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195話 戦友と親友

 向かい合った俺とイストルティ。

 先に動いたのはイストルティだった。


「さっさとケリをつける。貴様は俺を愚弄した」


 そう言って指を口に咥え、甲高い音を鳴らす。


「ぐ……っ!?」


 思わず顔をしかめる。

 なんでだ……? さっきよりも十分な距離を取ったはずなんだが、高揚が抑えられねえ……!

 ……そうか、さっきより音量がでかい分、威力も高えってことか……!?


「ぐああ……っ!」


 頭が痛い。胸もだ。

 身体の中をグチャグチャにかき混ざられてるみてえで気持ちが悪い。


「そうだ、そのまま狂え! 他人と仲良くなるようなヤツは狂ってしまえ!」


 口笛拭きながら喋るとか、器用なことやってんな。

 そんな風に思考を逸らすが……痛みが治まらねえ。マジでまずいぞこれ。

 とうとう身体が勝手に動き始めてきやがった。


「ああア……ッ」

「くくくっ、いいぞ! その調子で狂え!」


 くっそ、どうすりゃいいんだ……!?

 筋肉はイストルティと戦いたがってるはずなんだ。

 ただ俺の心がアイツに乱されて……ん?


 そ、そうか!

 そういうことかよ!


「……」

「……何? 止まっただと?」


 暴走状態になりかけた俺の身体はピタリと止まる。

 そして拳を構え――ピストル拳を放った。


「なっ!? ぐああッ!?」


 俺の反撃を予期していなかったイストルティの腹部に命中する。

 躱されたせいで半分くらいの威力しか伝わってねえようだが……まあいい、あの耳障りな口笛は止んだ。


「……き、貴様何をした! 一度あそこまで行ったら後は流されるだけなはずだぞ……!」


 そうか、不思議か。

 なら教えてやるよ。


「筋肉がよぉ」

「?」

「筋肉がよぉ、止めてくれたんだ」

「……?」

「一番近くにいた俺の親友が、俺のことを諫めてくれたんだよ」

「…………?」


 おい、なんで伝わんねえんだ?

 こんなに詳しく教えてやってんのによ。


 つまり、俺は身体の操作権を筋肉に受け渡したんだ。

 あの『聴覚扇動』とやらは俺には効いちゃいたが、筋肉には効いてなかった。

 俺が暴走状態にされていても、筋肉たちは冷静だったわけだ。

 そして各筋肉それぞれの判断で動き、身体に染み込んだ動きであるピストル拳を撃ち放った。


 あっぱれだろ? さすが最も長いこと付き合いのある親友なだけはある。

 なのに、この懇切丁寧な説明でそれを理解できねえとは……。


「イストルティ。さてはお前、頭良くねえな?」

「それは絶対お前だ」


 何だコイツ、そんなわけねえだろ。


「さて、第二ラウンドと行くか。言っとくが、その口笛攻撃はもう二度と俺にゃ効かねえぜ」


 対処法を編み出しちまったからな。

 すぐさま策を閃くこの俺のインテリと、筋肉のマッスルがかっちりと噛み合った。

 これこそが正真正銘のインテリマッスルだ。


「今の俺は過去最高にインテリマッスルしてるぜ。真のインテリマッスルに勝てると思うなよ、イストルティ」

「さっきから貴様が何を言ってるのか全く分からないんだが」

「こっちのセリフだ」

「なんでだ。絶対俺のセリフだろうが!」


 駄目だなコイツ、会話ができねえや。


 俺は拳を構える。

 イストルティは魔力を高める。


 そしてぶつかりあった。

 俺は拳で。イストルティは魔法で。


「おらああああぁぁぁッッ!」

「はあああああぁぁぁッッ!」


 イストルティ、一人で強くなってきたっつうお前の根本は俺には否定できねえ。

 なんせ俺もそうだったからな。

 森を出るまでの俺も一人で生きてきたし、正直他人なんてどうでもいいと思ってた。

 だからだろうな、俺にはお前が昔の自分とかぶってしょうがねえんだ。

 さながらお前は森を出ないまま成長した俺ってわけだよ。


「……そんなヤツが相手じゃ、いつにもまして負けられねえよな。それに、負ける気もしねえぇぇッ!」

「グハッ……!」


 魔法を潜り抜け、拳をぶち込む。

 またも直撃じゃねえが、命中は命中だ。

 イストルティは壁に叩きつけられ、床に座り込んだ。

 俺はすぐさまそこに接近する。


 この戦いだけは絶対に負けねえぞ。

 ここで俺が負けるってことは、フィーリアたちと出会って弱くなったってことだ。

 そんなことはありえねえ。俺はそう信じてる。


「がふっ……す、全て捨てろ! そうでなければ強くはなれない! 人は一人で生きてこそ強くなれるんだ!」

「つくづくお前は俺に似てるよ。俺も前までは捨てなきゃ強くなれねえと思ってた。だけどな――」


 ジジジ、と電子音がする。

 それに続いて、聞きなれた声が建物内に響き渡る。


「ふう……っと。これで大丈夫ですね。塔に備え付けられた魔石から生じている魔力の流れを(いじ)って、本来外に拡散されるものを塔内で閉じ込めることに成功しました。さすが私、見事な魔力コントロールです」


 どうやらそうやって弄繰り回した結果、フィーリアの声は塔内に響いているようだ。

 しかもこの独り言からして、フィーリアはそれに気づいていないらしい。


「あとは本当ならユーリさんに加勢しに行きたいところなんですけど……んー、万が一ユーリさんが隙を突かれて突破された時のために、私はここにいた方が良さそうですかね? 私がここで足止めすれば、ユーリさんが追いついて挟み撃ちできますし。うん、やっぱりここにいることにしましょう。でもそうすると、暇になっちゃいますね。……祈っておきますか。頑張れ~、ユーリさん~!」


 そんな声に、思わず頬が緩む。

 聞こえてねえと思ってんだろ? 聞こえてんぜ、フィーリア。


「――他人から気持ちを託されることが強さに繋がるってこともあるらしいぜ? 不思議なもんだな、人間ってのはよ」


 渾身の一撃を、イストルティの腹にぶち込んだ。


「……ッ!」


 イストルティは声も出せずに、まるで爆発したかのように吹き飛ぶ。

 そして廊下の壁にめり込む。

 それきりイストルティは動かなくなった。


 多分死んじゃいねえと思うけど、でもまあ当分は動けねえだろ。

 これにて一件落着ってわけだ。


「……俺の負けだ。降参だよ」


 おお、まだ意識あんのか? さすがに体は言うこと聞かねえみたいだが。

 さすが魔人、頑丈な身体してんなぁ。


「うわ、凄い揺れ! 戦いが終わったっぽいですかね? さっきまでヒリヒリ感じてた大きな魔力が静かになりました。無事に勝てたみたいですね、ユーリさん」


 その声がこっちに筒抜けになっているとも知らずに、随分暢気なヤツである。

 いやまあ、知らないんだから仕方ねえけどさ。


「よいしょっと……じゃあユーリさんを迎えに行きますか。あと私のすべきことは、あの人が笑って帰って来れるような場所になることですかね。はぁー、私ってつくづく良い女ですねー。ユーリさーん、こんな良い女放っておくと誰かにとられちゃいますよー……なんちゃって」


 それきり音声は途切れた。


「……おいイストルティ。気まずいんだが、どうにかしろ」

「俺に言うな、俺の方が気まずい」


 ……この野郎、最後にそれだけ言って気絶しやがった。

 残った体力をその一言に込めるので正解だったのか? 多分間違ってると思うぞ。


「……なんつーか、締まらねえなぁ」


 一人呟く。返ってくる声はない。

 でもまあ、勝ちは勝ちだ。

 ありがとなフィーリア、お前の応援が俺の背中を押してくれたぜ。

 この勝利、戦友のお前と親友の筋肉に捧げさせてもらう。

新作を投稿しました!

下にリンクを張っておくので読んでもらえると嬉しいです!


◆タイトル◆

かつての天才剣士、チート武器『ひのきのぼう』を手にして最強に


◆あらすじ◆

街で一番の天才剣士だったアルバート。

しかし彼は五年前、前触れなく剣を扱うことが出来なくなってしまった。

それでも鍛錬を続けていたところ、藁にも縋る気持ちでたどり着いた洞窟で『ひのきのぼう』を手にする。

だがアルバートは知らなかった。ひのきのぼうには、美少女の人格が宿っていたことを。


「妾はお主が今しがた抜いた木の棒の――『ひのきのぼう』の人格じゃ」

「ひのきのぼうの……人格ぅ?」

「左様。ひのきのぼうは聖剣じゃからな!」

「棒なのに?」

「む? じゃあ聖棒じゃ!」

「なんか適当だなおい……」


――かくして、かつて天才の名をほしいままにした剣士と、ひのきのぼうの人格を名乗る謎の美少女との大冒険が幕を開ける。

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