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189話 地竜車の中に逃げ場はない

『本日は闘技場で魔人同士の戦いが観戦できます。出場希望の方は三番ゲート、観戦希望の方はそれ以外のゲートで――』


 国の中でも魔王城に次ぐ高さの建造物である放送塔からは、声高に何度も今日の闘技場大会の詳細が繰り返されている。

 完全に一大イベントだな。


「ああ、そういえば」


 地竜車に揺られながら闘技場へと向かっていると、アトワゼルがふと口を開く。


「この闘技場、あなたたちが案を出してくれたと聞いたわ。ありがとうね」

「ああ、それはまあ、こういうのを見たことがあったからな。たまたま知っていただけだ」


 俺が考えたシステムというわけでもないしな。

 ただ知っていることを教えただけなのだから、わざわざ感謝されるほどのことではない。インテリマッスルは博識なのだ。

 しかしそれを聞いてもなお、アドワゼルは嬉しそうな顔をのぞかせる。


「私はね、ユーリくん。私たち魔国の問題に人間であるユーリくんが案を出してくれたというのがうれしいのよ。魔人と人間とが手を取り合って発展していく。それが私たちの思い描く未来だから」

「その通りであるな。ロリロリが大人になったころにはそんな光景が普通になることを目標に、我らは日夜政務に携わっているのだ」


 ほう……まさか二人にそんな目標があったとはな。

 素晴らしい目標じゃないか。うん、いいと思うぞ。


「ガルガドルも意外と立派なんだな」

「意外は余計だ。我は真っ当に立派であるぞ」

「そうか、じゃあ俺と同じか」

「ユーリさんは真っ当に筋肉です」


 なんだフィーリア、突然褒めるなよ。嬉しくなっちゃうじゃんか。

 どうだ、触るか? 俺は鍛え上げた二の腕をフィーリアに近づける。

 これほど鍛え上げた二の腕はなかなか見られんぞ。モリモリと隆起している。もはや二の腕どころか三の腕、四の腕だ。

 ……ん? おかしいな、なぜ飛びついてこない?


「おいフィーリア、俺の四の腕を触りたくねえのか?」

「そんな聞いたことのない名称のものは触りたくありませんよ。もし触らせようとしてきたらダッシュで逃げます」

「安心しろ、ここは地竜車の中。お前に逃げ場はない」

「なんてことでしょう、目の前が真っ暗になりました」


 フィーリアはわざとらしく絶望に染まった演技をする。

 ぽかんと開いた口がなんだか間抜けな感じだ。

 しかし俺はそれよりもむしろ、フィーリアの真っ白な二の腕に注目した。細くてスラッとしている。筋肉のオーラがちっとも感じられない。


「なんだお前の二の腕は。それじゃ一の腕じゃないか。信じられん」

「四の腕とか一の腕とかさっきから言ってることが何一つ理解できないんですけど、もしかして使用言語変えました?」


 なんてこった。

 こんなにも片時も離れず一緒にいた俺たちだというのに、まだ俺の言っていることは伝わってくれないのか。

 人と人とが分かり合うことの難しさを痛感させられるな。


 かと思えば、前の席ではロリロリを挟んで夫婦のイチャコラが始まっていた。


「そうよね、ガルガドルって意外と立派なのよね。あとは意外と男らしいし、意外と紳士的だし……それに、意外と一緒にいて楽しいわ」

「アドワゼル、お前というやつは……! 我の妻となってくれて本当にありがとう。愛している」

「あらあら、やめてよあなた。ユーリ君たちも見てるのよ? 照れちゃうじゃない」


 や、やめろやめろ、地竜車の中で愛の言葉を囁き合うのはやめろ! 俺たちもいるんだぞ!

 ……おい、なんだその視線は。夫婦そろってこっちを見やがって、この状況に対して俺が何か言うべきなのか?

 俺には荷が重いぞそんなの。


「あ、あー……仲睦まじいのは、素晴らしいことだと思うぜ、うん」

「大丈夫だぞ母上、ユーリの方が照れてるから! ユーリはそういうところがある!」


 うるさいロリロリ、余計なことは言わんでいい。

 それに照れてるというなら隣のフィーリアだってそうだろうが。

 頭から「ぷしゅぅぅ……」って音がでてるんだぞ。多分脳の回路が焼き切れてるんだ、そこそこの重傷だぞ。

 ロリロリはぴょんと座席の上を跳ねるようにして後部座席の俺たちの方を振り返ってくる。


「父上と母上はいつもラブラブなんだぞ! おしどりふーふって言うんだって!」

「ロリロリ様のおっしゃる通り、魔王様とお妃様はとても仲睦まじくいらっしゃいます。魔国の民にとっても嬉しい限りです」


 うん、まあそれはいいことなんじゃないか?

 ロリロリにとってもいいことだろう。子供は親の姿を見て育つらしいからな。

 もし俺に子供が出来たら、俺と筋肉の相思相愛ぶりを見せて子供を正しい道に導いてあげたいと思うぜ。

 ……ん? どうしたロリロリ、そんなニコニコこっちを見て。

 面白いことでも思いついたのか? 俺にも聞かせてくれよ。


「ユーリとフィーリアもなれるといいな! おしどりふーふ!」

「!? な、なに言ってるんですかロリロリちゃん!」

「そ、そうだそうだ!」


 ふざけたこと言うな、そういうのはまだ早いだろ! そうだよなフィーリア!?


「~っ! ま、まだって何ですかユーリさんっ」


 お前もお前で心を読むんじゃない!

 勝手に心を読んで勝手に照れるな! どうしたいいかわからんだろうが!


「あはは! 二人とも顔あかーい!」

「おやおやぁ」

「あらあらぁ」

「その時を楽しみにしておりますね」


 やめろお前ら! 全員からかうような顔でこっちを見るな!

 頼むからしばらく黙ってくれ!


「地竜車に乗っている間はあなたたち逃げ場はないわよ」

「じゃあ早速、二人の馴れ初めを聞かせてもらおうかな?」


 なんでそんなことを話さなきゃいけねえんだよ!

 なんだよこの地竜車、王族用にしては異常に乗り心地が悪いんだが!




「お、着いたみたいだな。名残惜しいが、ここまでか」


 地竜車が停車すると同時にガルガドルがそう言う。

 や、やっと解放された……地獄のような時間だったぞ……。

 トレーニングより俺を疲弊させるとは、魔人の力ってのは底しれねえな。


「つ、疲れましたねユーリさん……」

「そうだなフィーリア……」


 フィーリアと互いの健闘をたたえ合う。コイツら相手に良く戦ったよ俺たちは。

10月23日(火)にコミック版の1巻が発売されます!

ノリと勢いだった原作に、ノリと勢いが加わってます!

本屋さん等で見かけたら、手に取ってもらえると嬉しいですー!


次回更新は17日です!

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