21話 魔闘大会
時は流れ、大会当日。
フィーリアが起きてきたので、朝食をとる。ちなみに食事は交互に作っている。腕は大差ない。
「いい感じに仕上がったんじゃないか?」
「この二週間で何回死んだと思ったか……。二度とやりたくありません」
フィーリアはわざとらしくブルブルと震える。
修行中は真面目なくせに……オンとオフはしっかりできているのはいいことだが。
「大会終わったら修行止めちゃうのか。もったいない」
「しばらくは戦闘訓練はせず、新魔法の開発に努めます」
「へぇー。いいな、そういうの。俺も久しぶりに新魔法考えるかな」
「まだ魔法って言い張るんですね」
「事実だからな」
朝食を食べ終え、コロッセウムに向かう。
コロッセウムまでの道のりは人であふれていた。
その人の多さに商機を見出したのか、屋台が所狭しと立ち並んでいる。周囲にはいくつかの屋台の匂いが混ざり合った複雑な匂いが漂っていた。
下手なお祭りよりも人気が多いのではないだろうか。
「すごい人ですねー。人間は他人が戦ってるのを見るのが好きなんですか?」
フィーリアは人ごみを見て銀色の目を丸くする。
口をぽっかりと開け、心底驚いた様子だ。
「そういうやつも多い。エルフは違うのか?」
「エルフは基本的に争いを好みませんからね」
そういうものなのか。
フィーリアの戦闘に対する意識の低さもそこからきているのだろうか。
コロッセウムに到着するまでの間そんなことを考えた。
コロッセウムに着き、選手控室に通される。
まずは予選が行われるらしい。Bランクは本選から参加するようなので、今ここにいるのはCランクかDランクと言うことになる。
控室には数十人がピリピリした雰囲気を醸し出していた。決勝に進めるのはこの中で七人ということだ。
俺は部屋全体を見回して選手を値踏みする。……見た感じ、フィーリアより強い奴はいないな。
ちなみにフィーリアの今の実力はブロッキーナに問題なく勝てるくらいだ。
実力だけで言えばAランクにギリギリ届くかどうかといったところだろうか。
始まるまではまだ少しかかりそうだ。
……暇だな。時間を持て余すのももったいない。
「よし、いっちょやるか!」
皆がピリピリした雰囲気で椅子に座っている中、俺は部屋の隅で筋トレを始めた。
暇さえあれば筋トレ。筋トレは裏切らない。
ちなみに筋トレを始めてからフィーリアには他人のふりをされた。失礼な奴である。
「時間になりましたので、選手の方は移動してください」
係員に告げられ、俺達は会場に移動する。
千単位の人を収容できそうなコロッセウムは、その大きさにも関わらず人で埋め尽くされていた。
司会が話すところによると、この大会を見る為に国中の人が押しかけているらしい。
「ではこの大会の説明を始めさせていただきます! まずは予選です。予選ではこちらが選手の方をいくつかのグループに分けまして、そのグループ内で戦ってもらいます。最後に残った一人が決勝進出!と、こうなるわけですね」
司会は二本の指を立て、チラリとこちらを見る。
「ちなみに決勝トーナメントに出た方はCランクの依頼が受けられるようになります。今回はDランクの方が二名参加されているようですので、その方々にはぜひ決勝トーナメント進出を狙ってほしいところですね!」
Dランクの参加者は俺とフィーリアだけらしい。まあそれも無理もないか。
というのも、この街の人間はDランクになると他の街に行ってしまうのだ。
魔闘大会で本選に出場するよりは他の街で地道に依頼をこなした方が確実性があると考えてのことらしい。
だが俺に言わせれば全くのナンセンスである。
どうせなら目の前の敵を全員倒すくらいの心意気を持っていなければ強くはなれないと思うのだが。
司会は笑みを絶やさず説明する。
「また、Bランクの方の参戦は決勝トーナメントからになります。決勝トーナメントからはさらに大会のレベルが上がりますから、見逃さないようにしてくださいね」
「それからですね……」と司会は手に持った台本のページをめくり、再び説明にはいる。
「ご存知の方も多いとは思いますが一応説明させていただきますと、コロッセウムには戦女神の祝福が施されております。その結果としてこの会場では戦闘が原因で死ぬことはありません。死ぬ代わりに気絶するという形になります。凄腕の回復魔法を使える魔法使いをこちらで用意していますので、参加者の皆様は安心して戦ってくださいね!」
「それでは、戦闘大会開始です」と言って司会は参加者の名前を呼ぶ。そこには俺の名前もあった。
「……以上の方でバトルロワイヤルを行っていただきます。呼ばれた皆様はドームの中央にっ! それ以外の方は一度控室にお戻りくださいー」
場に残った者を観察する。
俺を除いて男が四人、女が二人。
見た限りでは弱そうだが、油断は禁物だ。
強者は得てして強者の匂いを隠すのがうまいもの。実力を隠している者もいるかもしれないからな。
俺は万が一の為に、リミッターをはずして構える。
俺の筋肉ははちきれんばかりに膨張した。
「それでは予選第一試合を行います。……試合、開始!」
司会の声がコロッセウムに響き渡った。




