。

 杖には魔法の威力を上げる効果があるらしい。ただし武器を持つと動きづらくなってしまうので最近は使わない者がほとんどだということだ。

 杖には魔石とかいう魔力を通しやすい物質を使っているらしく、その大きさも相まってそこそこの重量があるから持つ持たないでかなり動きが変わってくるのだ。


 対するミミンホトプは無手。

 俺は映し出された映像に目を凝らす。決勝で戦うことになる相手だ。見ておいて損はない。


 試合開始が宣言され、まず動いたのはミミンホトプだった。ウォルテミアの周りに土の壁がせりあがっていく。


「いきなり大技を仕掛けました、ミミンホトプ選手。……おお! ウォルテミア選手はそれを水魔法で破壊! 杖もちのセオリー通り、躱すのではなく防御を選択しました」


 それにしても、両者とも魔法の準備時間が短い。ほぼゼロじゃないか。

 Bランク上位ともなると流石に強いな。


「先ほどのお返しとばかりにウォルテミア選手、水で龍を形作りました。 これは……すごい魔力の濃度です! ミミンホトプ選手これを耐えきることはできるのかっ」


 水の龍がミミンホトプへと飛んでいく。かなりの速度だ。

 しかしミミンホトプは身軽な動きで横に動き、それを躱した。


「ミミンホトプ選手、ここは回避を選択!」


 しかし躱したはずのミミンホトプ目掛け、水の竜が首を向ける。

 その水瞳は確実に食い破るべき敵を視界に収めていた。


「これは……水龍が追尾している!? 直撃したー! これは……ノックダウンです! 勝者、ウォルテミア選手! ミミンホトプ選手、ここで無念の敗退となりますっ」


 方向を変えた水の龍がミミンホトプの体を食いちぎった。

 追尾性能まであるとはすごい魔法だな。初見だったら俺でも躱しきれないかもしれない。

 むしろ躱すより打ち破る方が得策か?

 まだまだ考察したいところではあったが、そこで思考を打ち切りコロッセウムへと向かう。








「続きましては、魔法剣の使い手レオニール選手対ルール無用の野蛮人ユーリ選手です! こちらも楽しみですねー」


 誰がルール無用の野蛮人だ。なんか俺の解説だけひどくないか?


「おまえはさっきのエルフのお仲間なんだろ? かたき、討てるといいなぁ?」


 レオニールが舌を出してこちらを挑発してくる。

 しかし俺は動じない。顔のつくりはいいのに、性格悪いなと思うだけだ。

 さっきまでの俺だったら激高していたかもしれないけどな。これもフィーリアのおかげだ。


 俺は目の前のいけ好かない男に向けて口を開く。


「話しかけるな、口が臭い」

「あ? っざけんなよ、ゴリラが」

「おまえと比べたら、ゴリラの方がよっぽどましだな」

「……決めたわ、お前ぜってー殺すっ!」


 レオニールの顔にはピクピクと青筋が浮き出ている。

 まったく、最近の若者はキレやすい。


「舌戦はそこまでとさせていただきます。さあ、盛り上がっている両者、熱い戦いが見られそうですね。ではいきますよー……二試合目開始!」


「おらぁ!」


 レオニールが風魔法を飛ばしてくる。

 俺はそれを避けもせずに直進した。

 華奢なフィーリアが何発も耐えられた魔法だ、俺が耐えられないわけがない。


「ちっ、ざけんな!」


 レオニールはやたらめったら剣を振り多数の風魔法をぶつけてくる。

 しかし何のことはない。俺の服すらも破けていなかった。

 俺はゆっくりと近づきレオニールの前に立つ。


「なんなんだよてめえ! ……これでもくらえやぁ!」


 レオニールは力任せに剣を振るった。

 振るわれた剣は俺の体の強度に負けて腹からポキリと折れる。

 この結果は当然だな。俺の体に傷を付けたきゃ死神でも連れてこい。


「これで終わりか?」

「……は?」

「これで終わりか?」


 俺は目の前の、何が起きたかわからない様子のレオニールを睨みつける。


「あ……、あ……」

「なら次は俺の番だ」


 剣が折れ呆然と立ち尽くすレオニールに対し、俺は渾身の力を込めて思い切りぶん殴った。

 メキョッ、と音がしてレオニールが観客席まで吹っ飛ぶ。


「なんとなんと! ユーリ選手、生身で剣を振り下ろされてなお無傷! 逆にレオニール選手の剣を折ってしまったぁ! 規格外、規格外の体です! ユーリ選手、決勝進出です!」







 控室に帰る。

 いよいよ次は決勝だ。ウォルテミアと戦うことになる。

 控室の中を見渡してフィーリアの姿を見つけ、隣に座る。


「……いよいよ決勝ですね」

「そうだな」


 フィーリアと二、三言葉を交わし、俺は無心になる。

 そのまま決勝の時間になった。


「いってくる」

「いってらっしゃい」


 目指すは優勝。それだけだ。







 コロッセウムの中央に立つ。向かい合うはウォルテミア。

 その圧に毛が粟立ちそうになる。

 いいぞ、早くやりたい。


「いよいよ決勝戦ですっ。最早説明も不要でありましょう。ウォルテミア選手対ユーリ選手! 今から数分後には、Bランク以下で最強の人類が決まります!」


 決勝という舞台に合わせ、テンション高めに実況を行う司会。

 どうでもいいが、Bランク以下で最強って肩書として正直微妙だろ。


 ……まあ、そんなことは今考えることじゃない。

 今俺が考えるべきことは、目の前の少女を倒す方法だ。


「……よろしくです」

「ああ、よろしくな。いい戦いにしようぜ」

「お兄ちゃんのためにも、勝ちます」


 無表情を崩さぬウォルテミア。

 ポーカーフェイスは相手に感情を読み取られ辛くなるからいいんだよな。

 だけど俺には無理だ。強敵と戦うときはどうしても笑みが零れちまう。


「それでは……決勝戦、開始!」


 まずは近づく。魔法使い相手には先手必勝だ。

 筋肉魔法の使い手が相手だとこうはいかないが、ウォルテミアの華奢な体躯では筋肉魔法は無理だろう。


 そう思って接近という策をとった俺の目指す先、ウォルテミアの手前から津波のように荒々しい水流が発生する。


「来るなら来て。これで終わり」


 凄まじい勢いで放たれた超広範囲攻撃に俺は為すすべもなく飲み込まれる。

 数十秒ほど水は発生し続け、そして止む。


 その後に残ったのは、仁王立ちで立ち尽くす俺の姿だった。


「中々いい魔法だったぜ」


 動けないほどの水の流れは思った以上に俺の体力を奪っていった。

 まるで台風の後の濁流のようだったからな。


「……しぶとい」


 ウォルテミアの魔力が水龍を形成する。さすがにそう何度も魔法をくらってばかりじゃいられない。

 俺は足を素早く何度も蹴りだし、一度ウォルテミアから距離をとる。

 創られた水龍は頭をもたげ、胴をうねらせながらこちらに飛んでくる。


「ほっ!」


 俺はそれを避けた。上空に飛んで。

 俺の身体は重力に逆らってどんどんと上空へ向かう。


 跳ぶのではない、飛ぶのだ。

 足で空気を絶えず蹴りだすことにより、宙に浮き続けることを可能にする。まさに修行の賜物だ。


 しかし、水龍も俺を追って上空へと飛んでくる。

 天へと昇る龍は神々しさに似たものを纏っていた。観客たちもその神聖さに思わず息を呑む。

 だが、そんなことは俺には微塵も関係ない。


 俺はコロッセウムが優に見渡せるほど上空まで逃げたところで足を蹴りだすのを止め、今度は腕を連続して上に伸ばし上げて空気を押し出した。

 それにより、向かってくる水龍へと超スピードでぶつかり合うことになる。


 俺は足から水龍に突っ込んだ。

 水龍の体を引き裂き、地面へと着地する。


「……なら、もう一回」


 ウォルテミアは再び水龍を生み出した。

 このままでは埒が明かないな。

 俺は迫ってくる水龍の真正面に仁王立ちする。

 迫りくる水龍はまるで実際に生きているかのような生命力を纏っており、拍動の音さえ聞こえてきそうだ。


 この魔法は確かに凄い。

 ――だが、ちょいと正直すぎる。

 もう見るのも三度目だ、この魔法の癖は掴んだ!


「はっ!」


 俺は体中の筋肉を巧みに使いこなし、水龍をウォルテミアの方に跳ね返した。


「な、何が起きたんだー!? 水の竜が突如ウォルテミア選手に反旗を翻したぞ! まさか、ユーリ選手の反射魔法でしょうか!?」


 違う、筋肉魔法だ。

 俺は内心で司会の言葉を訂正する。


「!?!?」


 ウォルテミアは戸惑いながらも、俺が弾き返した水龍を水の盾で防いできた。

 ――だが、防ぐのに必死で俺への警戒が疎かだな。


 俺は一瞬でウォルテミアに詰め寄る。


「っ!?」

「チェックメイトだ」


 逃げ出されないよう左手でウォルテミアの腕をつかみ、右手で渾身の一撃を叩き込む。

 俺の一撃をモロに喰らったウォルテミアの体は吹き飛び、そのまま起きあがって来ることはなかった。


「あまりの出来事に私もしばらく呆然としてしまいました。ユーリ選手、ウォルテミア選手を打ち破り、見事優勝ですっ!」



 俺は優勝した。

 閉会式では特に何もなかった。お偉いさんから労いの言葉を贈られただけだ。


 あ、あとババンドンガスにはお祝いの言葉を言われたな。

「妹が勝てなかったのは悔しいが、いい試合だったぜ」とか言われた。

 ババンドンガス、いかついけど良いやつだ。


 俺は式が終わるとすぐにフィーリアと共に宿へと帰った。









「疲れましたねー」


 フィーリアがベッドに飛び込む。四肢を伸ばしたダイナミックな飛び込みだ。

 ボフン、とベッドがこもった音を立てる。


「あ、優勝おめでとうございますー」

「ああ」


 フィーリアはそう言うが、俺としては少し物足りなくもある。

 たしかにウォルテミアは強くはあったが、死神には及ばなかった。


「戦いよりも閉会式の方が何倍も疲れた。よくあんな無駄なことをやるよな。お偉いさんの話なんて何も楽しくない」

「後半は同意しますけどね」

「前半は?」

「意味が分かりません」


 意味は分かるだろ。


「あ、そうだ。あのおまえが大会でやってたあれ、あの風のやつ」

「ああ、『風神』ですか? あれがどうかしました?」

「あれ、俺にも撃ってくれよ。面白そうだ」

「嫌ですよ。あれすっごい疲れるんですもん。タメも馬鹿みたいに長いですし、不完全な技なんですよ」


 心底嫌そうな顔をされた。……けちんぼめ。

 しかし、風神を撃つ前に立ち尽くしていたのはタメのためだったのか。……あ、今の面白いな。


「全っ然面白くありませんよ?」


 フィーリアに軽く鼻で笑われる。

 また勝手に俺の心を覗きやがって。それなら俺だって考えがあるぞ。


「フィーリア、今から俺の心を覗いてくれ」


 俺はそういって妄想に取り掛かった。相手はもちろんフィーリアだ。

 俺はフィーリアを辱めるために、想像力の限りを尽くす。

 具体的には、手をつないだり、見つめ合ったりだ。

 流石に俺でもキスまではできない。妄想の中とはいえ、刺激が強すぎる。


 しばらくそうやって妄想をした俺はフィーリアの方を向く。

 おそらく顔を真っ赤にしているだろうと期待をしながら。

 これは俺を馬鹿にした罰なのだ。


「……え? これで私を辱めたつもりなんですか? へぇー」


 なぜかニヤニヤと笑われた。なぜだ? 


「お前、手までつないじゃってるんだぞ? 恥ずかしくないのか?」


 ちなみに俺は恥ずかしい。


「……ユーリさんってそんな外見なのに、意外と純情なんですね。ちょっと可愛いです」


 フィーリアはからかうような意地の悪い顔を俺に向けた。

 ますます馬鹿にされている、だと……?


「なんでそうなる! どこもおかしいところはなかっただろうが!」

「そうでちゅねー。ユーリさんはとってもえっちな子でちゅねー」

「その話し方を止めろ!」

「あ、ユーリさん」

「なんだ?」

「優勝、おめでとうございましゅ」

「だからなんでさっきから赤ちゃん言葉なんだよ!」


 結局その日は散々からかわれた。

 俺が純情なんじゃなく、フィーリアがませているだけだと思った俺だった。




二章『魔闘大会編』はこれにて終了です、次話からは新章に入ります。


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